大阪天満宮で厄除けをした話
【厄除けのお祓いをしていただいたことを記録しているだけの雑文】
今年こそは厄除けに行こう。
そう誓ったのは初詣でのことだった。
初詣というにはやや時期を過ぎた1月上旬。後輩と新年会代わりのお茶会を約束した日のことである。下調べのために開いたGoogleマップでお店の近くに神社を見つけ、初詣に行っていなかったことを思い出した。それならばと、待ち合わせ前にお詣りをすることにした次第である。
神社に貼られた厄年一覧表を見て気がついた。
――今年、厄年じゃないか。
大きな声では言えないが、何度目かの厄年である。
大厄の前後、仕事の環境が激変してろくでもない目に遭ったことを思い出す。厄除けに行っておくべきだったかとあとで悔いたが時すでに遅し。
表を見上げて、私は固く誓った。
今年こそは、厄除けに行こう。
さて。
行こうとは誓ったが、どこに行ったものか。
近くの神社でお願いするのが良いだろうか、とまずは考えた。最近家を買ったので、しばらくこの地から動くつもりがない。ならば地元の神様にお祓いしていただくのが筋ではないかという気がしたのだ。
しかしあいにく、最寄りの神社は少々行きづらい場所にある。更に言えば、ご祈祷の初穂料がウェブサイトに明記されていなかったのでやや心配だった。
どうしたものかと職場で話したら、「大阪天満宮が良いんじゃないですか」と言われた。
なるほど、大阪天満宮。
駅から近くてアクセスが良いし、いわゆるパワースポットとしても知られた場所だ。大阪の民として心強い。
なにより天満宮というところに惹かれた。私は長く教育業界で働いていたのだ。もう離れて随分経つが、学問の神さまには思い入れがある。
決めた。
大阪天満宮で、厄除けをしていただこう。
前置きが長くなったが、そうと決めたら行動あるのみである。
お約束ごとや、マナーというやつを改めて確認した。恥ずかしながらお祓いをしていただくのは初めてだ。そして一生に数回の厄年だ。ならばきちんと整えようではないか。大袈裟なくらいで良い。こういうことは気持ちが大事だと思う。私がひとりで行うことだから、間違えたからといって誰に眉を顰められることもないのだし。
小綺麗なお札を準備した。本当は新札が良かったのだが、時期を考えると銀行の窓口に行くのは難しそうなので妥協した。なお厄除けは節分までに行くのが良いそうである。
初穂料は熨斗袋に包むのだが、白封筒でも良いそうだ。お誂え向きの封筒があったので、それを使うことにした。そういえば、随分前に弟の就職祝いを包んだのもこの封筒ではなかっただろうか。そんなことを思い出す。
袱紗に包んで、準備完了。
受験生の邪魔にならなさそうな日を選んだ。1月の天満宮であれば、受験生を優先したい。これは私の自己満足である。
思いついたことがある。
母に貰ったリングとネックレスを身につけていくことにした。正確には、母の婚約指輪をリフォームしてつくったジュエリーだ。身につけて一緒にお祓いをしていただいたら、名実ともにお守りになるような気がした。
1月の、ある晴れた日のことである。
まずはご挨拶。5円玉でお詣りをした。
ついでなので御朱印を頂いた。お正月の特別御朱印にぎりぎり間に合い嬉しかった。
ご祈祷の受付所で声を掛ける。
「厄除けをお願いします」
初穂料は6千円と1万円が選べるらしい。6千円を包んできていたので、そのままお渡しした。どうやら1万円のほうは特別仕様のようだった。
申込用紙を受け取り、待合室へ通される。
室内で用紙に必要事項を書き、絵馬に「祈願 厄除」の文字と自分の名前を書く。終わったら静かに順番を待つ。
待合室には思いのほか人が多かった。20組ぐらいはいただろうか。
男性はともかく、女性の厄年は30代に集中している。だからなのか判らないが、なんとなく同年代の女性が多いような気がした。子供連れの家族もいる。もちろん、厄除けで来ている人ばかりではないのだろうけれど。
しばらく経つと順番に名前を呼ばれ、本殿に案内された。
神社の本殿にあがるなど初めてだ。常とは異なる場に向かうのだと思うと気が引き締まる。
私たちは、神前にずらりと正座した。
背中に外の声が聞こえる。こちらに向かってお賽銭を入れ、お詣りをしている気配がする。声が聞こえる。自分が本殿の中に居るのだと思うと不思議な気持ちになった。
内側と外側は別世界だ。
いつもより少し、神さまに近い場所に居る。
祝詞をあげていただいた。
個人でお祓いをしていただくのは初めてだが、社用車のお祓いに立ち会ったことならある。だから、住所と名前と年齢を読み上げられることは知っていた。座して首を垂れ、順番を待つ。やはり厄除けが多いな、同年代が多いな、遠くから来た人もいるんだな、合格祈願の人もいるな、などと思いつつ。
私の番が来た。
私の名前は祝詞の一部になって捧げられた。
祝詞が終わると、巫女さんが舞い、鈴でお祓いをしてくれた。
お祓いはつつがなく終了した。
本殿を出る際に、受付で描いた絵馬と、紙袋に入ったおさがりを受け取る。
靴を履こうと手間取っていたら絵馬が手から滑り落ちてひやりとした――が、落下直前に掴み取り難を免れた。ナイスキャッチ。縁起でもない。いや縁起が良いのか?
最後に、絵馬掛けに絵馬を納める。
小さく手を合わせた。どうかどうか、今年が平穏無事なものでありますように。
梅の紋が入った紙袋を持って電車に乗る。なんだか急に日常に引き戻されたような気がして不思議だった。
年齢でいえば厄年だが、お祓いをしていただいたのだから、もしかしたら却って良い年になる、かもしれない。そんな都合の良いことを考えながら帰路につく。
家に帰っておさがりを開ける。お酒に粟おこし、御守り、等々。御守りを頂いたのは久しぶりだ。仕事用のバッグに入れておくことにしよう。
梅の形のお干菓子をうっかり落として早々に割ってしまうという狼藉をはたらいてしまったのだが、まあ、なんというか、それはそれである。あれだ、厄落としだ。別に落ち込んでなどいない。全然、まったく。
私の厄年はこうして始まった。
どんな1年になるのやら、はてさて。
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