ho_anthropos

関東のとある私学で国語を教えています。

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最近の記事

【書評もどき】A.J.エイヤー『言語・真理・論理』

1.全体について エイヤーのこの本について、Twitterでつぶやいたことをまとめました。本書全体については、以下のツイートの通りです。 2.翻訳について 少々古い訳だからか、linguisticを「言語学的」と訳しているようですね。これはちょっと紛らわしいと思いました。「言語論的」とかの方がいいと思います。 ここも「文章論的」ではなく、「構文論的」などと訳した方がいいと思いました。 3.「形而上学」について 解説を執筆している青山さんも書いていましたが、「形而上

    • 認知意味論の観点からの歌詞の解釈

      1.はじめに 少し前に読み終わった認知意味論の入門書が非常に面白かったので、今回はその考え方を応用して、ある楽曲の歌詞(の一部)を解釈してみたいと思います。取りあげる楽曲は、レミオロメンの『粉雪』です。 本楽曲はさまざまな評論が可能であると思われ、またすでにそのような研究はいろいろな場でなされていると思いますが、ここでは本楽曲の主題というよりも、その中の1フレーズが、どのようなことをどのように意味しているのか、という点に絞って考察していきたいと思います。問題となるフレーズ

      • 古文が苦手な人のための、古文教材研究法

        国語科の教員の中には、私のように、国文学を専攻しておらず、古文の教材研究に苦手意識をもっている方も(数は少ないと思いますが)いらっしゃると思います。 そういう方のために、今回は、私が古文教材を研究したり、古文を教材とした授業をするときに使っている方法を、『蜻蛉日記』「なげきつつひとり寝る夜」の冒頭部分を、実際にその方法で解釈することによって紹介したいと思います。 この方法が古文教材を研究する良い方法であるなどとはまったく思いませんが、古文を専門としない教員が、なんとか古文

        • 文章中で原因・理由を読み取る方法

          今回は、評論か小説かにかかわらず、文章中のある部分の原因・理由を読み取る方法について考えていこうと思います。 1. 接続詞・接続助詞を用いた方法 原因・理由を読み取る方法と聞いて、多くの人がまず第一に思い浮かべるのは、「だから」や「なぜなら」などの接続詞や、「~ので」「~から」といった接続助詞でしょう。 (1)いつも9時ちょうどに来る電車が、今朝は1時間も遅れた。なぜなら、何駅か前で事故が発生したからだ。 (1)の文では、接続詞「なぜなら」と接続助詞「~から」で囲まれ

        【書評もどき】A.J.エイヤー『言語・真理・論理』

          記号論理学の効用

          哲学や倫理学を専攻した人の中には、必修科目として記号論理学を勉強した人もいるかと思います。私もその一人です。 しかし、記号論理学は、哲学や論理学の研究以外に、何の役に立つのか? そう疑問に思う人もいるかもしれません。 そこで今回は、記号論理学を学んだことが国語教育で役に立った経験について書いてみたいと思います。まずは、以下の文章を読んでみましょう。 (1)サスティナブルであることを考えるとき、これは多くのことを示唆してくれる。サスティナブルなものは常に動いている。その動

          記号論理学の効用

          「杞憂」とは「起こりもしないことを心配すること」なのか?ー漢文教材の取り上げ方への疑問

          『列子』を典拠とする故事「杞憂」は、人口に膾炙しており、また高校の古典の教科書にもたびたび掲載されています。そのため、多くの人はその内容をよく知っていると思っているでしょう。例えば、以下のネット上の記事には、「杞憂」についての一般的な理解がよく表現されています。 杞憂の由来は、中国の思想家が記した書物「故事 天瑞篇」の中に綴られた「杞人天憂」の四字熟語からきています。杞人天憂(きじんてんゆう)は四字熟語であり、この言葉を省略してできた言葉が杞憂となります。 「杞」は中国周代

          「杞憂」とは「起こりもしないことを心配すること」なのか?ー漢文教材の取り上げ方への疑問

          私の教材研究法(4)ー夏目漱石『こころ』

          今回は、夏目漱石の『こころ』を題材として、教材研究をしてみたいと思います。少し長いですが、『こころ』(下)の一節を以下に引用します。 (1)彼の口元をちょっと眺めた時、私はまた何か出てくるなとすぐ感づいたのですが、それがはたしてなんの準備なのか、私の予覚はまるでなかったのです。だから驚いたのです。[④彼の重々しい口から、彼のお嬢さんに対する切ない恋を打ち明けられた時の私を想像してみてください。]私は彼の魔法棒のために一度に化石されたようなものです。口をもぐもぐさせる働きさえ

          私の教材研究法(4)ー夏目漱石『こころ』

          小説の登場人物の心理をどう理解するのか(3)

          前回は、文章中で用いられる語の辞書的意味を媒介として、文中に明示されない、登場人物の心理を推測する方法について書きました。 それに対して今回は、登場人物の置かれた状況や、行動の変化などから、文中に明示されない心理を推測する方法について考えていきたいと思います。題材とするのは、川上弘美の小説「水かまきり」です。 1. 登場人物の行動の変化を表現する文 まずは以下の一節を読んでみましょう。 ⑴「そんな端を歩くと危ないぞ。」  ケン坊がうしろから言った。川幅は、このあたりで

          小説の登場人物の心理をどう理解するのか(3)

          私の教材研究法(3)ー葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」

          今回は、これまでも何度か触れた、葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」を題材として、小説教材を対象とする教材研究のやり方を説明していきたいと思います。まずは次の一文をご覧ください。 (1)お願いですからね、このセメントを使った月日と、それから詳しい所書きと、どんな場所へ使ったかと、それにあなたのお名前も、御迷惑でなかったら、ぜひぜひお知らせくださいね。(葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」) これはセメント樽の中に入っていた女工の手紙の一節ですが、ここからは、恋人をセメント工場の

          私の教材研究法(3)ー葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」

          小説の登場人物の心理をどのように理解するのか?(2)

          前回は、会話文や地の文で用いられる比喩から、登場人物の心理を推測する方法について考えてみました。 https://note.com/ho_anthropos/n/n0c3a39c46d47 今回はそれに対して、文章中で用いられる語の辞書的意味から、文章中に明示されない、登場人物の心理を推測するやり方について考えていきます。 1. 文章中で用いられる心理的表現 まずは以下の(1)の文章を読んでみましょう。これは葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」の一節です。 (1)「チェ

          小説の登場人物の心理をどのように理解するのか?(2)

          小説の登場人物の心理をどのように理解するのか?(1)

          今回は教材研究からは少し離れて、私たちが小説を読む時、その登場人物の心理をどのように理解しているか?という問題について考えていきたいと思います。 ここで「心理」というのは、その人物の喜怒哀楽の感情や、思考内容などを指して言っています。 一口に登場人物の心理の理解と言っても、そのやり方は多岐にわたりますので、ここでは比喩表現から登場人物の心理を推測する場合に論点を絞って考えていきます。 1. 登場人物の会話に現れる比喩に暗示される心理 現実の人間の会話と同じように、小説

          小説の登場人物の心理をどのように理解するのか?(1)

          いわゆる「百科事典的知識」について

          前に書いた記事で、「蒸気機関車」についての「百科事典的知識」に基づいて、句中の「夏草」という語を解釈しました。 「百科事典的知識」というのは、認知言語学などで用いられる用語で、「事物に関して誰でも知っているような一般的な知識」を指します。 しかし、この「百科事典的知識」、いろいろと不思議な特徴があるように思われ、今回はそれについて書いてみたいと思います。 (1)ある日の授業風景 ある日の授業で、山口誓子の「夏草に」の俳句を取り上げて、次のような手順で授業を展開したこと

          いわゆる「百科事典的知識」について

          私の教材研究法(2)ー種田山頭火「青い山」とは何か?

          今回は、種田山頭火の無季自由律俳句 (1)分け入つても 分け入つても 青い山 を題材として、教材研究をしてみたいと思います。 前回は、指導書の解釈をそのまま用いて、そこに至る過程を考えました。しかし、今回は指導書の解釈に少し問題があり、それをそのまま用いることはできません。そのような時に、どのように考えていけばよいのか? それについても触れていきたいと思います。 (1)語の意味と文法事項の整理 まずは、使われている語の意味を辞書で調べるところからです。「分け入つても

          私の教材研究法(2)ー種田山頭火「青い山」とは何か?

          私の教材研究法

          はじめまして。ho_anthroposと申します。関東のとある私学で国語を教えている者です。 最近、いろいろと思うことがあり、noteというものを始めてみました。自分が国語教育について日々考えていること、ちょっとした思いつきなどを書いていこうと思っています。 今回は私の教材研究のやり方について書いてみようと思います。 例えば、俳句の授業で、山口誓子の (1)夏草に 汽缶車の車輪 来て止まる という句の解説をするとします。指導書によると、この句の意味は次のようなもので

          私の教材研究法