見出し画像

なでしこジャパンが優位を取り戻すには?

 なでしこジャパンと言えば日本の女子サッカー日本代表。10年ほど前、ショートパスを駆使した美しいポゼッションスタイルのサッカーで一世を風靡し、2011年の女子ワールドカップで優勝、2012年ロンドン五輪で銀メダルを獲得した。

ロンドン五輪の思い出

 ロンドン五輪の決勝戦には個人的な感慨がある。あのとき、仕事のカンファレンスでアメリカ中部に出張していた。二日半に渡って行われるカンファレンスで、最後の日は昼まで。

 それが終わって、ホテルのバーでアメリカの友人たちとランチがてら軽く飲んでいたら、テレビで女子サッカーの決勝戦、つまり日本対アメリカ戦の中継が始まった。時差の都合でアメリカではちょうど午後の早い時間だったんだろう。このカンファレンス、日本人の出席者は自分だけだった。つまりバーの周りの客はみんなアメリカの応援。日本を応援するのは自分だけ。これはこれで印象的な思い出だ。勝って周りが沈黙したらさぞ気持ちよかったとは思うが。負けて残念でビールを追加したのもいい思い出だ。

「戦術」を発達させよう

 さて、今大会のなでしこジャパン。初戦のカナダ戦は1点を先制されるものの追いついて1-1の引き分け。2戦目のイギリス戦(サッカーで「イギリス」と呼ぶのは慣れないが・・・)は終盤まで0-0だったが1点を失って0-1で敗北。

 この2試合から言えることは、ボールを扱うスキルは相変わらず高いということ。決してロンドン五輪当時から「退化」しているわけではない。しかし、ほとんど得点の気配を感じることはできなかった。そのちがいはやはり、ボールスキルで他の国に「追いつかれた」と言うことがあると思う。

 ではなでしこはこれからどうすればいいのか?

 逆説的だが、女子サッカーにおいてはフィジカルの重要性が高い。男子サッカーよりも高い。おそらくフィジカルの差が出やすいのだろう。なので、大きさ、強さで優位な選手がいるチームは、そのフィジカルの優位を前面に押し出して戦う傾向がある。

 10年前のなでしこはそれに対してボールスキルの優位で立ち向かったわけだが、ボールスキルで並ばれてしまったのでやはりフィジカルの差が出るようになってしまっている。実際、これまでの2試合とも、デュエルで完全な劣勢に立たされてしまっていた。そうなってしまうと試合運びが厳しくなるのは必然。ボールスキルで互角、フィジカルで劣勢となったら優位性がなくなってしまうからだ。

 しかし、サッカーというスポーツではもうひとつ大切なパラメータがある。戦術だ。女子サッカーにおいて、未発達だと感じる部分がこの戦術だ。

 これはロンドン五輪当時も思っていた。フィジカルの優位が勝敗に出やすいために、戦術が軽視されている、というかフィジカルの優位を生かすような戦術のみが使われている、と言ってもいい。この点は今も変わっていないというのが東京五輪を見た印象。

 それはなでしこも例外ではない、と言うよりなでしこを見ていて強く感じるところだった。前線でのプレッシングの連携のなさは現在の男子サッカーでは考えられないレベルだったし、サイドを攻めるときでも違うレーンを使えていない。ハーフスペースを利用することはほとんどなく、同じレーンに縦に並んでしまってパスコースができないことが多い。

 一例を挙げてみよう。サイドハーフが切り込んでハーフスペースに当たるレーンに入ってきても、それを追い越すサイドバックの動きがない。

 簡単な図にしてみた。この状況はイギリス戦でもカナダ戦でも繰り返し起こっている。

スライド1

 こうなってしまうとディフェンスは中に絞って守ることができる。それを突破するのは非常に難しい。ここでサイドバックが上がれるような守備のポジショニング、あるいはディフェンスラインを動かすようなフリーラン、そう言った部分を詰めていけば、フィジカルで劣り、ボールスキルで並ばれたなでしこジャパンでももっと戦えると思う。

 そのために必要なのは、男子サッカーからの戦術のインポート。女子サッカーと男子サッカーとでは監督・コーチは別になっているようだが、男子サッカーの戦術寄り(モチベーター寄りではなく)の監督・コーチを女子サッカーに入れてくれば、なでしこは再び優位を取り戻すことができると思う。それが難しい、と言うならテクニカルディレクターと言うような形でも良い。

国内リーグも活性化して欲しいが・・・・

 もうひとつ、やはりなでしこが強くなるためにはやはり国内リーグの活性化も必要だろう。もちろんそのためにWEリーグができるわけだが。

 ただ、「自分はWEリーグを見に行くだろうか?」と考えると、「行かないのではないか」と思う。何より場所が不便すぎる。自分はラグビーのためなら熊谷やオリプリ(市原)まででも行くが、同じ場所で行われる女子サッカーの試合を見に行こうとは思わない。西が丘でも厳しい。

 逆説的だが、マイナースポーツこそスタジアムの立地が重要。その点、ラグビーは秩父宮と言う素晴らしい立地にあるスタジアムがあり、ビギナーをスタジアムに呼び込むのに有利な場所にある。ある意味、ラグビーが「冬の時代」を乗り越えることができたのは秩父宮があったからと言うことさえできる。

 そう考えると、女子サッカーの将来はやはり厳しいと思うのだ。娘もサッカースクールに通い始めたから、女の子が憧れられる女子サッカーの選手って大切だと思うのだけれど。

 秩父宮ラグビー場、改築されたら女子サッカーにも使用させてもいいのではないか・・・・。