思いつくままに
人間が唯一他の動物と違うのは、「生きるために殺す」ということから離脱したことにある。
ところが、遊動狩猟採集民から農耕定住狩猟民となって食料備蓄が可能となって以来、共同体間で食料の奪い合いが始まり、普遍闘争、つまり戦争が、常に勃発していた。
人間社会の戦争は、17世紀、ホッブスによってはじめて人間社会の基礎原理として哲学的に自覚された。(「万人による万人に対する戦争」)。
人間は自分の欲望を実現するチャンスが等しくあり、自分が生きるために自分の力を自由に行使できる権利、つまり自然権をもつ。各人がそれぞれ自然権を保有していると、万人の戦争状態になるというのである。
この戦争状態を止めるには、人々は、自然権を放棄し、人びとの合意によって人工的な絶対的国家を創りだして、この国家が人びとを統治することだ、とホッブスは主張した。
イギリス、アメリカのような巨大な覇権国家ができたが、戦争を止めるどころか、煽っているのでは思えるのが現状である。
カントは、戦争を起こさず、永遠平和を実現するために必要な条件として、次の六つを提案した。
戦争原因の排除
国家を物件とすることの禁止
常備軍の廃止
軍事国債の禁止
内政干渉の禁止
卑劣な敵対行為の禁止
これだけを見ると、カントは単に、理想論を語っているだけに見え、現に、ヘーゲルたちから非難されていた。
しかし、カントの本音は、次のようなことにある。
争うことは人間の本来の性質であり、戦争は人間の本性である。
人間の本性は邪悪であるが、理性によってこの傾向活用することができれば、平和が達成できる。
人間が利己的であるように、国家も利己的なのだから、戦争すると損するということを皆に理解させる。
一方、ヘーゲルは次のように考える。
人間だけが「自由への欲望」を持っている。「生きたいように生きる」という欲望をもっている。人間は、この「自由への欲望」を持っている限り、お互いの欲望がバッティングするために、争いが絶えないのだ、とヘーゲルは考えた。
戦争で負けたばあいは、奴隷となり、自由を奪われれるので、命を賭けてでも、次も戦うということを繰返すので、いつまでたっても、戦争を止めることができない。
戦争を止めるには、お互いがお互いを自由な存在であることを認めあう社会のルール、つまり「自由の相互承認」を創ることだという。
ヘーゲルの死後、約200年の現在でも、ロシア対ウクライナ、イスラエル対ハマスと戦争が発生していることからも分るように、人類は、戦争の抑制という根本の課題を、完全には達成できていない。
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