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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本! ※2024.6.18 いったん目標の記事10…
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2024年5月の記事一覧

情景97.「半透明でおぼろげな」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「半透明でおぼろげな」です。 窓ガラスごしに眺める景色。 窓ガラスが反射して映し出すもの。 重なったときに生まれる情景のこと。 ずいぶんと静かな情景です。 雨が降る日にそれを眺めていただけの、それだけの情景を書き出しています。 ただ、個人的にはかなりお気に入りの情景。 この「半透明でおぼろげな」は、雨が街を潤す景色を眺める、というシーンを描いてみたくて書いたものです。 そうして過ごす時間の、静かでゆったりと

情景133.「光の溜まる場所」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「光の溜まる場所」です。 シンプルに、こういう空間が好き。 胸がすくような。 ここに居たいと思ううちに、時を忘れてしまうような。 夏が来ますね。 ななくさつゆりです。 司馬遼太郎のエッセイ集、『以下、無用のことながら』に収録されているエッセイの中で、司馬遼太郎が博多の承天寺を尋ねた時のものがあります。 いきなり余談ですが、博多の承天寺、ご存知ですか? なにやら、うどん発祥の地、らしいのですが。 具体的に

情景86.「夜陰の風」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「夜陰の風」です。 季節の移り変わりを肌で感じ取ること。 時を忘れ、ひとり過ごしているときにふと、気づいたもの。 私はこういう過ごし方が結構好きなのですが、ヒトによっては退屈なのかも? 私の擦り切れ愛読書の中で、司馬遼太郎御大のエッセイ集『以下、無用のことながら』という一冊があります。 擦り切れ愛読書って何かって? そりゃあ、擦り切れるほど読み込んだ書物のことですよ。 実際、繰り返し読み、付箋も張り、マー

情景55.「半ドン」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「半ドン」です。 覚えてます? 半ドン。 ウチのおひるはだいたい焼き飯でした。 半ドンって、もう死語なのかな。 半分ドンタク(お休み)の略。 小さかったころの私は、土曜日が好きでした。 まァ、大人になっても土曜日は好きなのですが、たぶん好きの理由が変化していますね。 土曜の正午あたり。 下校時間になって学校を出て、家路を辿ります。 家に帰ると、お昼ご飯が用意されていました。 我が家は結構焼き飯が登場しま

情景#04.「山林を抜けた先」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景・追録』から「山林を抜けた先」です。 足もとの土気とぬかるみ。靴底にはりつく赤土。 陽射しをさえぎり、風を通す木立。 山道、歩いてます? 山の舗装路をある程度登るじゃないですか。 すると、駐車場らしき広い場所に出ることがあって、そこに車を止めたとしますよね。 先には、丸太とか加工された木材でそれっぽく整えられた階段らしき坂道がある。 そこから先こそ、山の道。 山の土って、靴の裏とかに結構べったりつきますよね。 砂

情景236.「気だるい静けさ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「けだるい静けさ」です。 ふしぎと、小雨や曇りの印象がつよい。 ここからあそこまで、結構離れているんですよね。 だからみんな、妙な静けさを保ったまま、じっと着くのを待ってる。 静けさにも色々。 耳がキィンと鳴るような、淀みのような静けさを感じたことってありますか? どこかぎこちなくて、なんとなく居心地がよくない。 だけど、やることは決まっているから、流れに沿って進んでいくだけ。 こういうとき、空はふしぎと

情景288.「人差し指と中指にだけ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「人差し指と中指にだけ」です。 隙間から漏れ入るように差し込んでくる陽のひかり。 お気に入りの光のかたち。 私は、情景描写において光と風をよく使います。 光も影も、常に在るものですから、日頃ふと目に留まった光のかたちはなんとなく記憶してしまいがちで、地の文を書くときにそれを取り出し、文章にふりかけるように使ってしまうようです。 おかげで私は、手クセで地の文を書くと、光や風がつい出がち。 それで、光の話なの

情景243.「霧雨の日」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「霧雨の日」です。 霧雨と、けぶるもや。 広がる海はもやに飲まれ、その先は不明瞭なまま。 先の見えない不明瞭さを、霧雨のもやを眺める男女の関係に重ねてみる。 長谷川等伯の松林図屏風。 けぶるもやと場の湿度を感じさせる、とても好きな情景です。 現物は以前、九州国立博物館の特設展でたまたま拝見することができました。 魅入っちゃいますね。 ぼんやりとしていて、曖昧な有り様。 ただ、先には何かがあるのだろうと、そう

情景90.「男子ってやつか」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「男子ってやつか」です。 登校の情景。 校門の坂道を立ち漕ぎで颯爽と登りきっていく、朝の男子。 無限の体力の産物かとおもいきや……。 ご明察の通り、坂だったんですよ。 私の通っていた高校。 丘の上にあって、どこから入ろうと毎朝坂を登る宿命にある高等学校でした。 福岡の西の方にあるんですけどね。 ちなみに、最寄り駅からでも歩いて20分はかかります。 自転車通学でも電車通学でも、毎日ちょっとした運動でして、お