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文章中で原因・理由を読み取る方法

今回は、評論か小説かにかかわらず、文章中のある部分の原因・理由を読み取る方法について考えていこうと思います。

1. 接続詞・接続助詞を用いた方法

原因・理由を読み取る方法と聞いて、多くの人がまず第一に思い浮かべるのは、「だから」や「なぜなら」などの接続詞や、「~ので」「~から」といった接続助詞でしょう。

(1)いつも9時ちょうどに来る電車が、今朝は1時間も遅れた。なぜなら、何駅か前で事故が発生したからだ。

(1)の文では、接続詞「なぜなら」と接続助詞「~から」で囲まれた「何駅か前で事故が発生した」ことが、「いつも9時ちょうどに来る電車が、今朝は1時間も遅れた」ことの原因となっています。

(2)今日は郵便局が休みだったので、彼への手紙を投函することができなかった。

また、(2)の文では、接続助詞「~ので」が付加された節「今日は郵便局が休みだった」が、後続する主節「彼への手紙を投函することができなかった」の原因となっています。この場合、原因・理由をあらわす節は、主節の前にあります。(ただし、この場合の「ので」は因果用法に限定されます。「ので」には根拠用法もあり、その場合には、これは当てはまりません。)

以上のことは多くの人がよく分かっていることだと思いますので、これ以上の説明は必要ないでしょう。

しかし、次のような例はどうでしょうか?

(3)都市のターミナルに他の地区とは違った、華やぎと危険な雰囲気が同居しているのは、そこが「異なるもの」との接点だからに他ならない。(港千尋「テルミヌスの変身」)

(3)では接続助詞「~から」が使われていますが、接続助詞が付加された節が主節の前に来ている(2)とは違い、後ろに来ています。

これは(3)が次の(4)から派生した強調構文(分裂文)であるからです。

(4)都市のターミナルが「異なるもの」との接点だから、都市のターミナルに他の地区とは違った、華やぎと危険な雰囲気が同居している。

また、原因・理由を表す接続助詞が含まれた文には、他にも、以下のように、前文の内容を「これ」「それ」などの指示語で指す場合があります。

(5)チャールズ・ダーウィンは、自分の進化論仮説に妥当しない事例は必ずノートに記録するという習慣を自らに課していた。それは自説の正しさを損ないかねないようなデータは、彼の偉大な記憶力をもってしても記憶にとどまらないことを彼が知っていたからである。(内田樹「話を複雑にすることの効用」)

このように、接続助詞の場合には、原因・理由をあらわす節が主節の前にある「Aから、Bだ」という形式だけでなく、原因・理由をあらわす部分が後にある「Bなのは、Aからだ」や「Bだ。それはAからだ」という形式も用いられるので、読み取る際には注意が必要です。

2. 連体修飾節を用いた方法

以上では、接続詞や接続助詞を用いる方法を説明しましたが、原因・理由をあらわす表現には、次のような場合もあります。

(6)[新商品の開発に尽力した]太郎は、社長に昇進した。

(6)の文では、「太郎」を修飾する連体修飾節「新商品の開発に尽力した」が、「太郎は、社長に昇進した」の理由となっています。

連体修飾節には、被修飾部(「主名詞」と呼ばれることもあります)の指示対象を特定する機能をもつ「制限的修飾節」と、そのような機能をもたず、被修飾部に様々な情報を付加する「非制限修飾節」の2種類があります。

「制限的修飾節」とは、例えば、以下の(7)の[ ]で囲んだ部分を言います。

(7)[十年前に私が金を貸した]男が、社長に昇進した。

(7)の文では、[ ]で囲んだ連体修飾節「十年前に私が金を貸した」が、被修飾部の「男」の指示対象を限定しています。[ ]の部分が無ければ、(7)の文は意味が変わってしまいます。

それに対して、(6)の文のように、被修飾部(「太郎」)の指示対象の特定に関わらない連体修飾節を「非制限修飾節」と言います。「非制限修飾節」は「主節」(上で言うと「太郎は、社長に昇進した」)に、様々な関連情報を付加することが知られています。その1つが「主節の文に対する原因・理由を付加する」というものです。

したがって、主節の文の原因・理由を読み取る必要があるときには、その連体修飾節に注目することも有効です。

3. 「原因・理由を表す名詞」を用いた方法

ある種の名詞は、語彙的に「原因・理由」の意味をあらわすことがあります。例えば、「せい(所為)」や「ため(為)」という名詞がそれに当たります。

「せい」を辞書で調べると、「(連体修飾語を受けて)それがある結果の原因・理由となっている意を表す。」(『明鏡国語辞典』第二版)と記述されています。例えば、

(8)[昨日雨が降った]せいで、道路がぬかるんでいる。

という文では、「昨日雨が降った」という連体修飾節を受けて、それが「道路がぬかるんでいる」という結果の原因・理由であることが表現されています。

連体修飾節をともなう場合以外にも、これらの名詞は「この・その・あの」などの指示語とともに用いられ、それらの指示語の指す事柄が、後続する文の原因・理由であることを表現することがあります。例えば、

(9)伝統は恐ろしいもので現代の都会でも、日本の噴水はやはり西洋のものほど美しくない。そのせいか東京でも大阪でも、町の広場はどことなく間が抜けて、表情に乏しいのである。(山崎正和「水の東西」)

という文では、指示語「その」をともなった名詞「せい」が用いられ、指示語の指す事柄、

(#9)伝統は恐ろしいもので現代の都会でも、日本の噴水はやはり西洋のものほど美しくない[ということ]

が、後続する文「東京でも大阪でも、町の広場はどことなく間が抜けて、表情に乏しいのである。」の原因・理由であることが表現されています。

したがって、文章中に「せい」や「ため」など、語彙的に「原因・理由を表す名詞」があった場合、①それを修飾する連体修飾節や、②前に付いている指示語の指す事柄から、後続する文の原因・理由を読み取ることができます。

4.「のだ」文を用いた方法

日本語で原因・理由をあらわす場合、「のだ」(丁寧形は「のです」)を用いることもしばしばあります。(「のだ」は話し言葉などでは「んだ」になることが多いです。)例えば、

(10)昨日はあまり酒を飲めなかった。疲れていたのだ
(11)今朝はバスに乗りました。雨がざあざあ降っていたんです

のように、前の文を「P」、「のだ」を含む後続文を「Q」とした時、「P。Qのだ。」の形式で、QがPの原因・理由であることが表現されます。

ただし、「のだ」には、原因・理由以外にも、以下のように「言い換え」をあらわす場合があります。

(12)昨日、私は勤務していた会社を辞職した。無職になったのだ

しかし、「のだ」で「言い換え」をあらわす場合、以下のように、「のだ」を「わけだ」に置き換えても、文意は変わりません。

(13)昨日、私は勤務していた会社を辞職した。無職になったわけだ

したがって、「わけだ」に置き換えた時に文意が変わってしまうかどうかで、「のだ」が原因・理由を表しているのかどうかを(一応は)判別することができます。

以上のように、文章中に接続詞や接続助詞が無い場合でも、「P。Qのだ。」に当たる2文がある場合には、「のだ」を「わけだ」に置き換えられないかぎり、「のだ」が付いている方の文が、その前文の原因・理由になっていると考えることができます。

5. 文脈的な含意を利用する方法

文章中で原因・理由をあらわす方法としては、その他にも、さまざまな「文脈的な含意」を利用して、原因・理由をあらわす場合があります。例えば、以下の(14)の文を見てください。

(14)だが、人工的な滝を作った日本人が、噴水を作らなかった理由は、そういう外面的な事情ばかりではなかったように思われる。(山崎正和「水の東西」)

一般的に、「Xばかりではない」という言い方は、「Xではないものもある」ということを含意します。したがって、「そういう外面的な事情ばかりではなかった」という言い方は、「外面的ではない事情もあった」ということを含意します。「外面的な事情/内面的な事情」という二分法を前提とするならば、上の(14)は次のように書き換えることができるでしょう。

(15)だが、人工的な滝を作った日本人が、噴水を作らなかった理由は、内面的な事情もあったように思われる。

「内面的」とは「精神や心理にかかわるさま」(『明鏡国語辞典』第二版)ですから、「日本人が、噴水を作らなかった理由」には、「日本人の精神や心理にかかわる事情もあった」ということになります。そして、「日本人の精神や心理にかかわる事情」というカテゴリーに当てはまるものを文章中から探すと、(14)の直後にある、以下の文がそれに該当することが分かります。

(16)日本人にとって水は自然に流れる姿が美しいのであり、圧縮したりねじまげたり、粘土のように造型する対象ではなかったのであろう。(山崎正和「水の東西」)

以上、はなはだ不十分ながら、文章中から原因・理由を読み取る方法をまとめてみました。言うまでもなく、ここで挙げたものだけが「原因・理由を読み取る方法」のすべてではありません。

しかしながら、中等教育までで扱われる評論文や小説文で、原因・理由を読み取る場合によく使われる方法については、以上で取り上げたもので大体説明がつくのではないかと思います。


〔参考文献〕本記事を書くにあたり、特に参考になったものとして、以下の書物をあげておきます。

・庵功雄『新しい日本語学入門』第2版(スリーエーネットワーク、2012)

・伊藤晃『日英語対照研究と談話分析』(大学教育出版、2021)


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