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魂揺さぶる宮津祭

 2023年5月15日。3日間に渡って行われた『宮津祭(山王祭)』の最終日。4年ぶりの開催となった今回、空は祝福するように晴天。今年4月に移住してきた私にはもちろん初めてのこと。しかしそんな私にも分かるほど、この日の町は熱を発していた。

 祭は『市内巡幸』から始まる。朝から数十人もの男性が約1トンもの神輿を担ぎ、「よぉっさー」という掛け声とともに宮津市内を巡幸する。腹の底から張り上げる声、表情を歪め歯を食いしばる姿に、見ているこっちまで力が入る。そんな"漢"の根性のようなものに、開いた口が塞がらないとはこの事かと。多様性が謳われる今の世の中だから、この言い方には少し躊躇するけど、"漢"というものの原点を見たような気がした。

 一日かけて行われた市内巡幸の後、日が暮れた頃、いよいよ宮津祭のクライマックスが始まる。『練り込み』と『御宮入り』。漁師町と呼ばれる小さな町に、大きな神輿と大勢の人が集まる。家と家との間の狭い路地には十分過ぎるほどの人、そして熱気。
 そんな中、約50メートルの距離を神輿を担いで10回20回と続けて往復する『練り込み』が行われる。最後の『御宮入り』に向け、担ぎ手を限界まで追い込む。自然と観客からも声があがる。「よぉっさー‼︎」と町が一つになる。

 そして、町中のボルテージが最大限に上がったタイミングで、宮津祭最後の『御宮入り』へと移行する。神輿に積んだ神様を帰すため、この身ひとつでも息のあがるような急な坂と石段を、1トンもの神輿を担いで登り、その先の御宮を目指す。担ぎ手の身体はもうとっくに限界を超えているはず。汗や涙でぐちゃぐちゃになりながら、「よいやーさー‼︎」という掛け声とともに最後の最後まで力を振り絞る。「ガシャンガシャン」と大きく音を立てながら揺れる神輿。何度も崩れそうになりながらも、どんどん上へ上へと登っていく。

 正直、訳が分からなかった。一日中1トンを担いで歩いて、直前まで追い込んで、そのあとまだこの激坂と石段を登れるなんて。頭の整理が追いつかなかった。まさに人間の限界を、神様の存在を考えさせられる瞬間だった。

 長いようで短かった宮津祭最終日。神輿は無事に御宮へと帰され、神様を送る儀式が行われる。全ての灯りが消され、撮影も懐中電灯もスマホの灯りも禁止。そこにあるのは星明かりのみ。満点の星空の下、「おぉー」という声と拍手で神様を送る。そしてパッと灯りがつき、宮津祭の終わりを知らせる。

 賞賛、感動、興奮、寂しさ…あらゆる感情が次々に溢れてきて、しばらく鳥肌がおさまらなかった。見ていただけの私でさえそんな気持ちになったのだから、担ぎ手の感情は計り知れない。

 命をかけて一生懸命取り組む姿。ひとつのことを成し遂げる為に、大勢が同じ志を持って取り組む姿。人の心を動かすのはきっとそういうものだろう。

 あぁ、人間でよかった。本当に良いものを見せてもらいました。ありがとう、ありがとう。いまだに、動画を見返すだけでもゾワっとします。

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