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「修正力」という強み:ラグビーリーグワン ワイルドナイツ対ブレイブルーパス戦(2022年1月19日)

 今日は熊谷でラグビオーリーグワン ワイルドナイツ対ブレイブルーパス戦を観戦。今年はどちらも3試合目の観戦。ワイルドナイツはCOVIDの感染者が出た影響で2試合不戦敗と出遅れたがその後全勝して4勝2敗。ブレイブルーパスは去年の不振が嘘のような仕上がりながら、勝ち星には必ずしも恵まれず3勝3敗。

 最終スコアは30-18でワイルドナイツの勝利。最後は12点差がついたが、前半は11-13でブレイブルーパスがリード。後半も29分までは18対18の同点と、非常に拮抗したゲームだった。

ブレイブルーパスの「接近」してのパス

 前半はお互いにキックを効果的に使ってテリトリーを稼ぎ、その上で仕掛ける現代ラグビーらしい展開。

 その中でも目を引いたのがブレイブルーパスのアタック。時に12番のベイトマンがスタンドオフに入るダブルスタンドオフ的な攻撃。ブレイクダウンからボールを出すとポッドでディフェンスに接近していくのだが、クラッシュ寸前にすぐそばのサポートランナーにショートパス。

 前半のワイルドナイツは引きつけてタックルしていたこともあり、パスされたサポートランナーへのマークが間に合わず、ブレイブルーパスが着実にゲイン。これを繰り返しながら前進し、要所ではループを使ってアタック側を余らせて攻めていた。前半6分のピアスのトライはまさにその形。

 ワイルドナイツもブレイクダウンからフェイズを重ねての攻撃を繰り返すが、ブレイブルーパスのディフェンスのタックル後の立ち上がりが早い。さらにフェイズが変わった後のディフェンスの再ノミネートも早い。

 ブレイクダウンにも激しく絡み、ワイルドナイツの球出しを少しずつ遅らせられていたことと合わせて、ワイルドナイツはなかなかゲインができない。

 10点をブレイブルーパスが先行した後で5点差に迫るトライはブレイブルーパスのミスから。キックが続いたアンストラクチャーから、ブレイブルーパスディフェンスの意識が横方向に向いたことを見逃さなかった竹山晃輝が縦のスペースを突いて奪ったトライ。しかしその後もワイルドナイツは攻めあぐね、PGとDGでなんとか11-13と追いすがってハーフタイムへ。

後半にラインスピードを上げたワイルドナイツ

 この試合の勝敗を分けたのはまたもやワイルドナイツの修正能力。後半になってディフェンスに大きな修正を施した。
 前半は前に詰めずに、待ち受ける形のディフェンスライン。それがブレイブルーパスのショートパスを活用した崩しにつながった。
 後半になっての修正はディフェンスのラインスピード。「待ち」だった前半と違って、アタックラインに対してアグレッシブに「詰め」てタックルを仕掛けていった。つまり、タックルするポイントが、前半よりも敵陣方向に深くなった。さらに、ボールキャリアだけでなく、ショートパスの受け手に対してもプレッシャーをかけていく。

 その結果、ブレイブルーパスはショートパスを封じられた。ディフェンスが上がってきているので、インターセプトのリスクもあり、コンタクト寸前にショートパスを放れなくなり、単純にクラッシュするだけになったからだ。単純なクラッシュであればシールドロックに挑む昔のラグビーと変わらない。ブレイブルーパスは効果的な前進も殆どできなくなり、後半14分のトライ以外は有効な攻撃がほとんどできなかった。

 一方ワイルドナイツのアタックはどうか。ブレイブルーパスのディフェンスがなかなか崩れない。
 まず見られたのは移動攻撃。ブレイクダウンから近いチャンネルに立っている9シェイプのフォワードが逆サイドに移動しての前進を何度か試みた。しかし、ブレイブルーパスもディフェンスがそれに対応して逆サイドに移動してタックルで止める。そのため、移動攻撃からも決定的なゲインを得ることができなかった。

 ブレイブルーパスのトライで同点となった後半14分から、ワイルドナイツが勝ち越しトライを奪った後半29分までの約15分間は、お互いが相手のシールドロックにぶつかり合うような肉弾戦が続いた。

 それを打開したのはラグビーの基本と言うべき、「縦を突いてディフェンスを集め、横に展開する」攻撃。
 攻め込んだワイルドナイツはウイングのコロインベテが中央レーンで縦を突いてビッグゲイン。そこにブレイブルーパスのディフェンスが集められたところを横に大きく展開し、ライン際で待っていたアウトサイドセンター(13番)ディラン・ライリーがフリーの状態でボールを受けてトライを奪った。

 この攻撃。通常のポジショニングから見ると、コロインベテとライリーのポジションが逆になっている。普通は縦を突くのがセンター(12番、13番)の役割で、横で待つのがウイングの役割。ここではそれが入れ替わっている。これは何らか準備された攻撃なのだろうが、後で詳しく見ておきたい。それから自陣深めの位置からのハイパントからコロインベテが走りきって決定的なトライを奪い、最終的には12点差をつけてワイルドナイツが快勝した。


まとめ:「修正力」を支えるものとは

 これまでもそうだったが、この試合でもワイルドナイツの修正力の高さが際立った。
 前半はブレイブルーパスのペースだったが、後半になってディフェンスのラインスピードを速める修正を行ったことで、ブレイブルーパスのアタックを封じ、ゲームの流れを自分たちに持って行き、最後はコロインベテの突進力で片をつけた。
 この修正力の高さがワイルドナイツの何よりもの強みだ。
 一方、ブレイブルーパスは、ワイルドナイツの修正に対して有効な再修正ができなかった。相手がラインスピードを上げてきたならハイパントを蹴ってウラを突くと言った対応が定石。ハイパントは実際に試されたが、キックの距離が今ひとつ長すぎ、単にワイルドナイツにボールを渡すことにつながってしまっていた。

 ブレイブルーパスの方向性は多分間違っていない。しかし勝利につなげるためには、試合中に修正できるいくつかの「形」が必要。その「形」をいくつも持っているワイルドナイツの強さが際立った試合ではあった。