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「●んぽ材」ってなぁに? ―明日使えぬ豆知識①―


 前回の更新から、実に2か月ほどの期間が空いてしまいました・・・。

 これまでの遅れも取り戻すべく、この1カ月は昨年以上の勢いでもって、毒にも薬にもならぬ文章をただひたすらに書き連ね通す所存でございます・・・。あなかしこ。


 さて、そんなわけで今回は小学生もビックリな豆知識。

 江戸時代の林業についての うんちく で御座います。どうでもいいですが今「く」って書くか30秒くらい迷いました。うんちうんち。



 閑話休題。


 江戸時代から明治時代にかけて、生産された原木(=丸太)の多くは、そのまま現地で6~7つほどにミカン割りがなされ、三角柱状に加工した状態で流通に載せられていました。

(参考画像)

 中本製箸株式会社HP(http://po5.nsk.ne.jp/nakamoto/seizou.htm)より引用

 こんな感じ。


 この三角柱状に加工された木材のことを、 「寸甫材(すんぽざい)」 と呼びます。

 この寸甫材、材質の識別や船への積み込みのしやすさ等々から好まれていたものの、造材減り?とやらが多く収益性の問題から徐々に廃れていったそうです。

 大正時代になると産出された原木は割ることなく丸太のままで運搬するという形式が主流となっていたとのこと。

 この辺りを詳しく記載してある資料を見つけることは出来なかったものの・・・文脈を読み取る限り、上に示したよう一旦三角形に割った木材から板材を切り出す以上、「端材」が多量に出てしまうということなのでしょう。


 無駄になる部分が多くなってしまうこの運搬形式は、林業=建造材を産出する産業 としてのみ在った当時の日本では廃れていくのはごく自然な流れであったと思われます。

 船の上に隙間なく積み上げられるこの「寸甫材」、搬送効率は非常に優秀であったはずなのですが・・・今ではもうほとんどお目にかかる機会はなくなってしまいました。残念。




 ところで。


 現代の林業においては「木質バイオマス」というものが注目されつつあります。

 木質バイオマスとは何ぞやと申しますと、林地や木材加工場から排出される端材(本来ごみとして廃棄される残材)等を、石油や天然ガスのように燃焼させることにより熱や電気へと変換し利用する・・・。

 ようは木材の切れ端を燃やすことでエネルギー源として利用しようというものですね。


 京都議定書やらパリ協定やら・・・「持続可能な」というキーワードは今や至る所で取り上げられていますが、無論、この木質バイオマスもその潮流によるものであると言えましょう。


 太陽光や風力等々と並び環境問題への対策の一つとして台頭を始めた新たなエネルギー源、木質バイオマス。しかし注目されるがあまり、近年では少々のめり込み過ぎてしまっているきらいもあるようで・・・。

 どういうことかと申しますと、本来は木材の加工途中に排出される「端材」、いわばごみを再利用がてら発電/発熱を行うことを前提として進められていたこの木質バイオマスですが。

 支援策が過剰に働いてしまったのか丸太そのものを丸々、燃料用チップへと加工してしまうケースが出てきてしまっているのです。

 労力をかけて切り出してきたのであろう、青々とした立派な丸太をあろうことか粉砕機にかけてチップにしてしまう・・・。どうにも本末転倒な光景のように思えてしまいます。


ドイツ在住のジャーナリスト・村上敦も、著書にてこう述べています。

「一番優先順位が低いはずの木質バイオマスを、わざわざ道なき山から下ろしてくるなどという計画は馬鹿げています。まずは単価の高い木材を製造し、製材所で発生するごみを活用するというスタイル以外ではおすすめできません。



 ・・・・・・こうした林業の現状をみると、案外、かつて大昔に「非合理的」として切り捨てられた寸甫材による運搬スタイルというのは・・・現代においては非常に「合理的」であるのかもしれません。

 良質な板材を必要分しっかりと生産しつつ、昨今需要が増しつつある木質バイオマスの確保についても多く望める。しかも運搬効率がかなり良いときた。

 まあもちろん、実際の運搬効率の差やら現地で寸甫材に加工するコストやらを計算すれば実現可能性は低いのでしょうが・・・大昔の技法や道具に思いを馳せるというのは、それだけで案外にワクワクと心が躍るものです。

 年を経るほどに、義務教育時代のお勉強をもう一度受けなおしたいという思いが増していってる気がします。今なら歴史の授業も寝ずに受けられる気がするんだけどなぁ・・・。




(参考)
・熊崎実『木のルネサンス ――林業復権の兆し』2016年、エネルギーフォーラム社
・全国林業改良普及協会『現代林業 2019年2月号』2019年、松尾印刷
・村上敦『キロワットアワー・イズ・マネー ~エネルギー価値の創造で人口減少を生き抜く~』2014年、いしずえ新書
・山口啓二『鎖国と開国』1993年、岩波書店
・中本製箸株式会社ホームページ(http://po5.nsk.ne.jp/nakamoto/seizou.htm)




#エッセイ #林業