戯曲「アメリカンコーヒーの誕生」
"のどごし生"の"金麦"割りという新時代のカクテルを試してみましたが、特に感想はありません。
さて、今回は戯曲に挑戦です。
戯曲「アメリカンコーヒーの誕生」です。
ある朝の食卓。
日本の庶民の家庭。まだ朝は肌寒い季節。
両親の真似をして、ブラックコーヒーを飲みたがる小学生の息子。
コーヒーを淹れるのは父親の仕事。
父「じゃ、おまえはアメリカンね」
子「うん」
母「おとうさんと、おかあさんは普通ね」
3つのカップが運ばれてくる。
父親と母親も一口すすり、息子も口をつける。
父「どうだ?苦くないか」
子「うん。飲める」
母「苦いでしょ」
子「まあね。でも、おいしいよ。ところでさ」
と、息子は顔をあげる。
母「なあに?」
子「なんで“アメリカンコーヒー”っていうの?」
母「ああ、薄めのコーヒーのことをアメリカンっていうのよ」
子「いや、そうじゃなくて、なんで・・・」
父「それはだな、歴史を紐解かねばならん」
母「もー、お父さん手短にね」
ここから父親と母親の漫才が始まる。
父「アメリカはもともとイギリスの植民地じゃった。その頃はアメリカ人もイギリス同様に紅茶の方を好んでおった」
母「なんで、そんな口調なのよ」
父「エヘンっ。1773年のことじゃ。イギリスはアメリカに対して紅茶に関税をかけると言いはじめたのじゃ。」
母「手短に」
父「当然、アメリカ人は怒ったね」
母「口調が戻ったわね」
父「怒ったアメリカ人はだな、ボストンに停泊していたイギリスの船の積み荷の紅茶の箱をボトン、ボトン、ボストン!っと海に投げ込んだのだ」
母「いま、ダジャレぶっこんだ?」
父「これが、世に言うボストン茶会事件じゃ」
母「ていうか、いつお茶会開いてたのよ?」
父「しらん。1773年だろう」
母「アバウトね」
父「そんなわけで、アメリカはイギリスとけんかして、もう紅茶は飲まない!と、心に決めたね」
母「なんで、そこだけ一人称?」
父「でもだな、紅茶に変わる何かは飲みたいよね」
母「それでコーヒーにしたのね」
父「そう、それ俺が言おうとしてた」
母「はいはい、黙ってますよ」
父「それで初めてコーヒーを飲むアメリカ人はだな、こんな感じだ」
急にかしこまって、貴族っぽい振る舞いの父親。役どころを感じ取って、控えめに佇まいをなおす母親。
父が扮する主人「これがコーヒーか。香ばしいぞよ。紅茶よりなんというか“働く感”がある。焦げた感じがそう思わせるのか」
母が扮する執事「さようですね。香ばしいですね」
父が扮する主人「ま、ひとつ味わってみるか」
で、コーヒーに口をつける。
父が扮する主人「苦っ!!にがっ!薄めよっ!薄めよっ!薄めよっ!」
母が扮する執事「は!、ほんとだ苦っ!」
父が扮する主人「水!水!ってか、お湯!」
母が扮する執事「は、はい、こちらに」
慌てて母が扮する執事が、お湯を注ぎたす真似。
父が扮する主人「はー、飲める。でも、もうちょいか」
母が扮する執事「そうですね、もうちょいお湯足します」
さらにお湯を注ぐ母が扮する執事。
お湯が注がれたカップを再び口元へ運ぶ父が扮する主人。
父が扮する主人「うーん、これぐらい」
母が扮する執事「ちょうど半分ぐらいですね」
父が扮する主人「うむ。じゃ、ハーフコーヒーとしよう」
母が扮する執事「いや、それじゃ半分しか入ってないみたいでケチ臭いですね」
父が扮する主人「そうか、じゃ2倍コーヒー」
母が扮する執事「いや、おかしいでしょ。何が2倍なんですか?」
父が扮する主人「そうか、それもそうだ」
母が扮する執事「ご主人様、それは私たちのようにアメリカに移住した人が発明したアメリカンコーヒーでいいんじゃないですか」
父が扮する主人「いいねぇ、それ」
笑顔でにっこりする母。
父「よいか、せがれよ。これが、アメリカンコーヒーの誕生だ」
無表情な息子。
子「ふ~ん。わかったけど。なんでアメリカンなの?」
父「ん」
子「いや、面白い話だったけど、聞きたいのはそれじゃないんだ」
父&母「は?」
子「だから、"アメリカ"コーヒーじゃなくて、なんで"アメリカン"なの?」
面食らう父と母。
母「あー、そう言うこと?"アメリカの"、ってときは"アメリカン"なのよ」
子「へぇ、そうなんだ」
父「なんだ、それが疑問だったのか。"アメリカの"とか"アメリカ人"とかそういうのを"アメリカン"っていうんだ」
子「なあんだ、そういうことか」
母「こっちこそ、なんだよ〜」
父「おれの話無駄だったじゃないか」
母「それはいつものことでしょ」
コーヒーを飲む、3人。
母「じゃあさ、"イギリスの”って、なんていうかわかる?」
子「えーと」
子供を見つめる父親と母親。
子「イ、イギリスン?」
母&父「イギリスン??」
母「じゃ、私たちが飲んでるコーヒーはイギリスンコーヒーね!」
今日もさわやかな朝が始まります。
(END)
フィクションですよ
この歴史の事件を交えたエピソードは、高校の先生に聞いた話ですが事実とは言えないつくり話のようです。実際はもともとアメリカでは浅煎りのコーヒーが普及していたとかなんとか。
そもそも、カフェアメリカーノはお湯割ではないし、アメリカでは「アメリカンコーヒー」という言葉自体が通じないそうです。
でもアメリカンコーヒー飲みながらホットドッグでも食べてると、どことなくアメリカンな気分になります。思い込みってそんなもんです。
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