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入院日記16日目病名も原因もわからないけど退院しましょうか

絵の中でも食卓を描いた作品に特に心惹かれる。

だからということもあって、
ピエール・ボナールの作品はとても好きだ。
彼はたくさんの食卓を描き、
日常や幸せ、まどろみを表現した。

今回、
退院したら私はまず食器を買おうと思っている。
病室でぼんやりしながら、
我が家らしい食卓というものを考えた。


食事だけでなく、お茶をしたりおしゃべりをしたり、
叱ったり泣いたりケンカをしたり
人間関係を見守ってきてくれた大切な食卓。

入院して、あの場所に帰りたいと一番に思った。

あの場所を
ここ好きだなってもっと思えるような空間にしていきたいと思った。

料理やお菓子も気軽に用意して気軽に人を呼び、
無理なく再現していけたら嬉しい。
そのためのモチベーションをあげるため、
今ある気に入った食器にさらに少し付け加えたいのだ。

食器が好きだった母の影響もあり私も食器を見たり選んだりが幼い頃から好きであった。
父の故郷である佐賀で伊万里、古伊万里などを知り、魅せられた。もちろんそんな高価なものばかりでなく、また、和食器だけでなく、あらゆるデザインを見るのが楽しい。

おかずをそれらに盛って品数多く並べるのが好きだ。
料理上手ではないし、難しい料理は出来ないけれど
簡単なお惣菜をそれぞれ一人分ずつ小皿や小鉢に盛って並べられた情景を見るのは嬉しい。

また田舎の大家族のような大小様々な器に魚の姿そのままに煮付けにして出されたものや揚げ物煮物がどんどんどんと並ぶ壮観な風景もまたたまらない。

映画「サマーウォーズ」が好きな私の理由には
そんな絵が出てくるところにもある。
あの家をみると父の故郷に遊びに行った時の風景と重なりたまらなく懐かしくなるのだ。

あの時は気づかなかったけど東京から父の家族がくるといって、親戚中が集まってくれていたのだと思う。
九州男児といえば男尊女卑の典型を言われる時代があったが食卓ではまさにそんな場面を目の当たりにした。
女性たちは私たち客人には先に先にと勧めるものの、自分たちは男性群が食事をすませるまで箸にも触らず
ただ料理を運び、いただきますとなっても湯気のたちあがる料理の前でキチンと正座をして、
けして食べようとしなかった。

汁の器はいつも漆器ではなく有田焼だった。
私が驚くとこっちの方はみんなそうじゃなかと?と逆にびっくりされ、おもしろいなあと思った。
ああ、そういえば、
まるで理解できないような濃厚な佐賀の言葉が食卓に飛び交っていたのもとてもワクワクした。

一緒に食べることで分かち合う喜びや親近感。
おいしいと笑いながら、話をはずませる。
それには簡単なレシピや出来そうなレシピをもっと増やして気軽に作れるをめざすのだ!
SNSでそんな素敵な食卓がたくさん見れる。
ワクワクする。

好きな人たちと、家族と、
食べてたくさん笑いたい!


退院したらまず食器だなんて思う理由には
もう一つ訳がある。

入院前に
とても気に入っていた食器を割ってしまったのだ。
ヒヤシンスブルーの大皿。
はじめて挑戦した色だったけど、
お料理を引き立ててくれる色だなあと毎回思った。
日常使いにも来客時にも重宝した。

実は割ってしまったのは夫だった。
この病気で私があまりに具合が悪そうで、いろいろ手伝ってくれていた時のアクシデントだった。
私がとても気に入っていたし、我が家の代表格のような存在だったから、夫は珍しいくらい感情をみせながら、すごく申し訳ながっていた。
本当はかなりの大ショックだったけど、
「気に入っているものほど登場回数が多くなるから、割る確率高いんだよねー」とその場をあわてて繕う。
「仕方ない。しょうがなかったよー」と笑った。
この確率の話は、
以前とても好きな友人が言っていたことでもあるのだけど、結構本当だと思う。
自分を慰める効果もあるなあと思っている。



病名ははっきりしていません。
原因がわかりません。
でも来週退院しましょうか。

主治医の先生が昨日の土曜日に
夫と娘に検査画像もみせてくれながら40分くらい詳しく丁寧に説明してくれた。

今可能性がある病名は3種類。どれも難病指定だ。

体を休めていたって良くなるわけではないことも分かりこのままもう日常に戻れるのだと理解する。
目玉の動きは少し戻りつつあるものの
視界は正直まだ不安定なのだが、
それを認めた上で、
ある意味無理をしてもいいともとれる医師の判断は
不思議なものだが、
今回はそこにむしろ救いを感じる。

これからは薬を服用しながら外来でお世話になる。
今検査にだしている結果もあわせながら
適切な薬を選んでもらい、量もみてもらいながら服用していく。
薬も減らしていけるかもしれないし
もしかしたらなんともなく消えてしまう可能性も0ではいようで、それがいいなあとしがみつきたくなる。
でも、老化だってあるのだ。
あまり楽観視しすぎてガッカリするのもこわい。
自分の判断をあんまり狭めないようにしよう。
良い方の可能性を信じて毎日を大事にしていきたい。


入院する前に楽しみにしていた大きなことがあった。
8月末に出発する娘の留学先に
娘がお母さん来て来て!と言ってくれて、頑張ってお金貯めるぞーとはりきっていたのだ。

実際には私は飛行機が怖くて、もう海外どころか国内においても飛行機に乗る選択肢は自分にはなかった。

若い時は飛行機や機内食、あの独特なアナウンスがながれる搭乗手続きの場、なにもかもが大好きだったのに、閉所恐怖症なみにあの乗り物の狭い空間で何時間もいることを考えると恐ろしく思うようになった。

でも娘が今回行くのはヨーロッパ周辺各地であり、
その中の一つであるフィンランドにお母さん来てよーと言ってくれている。
フィンランド!やっぱり行ってみたいなあ。

でも、一番重要なお金の問題が頭をもたげる。
もともと余裕もなかったのに、さらに治療費が継続的にかかっていく現実が出て来てしまった。
この治療を続けることで感染症にかかりやすくなることも大きなリスクになっていく。全く日常を離れてすごせる楽しみを謳歌できるような海外旅行だなんて、本当は危険極まりない無謀なことなのかもしれない。
いろんな意味でそれどころではなくなってしまったかもしれないなと思った。

でも退院したらまたすぐ働こうというやる気には
この計画は効果的だ。
ニンジンをぶら下げてあったほうが
楽しみながら働ける!



今日は点滴をしたら
もうなんの予定もなくリハビリもなかった。
病棟内を一人で歩く。
すれちがう看護師さんが
だいぶ歩き方がよくなりましたねと声をかけてくれた。

途中トイレに寄って鏡を見た。
あっ!目が!
目が動く!動いている!

看護師さんをつかまえて
目が、動くようになってますよね!と、見てもらった。
ほんと!だいぶ普通に追っていますよ!

目が動いた!目が動いた!








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