「ウグイス」第10話

 ウグイスは、まぶしい光を感じて目を覚ました。そこは一面に広がる、まぶしい雲の上だった。なんてすばらしい開放感!ウグイスは、心もからだもこんなに軽く、何もない、空っぽの感じは初めてだった。そよそよと風が吹いた。風は、キラキラと七色に輝き、楽しそうな笑い声のようにそよいでいった。ウグイスは、首に、からだ全体に、その気持ちいい風を感じて思わず微笑んだ。
懐かしいような、くすぐったいような、変な気分だった。雲の上って、こんなところだったんだ。ウグイスは、かつて見上げていた雲が、今は自分の足元にあるのを不思議そうに眺めた。しばらくすると、雲の上にはウグイスの他にもたくさんいることに気づいた。みんな変だなあ。かたちがないや。ウグイスは思った。そして、ふと自分のからだを見ると、自分もまた、なにもかたちを持っていないことに気づいた。ウグイスは、みんなのそばへと近づいてみた。

みんなは、なにやらさかんに、やんややんやとしゃべっていた。
「私は絶対あれになるわ!いいでしょう?だって、私が一番先に見つけたのよ!」「海を泳ぐのと、空を飛ぶの、一体どっちが最高に気持ちいいだろうね?」
みんなはとても熱心に話していて、そして、興奮していた。なんの話をしているんだろう?ウグイスが不思議に思っていると、突然、空の上から、盛大なファンファーレが鳴り響いた。かたちのない群衆は、それを聞くとどよめきながらも、自分たちの群れの中心を空けるように、周りに引いてゆき、輪のかたちになった。すると、その開けた中心の雲から、にゅーっと白いものが現れ、杉の木のように、ぐんぐんとまっすぐ空に向かって高く伸びた。ウグイスは、それが伸びていくさまを見上げていた。白くて長いものの頭には、桜の花が冠のように花輪になって咲いていた。

「じゅんばん、じゅんばん!さあ、まずはじゅんばんだよ!」白くて高いものは言った。すると、今まで忙しくしゃべっていたかたちのないものたちは、その言葉を合図にてきぱきと一列に並びはじめた。
「さあ、急いで!」白くて高いものが再び大声で言うと、かたちのないものたちは、ひとりずつ白くて高いものの前に行き、何やらやりとりをしはじめた。
白くて高いものは、ひとりひとりと話をするために、いちいち縮んでは伸びてを繰り返していた。縮んだ時に、ウグイスは、白くて高いものの顔が何もないことと、桜の冠の周りには小さなちょうちょが飛び回っているのを見た。かたちのないものたちは、自分の用事が済むとそのままどこかへと立ち去っていった。

「はい、次!」白くて高いものが言った。ウグイスの前には誰もおらず、自分の番だと気づいた。

https://note.com/hoco999/n/n99132e64468f

#創作大賞2023


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