夜溜まり

4歳くらいの時、「夜はどこから来るの?」
と、母に聞いた。
「あっちの方から来るんだよ」
と、母は坂の下にある森の麓をゆびさした。
今思えばそれは「西」だった。
「西」をまだ知らなかった私は、昼間でも暗い森の麓に
「夜が溜まっている」のだと思った。
それから数日、夕方になるとそこをじっと眺めていた。
溜まった夜が流れ出すのを待っていた。
母の言う通り、夜はそこからじわじわと流れ出た。
私は怖くなって「西」を知るまでそこに近付けなかった。
下手に触れば、昼だろうと夜が溢れ出してしまう気がして。

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