眠れぬ夜 過ぎ去るランナーらを眺めては思ふ

つくばで僕の周りを走り抜けていった多くのランナーたちのように、頭の中でめまぐるしく様々な思い、不安、悩み、恐れ、切望や苦い思い出たちが通り過ぎてゆく。パズーの小屋からバタバタバタと飛び立ってゆく白い鳩たちみたいに、慌ただしく目の前を過ぎ去って消える思念。

やれやれ、昨夜もほとんど眠れなかった。

ほんの少しは眠れたのか、全く眠れなかったのか、それすら朧げで苦しい夜だった。眠れないことがこれほどにしんどいとは。

僕は悩んでいる。

人生で一番の悩みどころだ。そりゃあ眠れなくなるのだって仕方ない。それなりに大きな悩みだから。

しかし時代はゆっくりと、大きなうねりを伴って力強く方向転換しようと動いている。大きな力が働いていて、もう誰もその変化を止めることはできない。僕は少し遅れるようにしてその波に捕らわれていくのか、あるいは変化を誘導するような旗手となるのか。わからない。

マラソン中に、小さな女の子がくれた飴玉を、ふいに飲み込んでしまった。飲み込んでしまった飴はもう、口の中へは戻ってこない。胃の中でどのように溶けていくのか、その胃の持ち主である僕にはそれすらわからないのだ。

完全なる不透明。挙句、その先の運命は僕以外の誰かが握っている・・・のだとしたら? 僕はただ手をこまねいて待つしかないのか? 僕に運命を変えることはできないのか? 現代におけるこの日本という国にはポリアモリーなんてご都合主義の異常な思想なのか?

僕にはわからない。

多くのゲイやレズビアンが戦ってきたからこそ今がある。時代の変わり目にはいつだって痛みがつきものだ。多くの犠牲と悲しみがあり、そして今もそれは続いている。でも、時の流れのその曲がり角に彼らの流した涙が楔のように爪痕を残したから、今、世界は潮目を変えて動こうとしているんじゃないのか。

沈黙は降伏の意思表示。

僕が口をつぐめば笑うのは誰か。僕が黙って時代の流れに身を任せたままにしておいて喜ぶのは誰か。僕は悩む。まるでゴールのないマラソンを走るかのごとく、顔を濁らせて宙を睨む。

まだ、負けない。

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