『嫌オタク流』と映画秘宝

・『嫌オタク流』とは
 2000年代にオタク文化がブームになった中で、アンチオタク論とも言える変わった本が出版されました。それが映画監督・映画評論家の高橋ヨシキ、小説家・暴力温泉芸者の中原昌也、小説家・ライターの海猫沢めろん、ライターの更科修一郎による鼎談本『嫌オタク流』(2006年)です。

https://www.amazon.co.jp/%E5%AB%8C%E3%82%AA%E3%82%BF%E3%82%AF%E6%B5%81-%E4%B8%AD%E5%8E%9F-%E6%98%8C%E4%B9%9F/dp/4778310012#books-entity-teaser

(このブログはノンアフィリエイトなので変なURLになってしまいました)
高橋・中原がアンチオタク側、海猫沢がオタク擁護側、更科は中立です。前半が高橋・中原・海猫沢の鼎談。後半が高橋・中原・更科の対談になっています。
 それでこの本の評価なんですが、まあ問題だらけの本ですわ。年間読書人様が非常に詳しく読み応えのある書評をしておられますので、詳細な説明はそちらに譲ります。

 読書人様の「中原・高橋こそが保身的な差別主義者だ」という指摘はまさにその通りです。今回の記事では上記記事から漏れた部分で、自分が『嫌オタク流』を読んで感じたことをフワッと書きたいと思います。

・中原・高橋の卑怯さ

 この鼎談に参加した4人も、Amazonレビューも、年間読書人も、全員が見落としている中原・高橋の卑怯さを私は発見しました。それは「中原・高橋は知らず知らずの内に"自分自身"と"オタク"を比較している」という事です。
 考えてみても下さい、中原昌也は文学賞も取った小説家で高橋ヨシキは何十冊も映画の本を出している人物です。そうした人がアダルトゲームをやっている人に対して「お前は自分の妹や障害者(書中ではONEのキャラクターを例示している)に欲情する変態野郎だ」と言っているのです。
 いや、おかしくないか。
 中原は小説家なのだから自分自身と例えば谷川流や西尾維新のようなオタク系小説家と比較すべきだし、ミュージシャンでもあるのだから自分自身と米津玄師(ハチ)やヒャダインのようなミュージシャンと比較すべきです。高橋は映画監督なのだから自分自身を庵野秀明や新海誠と比較すべきです。
 逆にオタクの事を批判するなら"オタク"と"中原の小説の読者や映画秘宝の読者"を比較すべきです。立場を逆にするなら、庵野秀明が偶然中原昌也の小説の読者がアダルトビデオを借りているのを見て「やっぱり中原の読者は人間のクズなんだ、差別しても良いんだ」と言うようなものです。それと同じ卑怯な手を中原・高橋はやっています。

・対談相手も不甲斐ない
 高橋・中原はずっと「最近のオタクは萌えばかりだ」「オタクが政治家に持ち上げられて嬉しがっている」「悔しかったら黒人の萌えキャラを出せ」などと言い続け、対談相手の海猫沢は反論するのですが、何と言うか毅然とした反論ではなく「しぶしぶ肯定」の態度なんですよね。更科は中立的立場なので「オタクの好みは10歳児」などと発言します。
 この4人はオタクは全員アニメオタクですらないエロゲーオタクだと考えていて、しかも葉鍵系(Leaf,Keyという会社の作品)しかプレイしていないと考えているんですね。
 それで自分は読んでいて思ったんですが、海猫沢は高橋と中原にニトロプラスのゲームを勧めるべきだったんじゃないでしょうか。この2人はハリウッドのB級アクション映画やスプラッター映画を好んでいるんですよ。ワッシュさんの名言で、オタクはオタク・サブカル・秘宝(sukebeningen氏はボンクラと呼ぶ)の3つに分けられるといいます。

 それで高橋は映画秘宝のライターそのものですよね。映画秘宝の世界観ってまんまニトロプラスじゃないですか。「オタクは萌え萌え言いやがってクズだ」「いや、オタク界にも映画秘宝みたいなエロゲーありますよ」この2手で詰みじゃないですか。他にはゴア・スクリーミング・ショウとかありますし。
 エロゲー以外でエロアニメなんかどうでしょうか?残念、梅津泰臣の「A KITE」「MEZZO FORTE」がありますね。まんま映画秘宝の世界です。はい終了。


・そもそもエロゲーや萌えが好きで何が悪いのか
 高橋・中原はどうも「オタク=エロゲーマー、しかもメイドや障碍者のような自分より下の存在、あるいは妹のような近親相姦でしか興奮しないクズ」のように考えている節があります。これには3種類の反論ができます。
①Amazonレビューにもあるように、女オタク・腐女子を全く批判していない卑怯さ。そもそもオタク=全員アニメオタクではなく、アニメオタクの中でも全員萌えアニメ好きでもなく、全員エロゲーをやっている訳ではない。
②エロゲーをやっていたとして何が問題なのか。中原・高橋もスプラッター映画を愛好している。同じく映画秘宝の柳下毅一郎は実在の連続殺人鬼のマニアである。そのような人間にただアダルトゲームをやっているだけの人を批判する資格があるのか?
③エロゲーをやっていたとして、それはレンタルショップでアダルトビデオを借りるようなごく自然な行為だ。もちろん中原の読者や映画秘宝の読者も100パーセント何らかのアダルトコンテンツを摂取しているだろうし、アブノーマルな性癖のものも含まれるだろう。「ショック!残酷切株映画の世界」等の高橋の著書によって読者がアブノーマルな性癖になってしまった場合、高橋はどのように責任を取るのか?

 ロマンポルシェのロマン優光はこう言っています。

中原さんやヨシキさんは強烈な個性を持った創作者やライターであり、自分の思想から萌えオタ批判をしているわけですが、二人の萌えオタ批判を面白かってオタクを馬鹿にしているような人の大半が、萌えが好きでないという以外はオタクと変わらないような人なのではないでしょうか。『映画秘宝』の読者にたまにいるような金髪グラマーが好きな人なんて、二次元美少女が好きな人と本質的には全然変わらないと思いますよ。日常で出会う現実的な女性ではなくてファンタジーの世界に自分の欲望を投影しているという面では全く同じだと思います。

間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに 180p

 映画秘宝系とは何か、それはアメリカとハリウッドが大好きで大好きで仕方がない人たちの事です。銃・爆乳ギャル・筋肉・ゾンビ・爆発など、10歳児並みの好みの世界です。そんな彼らが好きなハリウッドは日本のオタク文化が大好きです。日本原作の漫画・特撮作品がハリウッドリメイクされることは日常茶飯事です。タランティーノのようにオタク文化が大好きな人も大勢います。日本のオタク文化が優れているからです。エロアニメの「A KITE」すらハリウッドでリメイクされています。オタク系作品に比べてたら中原の小説や高橋の映画の知名度はハリウッドでは無に等しいでしょう。お二人はこの差についてどう考えられるのか?
(攻撃的な文章ですが、『嫌オタク流』では遥かに厳しい言葉でオタク批判をしているので、あえてこのような表現にしました)

・納得できる部分もある
 ここからは話題を180度転換してこの本の擁護をしたいと思います。まず、当時は確かに「ローゼン麻生」のように萌えが好きだから自民党に投票しようというような主張をネットでよく見かけました。こうした「オタクだから自民に投票しよう」という呼びかけは、不倫スキャンダルがあった山田太郎議員のように現在も続いています。私もそれはおかしいとは思っていますし、良い着眼点だと思いました。
 「なぜオタクは泣きエロゲーをするのか。感動して"オタクは純粋なんだ"って言いながら障碍者でオナニーするのはおかしくないか」という主張は確かにその通りです。この論点を伸ばしていけば、後の宇野常寛の「レイプ・ファンタジー」批判を先取りできたでしょう。
 が、高橋・中原のオタク知識が少なすぎるせいで、飲み屋での馬鹿話以上に話を進めることが出来なかったんですね。当時は電車男ブームで変にオタクを持ち上げる風潮がありました。その風潮とこの本を足して2で割ることでようやくまともな視点になるとは思いますね。とにかく、知識不足!これに尽きる本でしょう。

 最後になりましたが、中原昌也さんの脳梗塞からのご快復と今後のご健康を心よりお祈り申し上げます。