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スタンダール『恋愛論』結晶作用

19世紀のフランス文豪、スタンダールは、著書『恋愛論』の中で「結晶作用」について述べている。

といっても、この本を読んだわけではなくて、苫野一徳著『はじめての哲学的思考』に、下記の文章が引用されていたので、目に止まったからです。

ザルツブルクの塩坑では、冬、葉を落とした木の枝を廃坑の奥深く投げこむ。2、3ケ月して取りだして見ると、それは輝かしい結晶でおおわれている。

私がこれを結晶作用と呼ぶのは、我々の出会うあらゆる機縁に、愛する対象が新しい美点を持っていることを発見する精神作用である。

苫野一徳. はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書) (p.152).
筑摩書房. Kindle 版.

塩坑に小枝を投げ入れると、2、3ケ月後には、その小枝には塩の結晶がびっしりと貼りつくので、輝かしく見える。

このように、恋に落ちた時などは、相手の人を実物以上に美しい存在に仕立て上げる。

だが、これは、恋に限ったことではないだろう。

若いときに憧がれていた親戚と、約45年ぶりに出会った時、世界観や人生観にズレがあり、まったく嚙み合わないことで、ガックリしたことがあった。

自分のロマンで相手を彩っていたので、実物以上の尊敬されるべき人物に見てしまうため、そのギャップに残念感を味わうのであろう。

noteの記事にも書いたことがありますが、私は、むしろロマンを苦手としている方です。それでも、憧れたことはあり、その度に、裏切られるということの繰り返しだったような気がしている。

このように表現すると、まるで、私のみが、善人かのようになってしまうが、私自身も、相手を裏切ったであろう。

米テレビドラマ「ブラックリスト」のヒロインは、様々な男性に恋をしていた。画像を通して、客観的に観るので、なんで、こんな嘘つきで怪しげな男性に恋心を抱くのだ、と愚かさと憐れみさえ感じた。

だが、実際には、彩りされたフィルター付きの目で相手を判断すると、このヒロインのようになってしまうのだということがよく分かった。



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