見出し画像

レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「アメリカの高校の寮生活で得た4つの学び」(University of Pennsylvania・村越マイケル)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、海外の大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

今回は、University of Pennsylvania(ペンシルバニア大学)に留学している村越マイケルさんによる寄稿です。

自己紹介

画像1

筆者写真

村越マイケルです。僕は中国、オーストラリア、アメリカで育ちました。中学一年生の時に帰国し、横浜インターナショナルスクールに通いましたが、新たなチャレンジを求めて家族の元を離れ、アメリカ北東のニューハンプシャー州にあるフィリップス・エクセター・アカデミー(以下、エクセター高校)という全寮制の高校、つまり「ボーディング・スクール」に留学しました。

エクセター高校を卒業した後は、1年間ギャップイヤーを取り、日本で行動経済学を使ったマーケティング会社でインターンをしたり、エクセター高校の友達と一緒にオンライン個別指導サービスを起業したりしました。9月にはペンシルバニア大学に戻り、脳科学とビジネスを専攻する予定です。

ギャップイヤー中にはSHIMOKITA COLLEGEで数ヶ月暮らし、日本での寮生活も体験することができました。ここでは、僕のエクセター高校における寮生活で学んだことを紹介したいと思います。

エクセター高校の寮の仕組み

エクセター高校での経験の中で寮生活は欠かせない存在です。生徒の約8割は、4年間の高校生活を同じ寮で過ごします。基本的に生徒は自分が住む寮は選ぶことができず、寮に多様性を持たせるために学校側が異なる国籍・州や人種、また家庭環境が違う様々な生徒を各寮に振り分けます。また、意図的に個性や興味が違う生徒を各寮に混ぜ合わせているようです。こうして、寮には将来の「社会生活」に似た環境が作りあげられています。

1200人の生徒を持つエクセターのほとんどの寮は50人が定員ですが、僕はKnight Houseという小さな20人弱の寮、まさにひとつの「家」のような”House"に住むことになりました。

エクセターでは、寮の友達が学校での最初の友達になると言われています。門限が20時のため、寮でみんなと過ごす時間は極めて多いからです。エクセターでの3年間を振り返ると、Knight Houseでの楽しい思い出がたくさんあります。

画像5

エクセター高校のKnight Houseの外観

寮生活での学び#1〜視野の広まり〜

多様性がある寮は、毎日のように生徒の視野を広げる材料にあふれていました。生徒の中には、アメリカの真ん中のミズーリ州(トランプ元大統領を選出した州)の孤児院で育った生徒やニューヨークの貧しい住宅街で育った黒人もいれば、アメリカ史上最大の資産を持つロックフェラー氏の子孫もいました。

家庭環境だけではなく、日々の話題も多様です。人種差別や環境問題などの時事問題に関連するトピックは、学校のカリキュラムのみならず寮の中で普段の会話にも出てきました。夜遅くまでこうした問題を自分と生い立ちが全く違う生徒たちと議論することは、僕にとって新鮮で大きな刺激になりました。

画像3

寮生の旅行での火鉢料理(鉄板焼き)の様子(筆者は写真の2列目右から2番目)

寮生活での学び#2〜自立の加速〜

家族の元を離れ16歳で渡米した僕にとって、日本の文化と全く違うアメリカでの一人暮らしは大きな転機となりました。人生で初めて朝8時の授業に出席するため、ちゃんと一人で起き、遠くにある食堂まで(冬にはマイナス20度の寒さになります)の道のりを毎朝歩きました。簡単なことのようですが、こうした基本的な日常生活のリズムを持つことに苦労する学生がたくさんいました。

また、毎晩、寮では自分の部屋で勉強するか、友達の部屋で遊ぶかという2つの選択肢に迷います。友達を作りたい気持ちも強かった一方で、エクセターでは毎晩数時間の宿題をこなさないといけないので、遊びたい気持ちに駆られた時は「何のためにはるばる日本からアメリカまで来たのか」という理由を思い起こし勉強に励みました。寮では、毎晩のように夜中の3時や4時まで起きていて、友達と話したり遊んでいる子もいましたが、僕は何度かの夜更かしの翌日の授業中のだるさを経験した後、十分な睡眠を優先するようになりました。こうして、寮での一人暮らしを通して自分の生活バランスを考えるようになり、同年代の人たちより早く自立ができたと思います。

画像4

寮の友達の誕生日をみんなで祝う様子!(筆者は写真中央)

寮生活での学び#3〜文化の違い〜

留学すれば誰でも文化の違いを感じるはずです。中一で帰国するまで13年間海外で暮らしてきた僕は、様々な文化に触れながら育ちました。それでもエクセター高校の寮生活を経験するまでは、他国の文化の違いに対する僕の理解はかなり浅かったように思います。寮で他国の学生や家庭環境が違う学生と住んでいると、多くの文化の差に毎日のように気づきます。アメリカならではのポジティブな思考、遠慮をしないオープンなコミュニケーションの仕方に大きな文化の違いを感じました。

寮生活での学び#4〜社会問題への意識〜

#1でも話したように、寮では社会問題についての会話が多かったです。エクセターでの二年目には、黒人生徒への差別が未だにあるという抗議を黒人以外の生徒を含めた数百人の学生が学校に対して行い、その日の授業が全て中止になったことがありました。こうした抗議活動に参加するのは僕にとって初めての経験でした。この日の夜、数人が寮の僕の部屋に集まり、学校は何をすればより人種差別のない包括した環境を作れるのか意見を交わしました。

また、僕を含めた社会的少数者(マイノリティーグループ)が快適な寮生活を送れる為には何をすればいいのかも議論しました。このような社会問題に対しての議題は寮生活の中では溢れるほどあり、僕の社会問題への意識が上がりました。エクセターの寮で身についた社会問題への深い関心により、ギャップイヤーで日本に帰ってきてからは、どのように日本の若者に政治や社会問題に興味を持たせるのかという課題について考えるようになりました。

画像5

寮の友人とピート・ブティジェッジ氏の大統領民主党予備選挙における演説(筆者は写真右から2番目)

僕が紹介した4つのことの一部は、寮に住まなくてもアメリカの大学や高校で経験できると思います。しかし、寮生活を通し多様な学生と身近な空間で暮らすことにより、自分には更に大きなインパクトが残ったと思っています。エクセターの授業、スポーツ、課外活動などは全てが素晴らしく印象的ですが、僕だけではなく多くの卒業生が寮生活がエクセターでの経験の中で自分に一番大きな影響を与えたと言います。以上、僕の経験が少しでも日本の皆さんのお役に立てたら幸いです。

HLABと一緒に「多様な人々が共に住みながら学び合う」環境をつくっていきませんか?小さなサポートから、新しい時代の教育を!