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ファミマの鯖おにぎりの話

いつからだろう。おにぎりの具を目当てにコンビニを選ぶようになったのは。

私はある時期、乗り換え途中にあるファミマで買う鯖おにぎりにやたらと熱を入れていた。
鯖おにぎりが新発売の肩書をつけて店頭に並び始めた当初、私はそれをツナの亜種程度に思っていた。具が魚だからというのもあるが、値段もツナマヨの110円と全く同じで、コンビニおにぎりの一番安い部類に入っていたからでもある。
でも私は知っていた。本当に美味しい鯖から流れる油の甘さを。年に一度、実家に届く燻製鯖の美味しさといったら。私の肘から指先までありそうな鯖が丸ごと一匹、太い竹串に刺さって届くのだ。丸々と太ったそれを、家の魚グリルへ腹が引っかからないよう慎重に入れ、じっくりと焼く。滴る油でジューと音が鳴る頃には、サッカークラブのナイター練習から帰ってきた弟なんかが揃っていて、家族みんなで大皿に乗った鯖の好きなところを突っつく。身の隙間から流れて止まらない油。キラキラとした粒になって、身の水分と一緒に流れ出てくる。炊き立てから1時間ほど置いたあきたこまちはみるみる消えていった。
鯖おにぎりを見たとき、最初に想像したのはその油で輝く鯖の身だった。しかし、まさかコンビニの鯖がそこまでのクオリティを提供してくれるとは思っていない。私はすぐさま頭を切り替え、パサパサで、噛むとキシキシする冷えた鯖がご飯に包まれている様を想像して、買うのをやめた。それからしばらくは、おにぎり棚の一列を占領する鯖を横目にいつも通りツナマヨとゴマ鮭を買っていた。
けれども、こうも新発売!鯖!鯖!と推されては、しばらく帰っていない実家の鯖がどうも頭を過ぎる。日に日に私の舌は鯖を欲するようになっていた。
鯖おにぎりから新発売のシールが外れて2〜3ヶ月がたった頃だろうか。ある夜の私は、居酒屋のサバの味噌煮が売り切れてことにしょげていた。そうすると代りのものをいくら食べても、鯖を口にしなければ満足できないものだ。そういう経験は誰しもあると思う。仕様がないので帰り道のコンビニでシメを探した。目当ては鯖缶だった。が、数分後自動ドアから出てきた私は鯖おにぎりを手にしている。あれほど期待していなかった鯖おにぎり。
食べてみて唖然とした。美味しい。
具の鯖は硬くなかった。キシキシしてもいない。だからといって、鮭そぼろのように身が切れ切れになっているわけでもなかった。まとまった白い身が、口に入れると柔らかくほぐれていくのだ。甘い脂を絡って。
これが110円?140円でもいいのに。そのくらいしても買うのに。結局私は、鮭が110円の安おにぎりから消え、ワンランク上のおにぎりに仲間入りした頃から、110円という安さを馬鹿にしていたのだろう。
それ以来、鯖おにぎりがお気に入りとなった。
しかしそれも束の間、鯖おにぎりは更に1〜2ヶ月後、店頭から姿を消した。
売れなかったのだろうか。原価率が高かったのだろうか。鯖のほぐし身なんて鮭ほど出回っていなさそうだし。そんなことを考えて少し落ち込んだ。
そうして私の鯖おにぎり熱が落ち着いたのは2年前のことだった。

現在、鯖おにぎりは新しいパッケージとなってファミマの定番商品よろしく店頭に並んでいる。ツナマヨとニコイチといった貫禄を伴って。


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