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三笘薫の前半戦:川崎フロンターレ前半戦振り返り<4>

 フロンターレの前半の振り返り第4回。

 4回目は、普段のレビュー同様、三笘薫にフォーカスしてみる。いろいろまとめている間に移籍報道が出てきたので、もしかしたら「フロンターレの三笘」をレビューするのはこれが最後かもしれないけれど。

少しずつ減ってきたボールタッチ

 まずは敵陣でのボールタッチとプレー選択。集計対象は他の試合と同じ。リーグ戦のレイソル戦を除くホーム戦すべてだ。それぞれの列で、一番大きい数字が赤字、一番小さい数字が青字で示してある。サガン戦とアビスパ戦は出場時間が45分に満たないので緑字にしてある。

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 ボールタッチの平均値は44.4。去年の後半にデータを取った7試合での平均が53.8なので、10近く下がっていることになる。そもそも53.8を越えた試合が(出場時間の短かったサガン戦を除く)セレッソ戦。トリニータ戦しかない。

 さらに、後半6試合だけを見ると、平均は40.9になる。特に去年データを取った7試合では、ボールタッチ数が40を下回った3試合では1敗1分けで勝利がなかった。

 今年は40を下回った試合はヴォルティス戦、サンフレッチェ戦、グランパス戦、アントラーズ戦、コンサドーレ戦の5試合におよび、4勝1分けだ。アントラーズ戦に加え、サンフレッチェ戦など、左サイドの高い位置で三笘へのパスを食い止めようとするチームがあった。つまり、三笘へのボール供給を阻止しよう、と言うことだ。ボールタッチ数の低下は、そのあたりを反映しているものと思われる。

プレー選択の比率は去年と変わらない

 次にプレー選択を比率で見てみよう。

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 ドリブル、パス、シュートの比率は、去年データを取った7試合では37:56:7。今年の比率とほとんど変わらない。つまり、三笘のプレースタイルは去年と基本的に変わっていないと言うことだ。


ドリブル選択率が最も高かったのはアントラーズ戦

 あとはプレー選択を個別に見てみよう。

 ドリブルは一試合平均15.5回試みていて、最も多かったのが絶対数、プレー選択率ともにアントラーズ戦。最も少なかったのが絶対数ではヴォルティス戦、プレー選択率では横浜FC戦。

 アントラーズ戦は、常本佳吾のディフェンスを突破できず、ドリブル自体が外向きにならざるを得なかった試合なので、この結果はやや意外。ただし、次のパスの数字を見ると理由は察することができる。

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 パスは一番多いのがトリニータ戦。一番少なかったのがアントラーズ戦(いずれも絶対数、プレー選択率とも)。この試合のアントラーズは三笘へのパスを再三インターセプトするなど、三笘周辺のショートパスを人数かけて封じにかかっていた。ドリブルその分パスが出せず、ドリブルせざるを得なかったことだろうと推測される。

 多かったトリニータ戦では、左サイドでのパス交換に加え、谷口から10回パスを受けていたのが特徴的だ。この試合は三笘の2ゴールで2-0で勝っている。

パスの出所はやはり左サイドバックが一番多い

 パスについては出所も見てみよう。

 字が小さくなってしまって恐縮だが、それぞれの試合で敵陣でボールを受けたときのパスの出所を数えたものだ。なお、三笘とパスの出し手の2人が同時に出ている時間を特定するのにちょっと手間がかかるので、90分換算値は出していない。平均値は単純に合計値を対象試合数の12試合で割ったものだ。

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 順番は平均値の順にソートしてある。一番多いのは登里、2位が旗手。なお、前半欠場していた登里は出場試合数だけで計算すると平均が10.1になる。旗手も、左サイドバックとして出場した試合だけを計算すると平均値が8.5になる。

 当たり前だが、左サイドバックとのパス交換が非常に多いと言うことがわかる。ただ、平均を大きく下回ったのが鹿島アントラーズ戦の5。繰り返すが、アントラーズが三笘の周りのパスを封じ込めようとしていたことがわかる。
 3位が田中碧、4位が家長昭博。田中碧はインサイドハーフなので驚くようなことではないが、家長は本来右ウイング。家長が左に移動しての左サイドの崩し、と言うのがフロンターレの攻撃の1つの特徴だが、平均値でアンカーのシミッチを上回るくらいはっきりと家長と三笘のコンビネーションが機能していることがわかる。

 5位がセンターバックの谷口。トリニータ戦の10、セレッソ戦の8、サンフレッチェ戦の6が目立つ。センターバックではあるが、そこから直接三笘に付けるパスと言うのが有力な攻撃オプションであることがわかる。ボール奪取のところでも見たが、谷口はクリアするときも味方につなげることができるセンターバックだ。そのあたりのパス能力の高さが表れている数字だ。

シュートパターンの変化

 シュートは、90分平均でみると1.8本。多かったのはベガルタ戦の15%、少なかったのはグランパス戦のゼロ。なお、シュートについては今年と去年とで大きな変化がある。

 三笘の代名詞と言うべき、左サイドをドリブルで崩してカットインからのゴール隅へのシュート。去年はこの形から何本も決めているが、これは実は今年はゴールになっていない。レイソル戦の家長へのクロスやAFCでのテグ戦でのダミアンのゴールのように、縦に崩してマイナスのクロスを右足アウトサイドで、と言う形は何本かあるが、カットインしてのシュート自体が実はほとんどない。

 今年のゴールの多くは、右サイドを家長と山根で崩したあと、右サイドからのクロスをゴールする形。このあたりは、ディフェンスが整備されてきたのか、左サイドからのカットインの「ウラ」のオプションとしてフロンターレが右サイドから崩して三笘を飛び込ませる、と言う形を今年は多用しているのかはよくわからない。ただ得点パターンが明らかに違ってきていることはわかる。

前半戦の三笘まとめ

 まとめてみよう。

1.ドリブル、パス、シュートのプレーの選択比率は去年と変わっていない。
2.ボールタッチ数は去年の平均よりかなり少なくなっている。しかも後半になってさらに減っている。理由の1つは、三笘にボールを渡さないようなディフェンスを工夫してきていること。もうひとつは、右サイドからの崩しが実はかなり行われていること。
3.三笘のシュートパターンは、去年はドリブルでカットインしてからのシュートが多かったが、今年は右サイドからのクロスを蹴り込む形が多い


後半には別のチームになるフロンターレ

 と、ここまで4回に渡ってフロンターレの前半戦を振り返ってみた。簡単に言えば、田中碧のボール奪取能力、谷口彰悟のボール奪取後のボールをつなぐ能力、と言ったあたりが非常に特徴的だったと言える。

 ただし後半のフロンターレは別のチームになる。田中碧はデュッセルドルフに移籍。三笘薫もおそらく移籍する。そうなると田中碧のボール奪取能力と三笘の突破力が純減することになる。

 田中碧はボールを奪うだけでなく、シュートにつながるような形でボールを奪う能力が高く、なかなか代替できるプレイヤーではない。データ的には小塚和季に期待がかかるが、まだ時間がかかるだろう。

 三笘薫は言うまでもなくドリブルの突破力。今年は右サイドの攻撃の成熟度も増してきているが、それも三笘の「ディフェンダーを集める能力」が大きな役割を果たしている。長谷川竜也も優れたドリブラーだが、相手を躱すことはできても振り切ることについては三笘の方に一日の長がある。

 このあたりをどのように埋めていくのか。後半のフロンターレは非常に難しい課題と向き合うことになる。