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俺が売れ残りを救いたい

池袋のイートーブという楽園を知っているか。

それは「美味しいが集まる」をコンセプトに掲げた東武百貨店の食品フロアである。2018年に改装オープンをしてからというもの最高のフロアになっており、それがもう嬉しいのなんのって感じで買うものなくても無駄に寄ってウィンドウショッピングしてしまう。
スーパーをウィンドウショッピングするぞ俺は。
ここのアジが本当に美味しいのよ。サバだったかも。岩手産だったのは覚えている。
遠くから赴くほどではないけれど、池袋が生活圏内の方は食材調達場所の選択肢の一つに是非とも入れていただきたい。
自分は地方に旅行へ行ったときもスーパーへ行って水産コーナーを絶対にチェックするのだけれど、イートーブの水産ラインナップはとにかく東京~~って感じがなんか良いのである。

そんなこんなで、この日も帰りの夜にイートーブに寄ったのだけれど、閉店間際のこの時間は値引きシールが貼られる時間帯なわけで、最高な魚介たちが腐りかけの最高に美味い状態でなおかつ半値で買えるという、まさにフィーバーヘブンタァイムと相成ります。
とは言っても最高オブ最高のアンダーザシー達が置かれる店なので目ぼしいものは既に売れてしまっており、夜に残っているのはスタメン落ちした者ばかり。

そう、例えばタイのアラとか。


そして例に漏れず、この日もタイのアラが6個も残っていた。
ガラガラになった冷蔵平台の中で、元々100円なのにさらに半値になったタイのアラが、貰い手を今か今かと待つようにして整然と並んでいる。

売れ残り。
こういう光景を目の当たりにしてしまうと、二人組作って~と言われて残った日々を思い出して目を背けたくなってしまう。

高校生の頃スーパーでバイトしていたのだけれど、売れ残りは当然廃棄処分なわけで、店員でも持ち帰ってはいけないことになっていた。
閉店後の薄暗いバックヤードで分別しながら食物を青いゴミ箱に捨てるルーティンは、余り気持ちの良い時間ではなかった。
あの時の記憶も同時に脳裏に蘇り、売れ残りへと自然と足が向いてしまうのだった。

「(……このタイのアラは、俺が買わないと捨てられてしまう)」

半額にもされたのに、とはいっても元々100円だから50円になっただけだけど、それでもスーパー側にとって半額にするという行為はかなりの痛手であることは知っているし、タイミングにもかなり神経を使う。
その日の天候や来店人数と照らし合わせながら利益を最大限出せる最良の時を見計らい、今宵月は赤く染まったり飢えた獣群がったりして大猪と戦いながら半額シールを商品に貼るのだ。
にも関わらず今回のアラは、こうして6個も売れ残っている。
閉店時間までわずかな状況でだ。
……恐らく、これらは売れ残り廃棄されるのだろう。
このままでは、青いゴミ箱に向けて虚無的なあのルーティンを店員がこなすことになってしまう。
そう思うと、自然と私の足はタイへと向いていた。

「ふっ……アラ汁でも作るか……」

タイのアラよ、私と2人組になろう。いや7人組か。
何匹でも良い。全部俺が受け入れる。世界が見捨てても俺は見放さない。
そう思い、ニヒルな笑みを浮かべながら自惚れに浸りタイのアラに手を伸ばそうとした。
が、しかし。

横からお客のおばちゃんが割り込んできた。

そしてタイのアラに手を伸ばしたのだった。

……………………。
まぁ落ち着けよ。
6個もあるんだ。
私の分はまだある。

そう思ったのだが。
おばちゃんは6個ともカゴに入れてしまった。

えっ。
うそやろ。
アラ6個も何に使うんだよ。
アラやぞ。いらねぇだろ!
返せよ!
俺が売れ残りを救いたいんだ!
俺に救わせろ!!!!!!!!

しかしおばちゃんはアラを全部持ってそのままレジへと向かって行った。
俺はストロングゼロを買って帰った。

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