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【ザ・ビジョン①】なんの興味もなかった自分が樺沢紫苑のビジョン発見セミナーに行くことになった経緯

 これは新型肺炎が流行る前の昨年末の話である。何から語っていいのかまるで分からない。長くなるかもしれないが、読むも読まないの自由だ。この先に進むときはビジョンを持って進んでほしい。
※今回紹介する本は『ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか』(ケン・ブランチャード)です。

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 2019年11月頃だったと思う、妻は樺沢紫苑に心酔していた。どうやら樺沢氏の『OUTPUT大全』を読んで感銘を受け、そのあと彼のYouTubeチャンネルを観て夢中になっている。
 妻は夢中になるとそれしか見えなくなるタイプだ。「樺沢紫苑はすごい、すごい」と繰り返していた。私は遠い目をしながらそれを見つめ、やがてその災厄が私に降りかかるであろうことも予期しながら日々を過ごしていた。だが、その日は恐るべき早さで訪れた。

「12/7(土)に樺沢紫苑のセミナーがあるの」

 妻の右目は盲信的で左目は狂信的な光を放ちながら、鋭い視線で私を射抜いている。
「それがどうしたんだろう」
「あなたはそれに行かなければならないの」
 私は言葉を失った。まるで遊星人の言葉のように理解が追いつかなかった。
「わからないな」
 長い沈黙のあと、僕は首をふった。
「あなたの予定は空いている。それは知ってる。だから行かなきゃならないの」
「そもそも僕は樺沢何某のことをよく知らない。君が好きなことは知ってるが僕に関係ないだろう」
「あなた、私が樺沢紫苑が好きなことを知っているわよね」
 妻は激昂した。知ってるよ、と私は答えた。
「私はその日、踊りの稽古があるの。だからセミナーに行けない。私の体は二つないの。それは真実よ」
「君の体は二つない、それは真実だ」
 私はオウムのように繰り返した。
「だからあなたが私の代わりにセミナーに参加し、それを私にレポートするの、それだけよ」
 私は強く抵抗した。樺沢紫苑を知らない人間が参加してもセミナーの理解度も薄いだろうし、意味がないと強く訴えた。
「まだ時間は一週間ある。それまでにあなたは樺沢紫苑のことを予習したらいいんじゃないかしら」
「ちょっと待ってくれよ、無茶苦茶じゃないか」
 私は声を荒げたが、妻の意思はダイヤモンドのように硬かった。
「どうして分からないのかしら。樺沢紫苑先生はメンタル疾患を予防し、年間の自殺者を減らそうと努力している素晴らしい人なの。つまり世界平和に貢献している人なの」
「そうかもしれない」
「でも私は体が二つないから、世界平和に貢献できない。私はとても悔しいの」
「君はとても悔しい」
 妻の言葉を繰り返した。
「だからあなたが代わりに樺沢先生のことを予習してセミナーに参加しないと行けないの、参加しないということは、つまり世界平和の行動に反旗を翻すことになるの。あなたがそれを断る姿を私は見たくないの」
 だんだんと稲光のように声は大きくなり、まるでカリスマ的な独裁者のように妻は演説を始めた。それから私はできる限りの手を尽くして反抗したが、それは砂漠に水をまくような作業でどれも意味をなさなかった。
「やれやれ」
 その夜、私はインターネットから樺沢紫苑のセミナーに申し込みをすることになったことは言うまでもない。

「あなたはこれを読むのよ」
 妻は私に臙脂色の単行本を手渡した。
「これはなんだろう」
「セミナー参加の必読書よ、これを読まないと参加しても理解度が薄いわ」
「君は読んだのかい?」
「読むわけないじゃない。参加しないんだから」
 妻は吐き捨ているように言った。人間は不思議なもので理不尽ともいえる仕打ちにも時間が経てば、自然と慣れてくるのである。『ザ・ビジョン』、妻から受け取った本にはそう書かれていた。


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