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帝京の「原点回帰」:大学選手権決勝 帝京大学対明治大学

 今日は国立競技場でラグビー大学選手権決勝の帝京大学対明治大学を観戦。

 実は1月上旬に海外出張の予定があり、この試合には行けない可能性が高かった(昨日のリーグワンも)。けれどオミクロン株の流行で出張が延期になり、予定が空いた。
 また、この週末は娘のサッカースクールの合宿があったので、送迎の時間によっては観戦できない可能性があったのだが、送迎は夕方になったので、車を近くに止めてノーサイド後すぐに向かえば間に合う時間になった。

 ちなみに駐車場の予約に使ったのは軒先パーキングで、青山一丁目駅と一体化している新青山ビルの駐車場に止めた。このサイト、熊谷の駐車場予約の時に何度もお世話になったサイトだ。

 と言うわけで、実は今年の決勝を見に行くのは諦めていたのだが、こういう感じで「行けない可能性」がなくなったので、結局観戦できた。チケット発売日には大きく出遅れたのだが、準々決勝で早明が対決するため、決勝のチケットの売れ行きが鈍かったのが幸いした。
 席は1階席か3階席かで悩んだが、決勝なので俯瞰で見たいと思って3階席を選んだ。サッカー天皇杯決勝を見たのと同じ334ブロック。天皇杯の時は2列目だったが、今回は空いていたので最前列を取れた。席番は同じで、ちょうど1列前。

 上の写真はちょうど視線の高さで撮ったが、手すりがタッチライン際の視界にかぶる。今日は娘はサッカーの合宿でいなかったから問題にはならなかったが、子供の視線だと手すりがまともにかぶってしまいそうだ。これから娘連れで行くときは最前列は避けた方が良さそうだ。

 と言うわけで、試合後に娘の迎えに行かなければならなかったのでこの時間に速報レビュー。

帝京、完勝

 最終スコアは27-14(前半20-0)で帝京が勝利。4年ぶりの優勝となった。前半のスコアを見ればわかるように、試合全体を通じて帝京がゲームを支配した。
 ただし、この日はキッカーの高本幹也のキックが不調。5つのトライの内4本のコンバージョンを外してしまった。その中でも1本は難しい位置からだったが、3本はそれほど難しい位置ではなかった。それが決まっていれば前半だけで26-0、前半で完全に勝負が決まっていた。それだけ帝京が優勢だったと言うことだ。



ここではポイントを3つ挙げておこう。

ポイント1:帝京のコンタクトの強さ

 帝京大学出身の選手は、今のジャパンの中心にいる。それは、帝京が九連覇を達成した時代、選手たちのコンタクトを強化し、フィットネスを鍛え上げ、ブレイクダウンで立ってプレイすることを強く意識付けされたからだ。
 これらが国際水準に近かったと言うことが大きな理由となって、ジャパンの選手に帝京大学出身者が増えていった。そして早明は、これらの点で帝京に大きく後れを取り、帝京は黄金時代を作り上げた。

 今年の帝京のプレーを見ていると、この原点に返ったように思う。特に今日の試合でのコンタクトは非常に強かった。明治も可能な場合はダブルタックルで止めに入るが、多くの場合は足元に入るファーストタックルが有効ではなく、何歩かゲインされてしまう。

 大きな理由は、ダブルタックルに入ろうとしていても、セカンドタックルが遅れることが多いため、足元に入ったファーストタックルを外されてからセカンドタックルを当てる状況になることが多かったからだ。

 これではダブルタックルの意味がない。ディフェンスの時も、腰の高さに確実に入って明治の前進を止める。

 帝京の場合は、明治と違ってダブルタックルの際もほぼ同時にタックルに入り、きちんとボールキャリアを倒すことができていた。


 このように、接点で帝京が優位に立ったことが、この試合の趨勢を決定づけた。
 さらに、スクラムで帝京が圧倒的に優位に立ったというのも帝京の勝因にだ。明治のコラプシングを4、5回は取ることができた。

 明治がスクラムでここまで劣勢に立たされることは珍しい。特に早稲田や東海を相手にしているときにはスクラム優位を生かしたゲーム運びをしてきただけに、その優位が失われたとき、試合全体の流れを変えることが明治はできなかった。

ポイント2:ダブルラインの有効性の差

 帝京も明治も攻撃時はダブルラインを多用した(ダブルラインについては下記参照)。

 しかしその効果には大きな違いがあった。帝京はダブルラインに対して、バックドアに対して思い切って詰めてタックルを仕掛けていくことが多い。帝京に対する攻撃は、個の帝京の出足の早いタックルをどう処理するかが大きな課題となる。例えば去年の早稲田は、ボールのレシーバーがボールをキャッチする直前に横方向にずれることでタックラーをかわし、ディフェンスが上がった後ろを突いてゲインすることができていた。
 あるいは、バックドアにパスすると見せて、フロントドアで抜きにかかるというのも効果的だ。しかし、明治は、普段からダブルラインを引いているときにフロントドアに展開することがほとんどない。そこで帝京としては目標を絞り込むことができ、思い切ってバックドアにタックルを仕掛けることができた。そのため何度かビッグタックルを決め、明治の攻撃の目を潰した。
 一方、帝京のダブルライン攻撃ではフロントドアも使われる。そのため、明治はタックルの的を絞り込むことができなかった。
 明治のタックルが効果的でなかったのは、前述したようなコンタクトそのものの劣勢と言うだけでなく、タックルの的を上手く絞りきれなかったことの2つの理由がある。例えば以下の写真。明治はフロントドアに行くかバックドアに行くか明らかに迷っている。

 この段階での帝京の選択はバックドアへのパス。迷った状態でのタックルであれば、コンタクトを鍛え直した帝京の突進を止めきるのはほぼ不可能だ。こうして明治は帝京にゲインされ続け、試合を支配されてしまうことになる。

 もう一つ、明治の攻撃のキーマンはウイングの石田吉平だ。この試合、石田吉平のランは何度か見られた。しかし、そのほとんどはフェイズの早い段階。つまり、これから攻撃を積み重ねていくその早い段階で石田吉平がボールを持って走ることが多かった。
 しかしその状況ではディフェンスは整っている。石田はある程度はゲインできても、どこかで捕まってラックに飲み込まれてしまう。そうなると、その後の攻撃の時、フィニッシャーとしてトライを奪える位置にいられなくなることがしばしばある。帝京は、キックも石田に取らせるように蹴ることが何度かあったので、帝京は意識的に早い段階で石田にボールを「持たせていた」のではないかと思う。
 また、フィニッシャーとしてボールを待つ展開に明治が持ち込んだときも、石田に向けたパスのインターセプトを狙うことが3回ほどあった。トライになったのは前半終了間際の一本だけだが、帝京は明らかに、ゲームプランとしてウイングにむけたパスのインターセプトを狙っていたように思われる。


ポイント3:今季初めてキックを多用した明治

 今年の明治は、テリトリーキックをほとんど使ってこなかった。二度の早明戦、準決勝の東海戦のいずれもだ。しかしこの日の明治は、打って変わってキッキングゲームを仕掛けてきた。
 特に前半、帝京のキックディフェンスが基本的に2枚だった時間に、低い弾道でその2枚の間に落ちるようなキックを何度も蹴り込んできた。後半には帝京が対応して、3枚でキックディフェンスを行う時間が増え、キャッチされることが多くなった。

 しかし、明治は、特に前半はキックディフェンスの間でバウンドさせることもできていたし、デッドボールラインを越えることもなかった。その意味でキックは正確だったことは間違いない。ただし、明治は今年、キックをあまり使ってこなかったこともあってか、全体の劣勢を好転させるには至らなかった。この点については詳細に分析してみたい。

まとめ

 帝京は強かった。明治が勝てると思った時間はほとんどなかった。

 しかしつけいる隙がないチームではなかったと思う。この強さは、コンタクトやフィットネス、立ってプレーする意識と言った、基本を改めて追求し直したことによってもたらされた強さだ。
 興味深いのは、早稲田と明治も、今年は完成度を高めていくことより、幹を強化することを重視していたように感じられることだ。

 だとすれば、今年は基礎作りの年。チームとしての熟成度が高まるのは来年。だとすれば、来年は今年よりもずっとレベルの高い試合が見られるのかもしれない。その楽しみを心に置きながら、2020-21大学ラグビーシーズンを締めくくることとしたい。