【5月の終わりに100パーセントの筋肉に出会うことについて①】

予感めいたものはなかった。
突如自宅のトイレが詰まった。それは誰にも想像できなかっただろうし、僕自身そういう場面に遭遇するのも初めての出来事だった。

僕はGoogleで「トイレ 詰まり」と検索した。YouTubeにはたくさんのトイレ詰まりを解消する動画で溢れていた。僕はひとつひとつ確認し、今自宅にあるもので可能な対応を実践した。でもトイレ詰まりを解消することはできなかった。まるで長い年月をかけて大きくなった樹木が複雑に根を張って、「お前なんかには動かさせないぞ」と主張しているようだった。

僕は専門の業者に依頼することした。
24/365のサービスを謳うトイレ業者は、夜の遅い時間でも嫌な顔せず、やってきた。
「こんばんは」
爽やかな声で業者は言った。まだ20代前半と思える若い青年だった。身長は僕よりも低い。
「こんばんは」
僕も同じような声でそう言った。
「では早速見せてもらえますか」
業者は手際よくトイレを確認し、まずは手順として、薬剤投与が必要なことを説明した。それでもダメなら高圧ポンプによる対応になる。彼はこんこんと作業の流れを説明した。

ただ、業者の対応はどれも功を奏さなかった。トイレは詰まったままだった。
例えば、この話を僕が誰かに話したとしよう。おそらく「業者が若いからダメだったんじゃない?」と言うだろう。でもそうじゃない。

なぜなら彼には逞しい筋肉があった。それは僕になくて、彼だけにあるものだった。彼の声は喉から出るものでなく、まるで筋肉が語りかけるような声だった。

流れないトイレを見て、彼は言った。
「これはトイレの問題じゃない」
「トイレの問題じゃない」
僕は復唱した。
「トイレを分解したところで何も生まれはしない。いいね、分かるかい?」
「トイレは悪くない」
「そうだ、その先の配管に問題があると思う。それはとても費用のかかることだ。7-8万はかかるだろう。でも繰り返す、トイレは悪くない」
「トイレは悪くない」
僕はもう一度復唱した。
彼は立派な筋肉をつけていた。それはたゆまない努力と日々の日課をこなしてした結果だろう。筋肉が語る言葉に嘘はあるのだろうか。
「トイレは悪くない」それは真実の言葉に違いない。
依然、トイレは詰まったままである。

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