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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「キャンパスに住む意義」(Pomona College・上原さら)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、海外の大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

今回は、Pomona College(ポモナ・カレッジ)に留学している上原さらさんによる寄稿です。

自己紹介

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筆者写真(右端)

私は、現在全寮制のアメリカ大学に通っています。

Pomona Collegeでは、大学に通う大半の人がキャンパスの敷地内にある学生寮で生活しており、大学=家、というような学生生活を送っています。私は現在3年目が終わった夏休みを過ごしていますが、パンデミックの影響で2020年3月に学校を離れ、1年以上もの間を日本で過ごしてきました。その期間、オンライン授業をとったり大学の行事にzoomで参加したりしておりましたが、そうしているうちに、あらためて寮生活の尊さに気づかされました。
今回はその経験を踏まえ、「キャンパスに住む意義」についてお話ししたいと思います。

「コミュニケーション」について

まずは、コミュニケーションというキーワードにフォーカスしてお話しします。

人と一緒に住むということは、あらゆる問題が生じて当然です。ましてや生まれた国も育った環境もまったく違う人たちが集まる私の大学では、まったく違う価値観の人々が生活を共にします。寮生活の中で、価値観同士のぶつかり合いや、衝突が起きるのは日常茶飯事です。

例えば分かりやすい例で言うと、音楽専攻の私は楽器の練習のために部屋で大きい音を出すことがありますが、一方で部屋で静かに論文を読まなければならない(専攻の)人にとってはそれを不快に思うことがあるかもしれません。このように、人によって部屋の使い方が変わったりします。

また、経済的に余裕のある人々は、学食があるのにもかかわらず外食したり出前をとりたがりますが、極力お金を使わずに生活したい人もたくさんいます。その場合は、友達同士、どこでご飯を食べるかで揉めることもあります。経済的な価値観の違いでの衝突もよく起こります。

このように、些細なことでの意見の食い違いはよくあるので、密なコミュニケーションを常に絶やさず、周りに対して配慮をしつつも、自分も息苦しくならないよう工夫することが寮生活においてとても大事だと思います。

寮生活を始めてから、コミュニケーション力が上がりました。前までは何かと申し訳なく思うことが多く、多少嫌なことがあっても辛抱強く我慢することが多かったのですが、今では嫌だときっぱり言えるようになりました。

自由に友人の部屋を出入りすることが日常の寮生活において、他の人に自分のベッドに座られることが嫌だった私は、部屋に遊びに来るあらゆる人に”ベッドに乗るな”と伝えていたのです。すると、いつの日か寮生の中で 「ベッドを触らせない人」という評判がつくようになりました

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デスクの写真

「公私の境界線」について

もう一つ、寮生活の醍醐味とも言える、「公私の境界線」というキーワードに着目して話してみます。

私は、大学に入るまでの18年間、家族以外と生活したことがありませんでした。中高時代は、良くも悪くも、 家に帰ってしまえば学校とはまったく関係のない世界がありました。自分のプライベート空間が確立されていましたし、オンとオフの切り替えが上手にできた気がします。しかし、大学で寮生活を始めて、急にその切り替えが難しくなりました。深夜2時、歯を磨きおわって寝ようとしている瞬間に「チキン食べよ!」とメッセージを送って来る人。何か嫌なことがあって部屋でしょげている時に部屋のドアをノックしてくる人。ちょっと水を汲みに行こうと部屋から出た瞬間に遭遇してしまう、いつしか気まずい関係になってしまった人。あらゆる人間関係のごたごたから切っても切り離せない環境に疲れ切っている自分に気付いてしまったのです。

大学1年目はこの切り替えがうまくいかず、どこに行っても辛いと思ってしまい、心を閉ざしてしまう瞬間が多くありました。しかし、人と親しくなっては摩擦や喧嘩を繰り返しながら、時間と生活スペースを共有していくうちに、だんだんと色々な人に心を開いていくことができました。もちろん全ての人と良い関係が築けるわけがありませんが、それ以上に私が大切だと思える数人の親友たちに出会えて幸せだと思えるようになりました。

また、昔は友達に遊びに誘われても行くのを渋ってしまうことが多かった私も、友達と他愛のない会話をしながら夜食を食べたり、深夜からボウリングに行って汗をかく瞬間が、図書館にこもって一人で勉強している時間よりもはるかに大切な時間かもしれない、と気づきました。もちろん、こもらざるを得ないほどの膨大な課題と一人で戦わなくてはならない時もありますが、友達との時間も設ける方が、時間の使い方の切り替えがうまくいって勉強がはかどることもあります。そして何より、同じ建物まで一緒に帰宅したのち、「おやすみ」と部屋の前で言える友達がいること自体が愛おしい、と思いました。寮生活を通し、もっと人が好きになったと実感しました。

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大学の友人との一枚

最後に

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現在私が住んでいるSHIMOKITA COLLEGEでも、大勢の素敵な友達に恵まれ、絶えず学びが多く刺激的です。

秋から1年半ぶりに大学の寮生活に戻ることになるので、楽しみな気持ちで胸がいっぱいです。以前よりもっと友達と顔を合わせられる時間を大切に思い、残り少ない大学生活を満喫したいです。


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