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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本! ※2024.6.18 いったん目標の記事10…
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2024年6月の記事一覧

情景105.「夏の音。鳴き声」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「夏の音。鳴き声」です。 もう夏ですね。 ……あっづい。 おひるどきに乗る電車が結構好きですね。 ひとはまばら。 なんなら、自分以外はいないんじゃないかな、というぐらいに空いている車両で、シートに腰掛けて顔を突き出し、左右の車両をのぞく。 うまくいけば、先頭車両から最後尾まで見通せます。 さらに乗務員室の扉の小窓から、外に広がる線路のその奥までが小さく見えることも。 そうした吹き抜ける場にいるのがなんだか心

情景266.「四文字指令」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「四文字指令」です。 仕事帰りの情景。 四文字で察しあう阿吽の呼吸。 ブタコマ、生姜、キャベツ。……ギリ、中華丼もありえるか? タイミングを見計らい、文言を省いてコミュニケーションを取る。 はじめの頃は、電話したり長文を打ったりして、細かくやり取りをしていたのかもしれません。 それも、回数を重ね、お互いのルーティンが理解していくうちに、タイミングを図るだけであれこれ手間なくできるようになっていきます。 よく

情景245.「二度寝の朝」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「二度寝の朝」です。 みなさん、二度寝は好きですか。 わたしは大好きです。 というより、二度寝は私のルーチンワークです。 六月に入り、網戸越しの風を楽しめる季節になりました。 特に、朝がいいですね。晴れていればなお良い。もしくは、夕方か夜。昼下がりもイイ感じです。 つまり、網戸越しの風とは気持ちがいいものという個人的な感想でした。 窓を開けて、網戸はそのまま。 おひさまと風と音だけを室内へ通すようにして、そ

情景# 06.「住み良しの浜」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景・追録』から「住み良しの浜」です。 実りを得た後の暮らし。 不変と安寧の陽を浴びつつ微睡む自分。 これが正しい。正しいはず……。 なのに。 心の中で舞う澱のような、何かが。 なりたい自分と、今の自分とのギャップ。 求めていたはずの姿と、たどり着いた先で佇む自身のありよう。 坂の上にある一朶の白い雲を求めて必死に駆け上がった……その先で、果たして自分は何をして過ごしているのでしょうか。 この情景は、書き手側である

情景275.「天境線」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「天境線」です。 地平線じゃないんだ? たしか、椎名誠のエッセイで昔、見かけたことがあって……。 とても好きな響き。 「天境線」というフレーズを、実際に小説の書きぶりのなかで使ってみたかったんです。 地面にではなく、天空側に着目したフレーズ。 これはこれで透き通った響きがして好きですね。 この言葉を見かけたのは、確か国語の教科書だったと記憶しています。 調べると、椎名誠さんの「遠く、でっかい世界」で使われて