ヒント125 病院経営の好手(こうしゅ)と悪手(あくしゅ)

<2018年5月10日加筆修正>

 長いあいだ病院経営に関わっていると、経営者やコンサルタントが繰り出す経営改善の一手に好手・悪手があることがみえるようになってくるものだ。一見、悪手のように見えて、数手先、数年先のことを想定した好手もあれば、目先の改善も定かではなく、しかも、数年先にはきっと問題化するだろうという悪手もある。

 残念なことに、今の医療界は悪手が氾濫している。そればかりか、次から次へと新手の悪手が出現する。提案する側はその場限りの商売だが、受け入れる側はそうはいかない。一つの判断が将来に禍根を残すことになるのである。それはまるで、自らがん細胞を移植するようなものなのだということに気づいて欲しいのだが、悪手好きの人たちに聞く耳はないようだ。

 将棋や碁の世界では、大局観から一手一手を評価する。形勢を逆転する一手、勝負を決する一手、守りを盤石にする一手、手の好悪は全体のなかで評価されるのである。

 病院経営は将棋や碁よりも複雑である。しかし、やっている事の本質にかわりはない。この一手は難局を打開するものか?打開した後の展開はどうなるのか?次の次の展開にどう作用するか?などなど、緻密な論理と無限の想像力を駆使する知的活動であることにかわりはないのである。

 わたしは病院経営と関わるときには、この好手と悪手という見方をもって臨んでいる。このことは、医療経営コンサルテーション論で扱う、コンサルティングの基本の一つである。残念なことではあるが、病院経営に関していうと、大体の流行りものは悪手が多いというのが経験的にわかっている。近年、とみに公立病院での悪手が目につくところであるが、それは気のせいではないようだ。しかし、だからといって何ができるわけでもない。ただ静観するだけである。せめて関わりのある病院にだけ、悪手を警告し、好手を伝えるにとどまらざるをえないのである。

 いくつか例をあげてみよう。

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医療経営学の視点から、病院経営の抱える問題について、解決策を考える上でのヒントになれば幸いです。