「ウグイス」第11話

 ウグイスは訳がわからず「すみません。わからないんです」と申し訳なさそうに言った。
「ん?決まってないの?」ウグイスの高さまで縮んだ、白くて高いものが、ウグイスの顔をのぞきこんだ。その顔は、どこかで見た、知った顔だった。さっきは顔がなかったのに…。その顔は知った顔だったのに、それが誰なのか、どこで出会ったのかをウグイスにはどうしても思い出せなかった。
「それでは、ここから下をのぞいてごらんなさい。そして、あなたが見えるものから、あなたが選びなさい」白くて高いものは、そういうとウグイスの足元の雲を開き、よく見るようにと指し示した。ウグイスが雲の下をのぞいて見ると、一つの小さな鳥の巣が見えた。そこには、小さなたまごが一つあった。
白くて高いものは言った。「あれは、ウグイスの歌が上手に歌えるウグイスのたまごです」それはいい。ウグイスは思った。そして、ふと他の木を見ると、そこにも鳥の巣があり、同じたまごがあるのが見えた。
「あれは、ウグイスの歌が下手くそなウグイスのたまごです」白くて高いものが言った。ウグイスは思った。やっぱりウグイスとして生まれるのなら、ウグイスの歌が上手い方がいいに決まっている。なんの迷いもなくそう答えようとしたその時、しくしくと泣く声がウグイスのすぐ後ろから聞こえた。ウグイスが振り返ると、後ろには最後のひとりがいたことに気づいた。この子が最後か。ウグイスは思った。ウグイスは、気づかないふりをして、白い高いものに話しかけようとした。すると、ウグイスの後ろにいた最後のひとりは、ますます大きな声で泣きながら言った。
「こわいよう!ウグイスなのに、ウグイスの歌が下手だなんて!いやだよう!どうしてそんなものにならなければならないの?」
ウグイスは、再び振り返ると、最後のひとりをしげしげと眺めた。まだ、ずいぶん小さく、弱々しいかんじがした。いやだよな。ウグイスは思った。ぼくだって、ごめんだもの。ウグイスなのに、ウグイスの歌が下手だなんて。いったい、どうしてそんなものを選ばなければならないのか。ウグイスは、白くて高いものに聞いた。
「他にはないんですか?ぼくは、どちらかを選ばなければならないのですか?」白くて高いものは答えた。「あなたに見えるものが、あなたに与えられるものです。そして、あなたには、じゅんばんがあり、選ぶことができます。たまごはもうかえるころです。さあ、選びなさい!」ウグイスは困ってしまった。後ろでは、おいおいと泣いているし、前では、さあ、さあ!と急かされ、ウグイスはすっかり混乱してしまった。すると、突然、ウグイスはおかしな感覚になってきた。自分が泣きながら、いやだよう!と訴えているのだ。
なんだろう?ぼくはむかし、ぼくではなかったみたい…。その感覚は、ウグイスをますますのみこんでいった。ウグイスは、だんだん不安になってきた。
ああ、ぼくはウグイスの歌が下手くそなウグイスとして生まれなければならないんだ。生まれるとは、なんておそろしいことなんだろう!ウグイスは、不安と悲しみでいっぱいになり、いよいよ声を上げて泣き出そうとした。すると、白くて高いものが言った。「ちょっと!じゅんばんよ!あなたはこっちです!ここであなたがちゃんと選ぶのです!」ウグイスは、はっ!と我に返った。ウグイスの後ろでは、まだ最後のひとりが、しくしくと泣いている。
じゅんばん…ぼくが選ぶ…ウグイスは、やっと白くて高いものが言っていることの意味がわかった気がした。なんてヘンテコな仕組みなんだ。ウグイスがそう思った瞬間、「私はおまえのことをよく知っているんだよ」という言葉が、ひらめきのようにウグイスの頭に浮かんだ。

https://note.com/hoco999/n/n27f247dd75bd

#創作大賞2023




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?