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ポジティブトランジション時の他チームとの大きな差:川崎フロンターレの前半戦振り返り<1>

 前の投稿からだいぶ日が空き、いまやACLたけなわ。もう少し経ったらオリンピック、と言うタイミングになってしまったが、これまでのレビューを元にフロンターレの前半戦を振り返ってみる。総論的に振り返ると言うより、これまでのレビューで作ってきたボール奪取マップをベースに考えてみたい。元々このマップ、一試合単位で見てもあまり意味がある数字にならないので、一度まとめて全体を振り返る機会にしたい。

フロンターレのボール奪取まとめ

 観戦した試合は柏レイソル戦を除くリーグ戦ホーム全戦。合計で11試合。

 まずは全体のボール奪取、敵陣でのボール奪取、ボール奪取からのシュートを一覧にしてみた。横浜FCは79分までしか取れなかったので、90分換算値に計算し直してある。

 なお、このボール奪取とは、クリアやタッチに蹴り出すものは含まない。クリアではない相手のパスカットをまた相手にカットされてボールをつなげなかったものは含めている。キーパーのセービングは含まないが、キーパーがペナルティエリア外で相手ボールをカットして味方につなげたときは含めている。

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 平均が68.2、最多がアビスパ戦の91、最小がセレッソ戦の35。この35というのは図抜けて少ない数字だが、この試合のポゼッションはフロンターレ66%、セレッソ35%。つまりボール奪取と言うよりボールを失う機会そのものだ少なかったことによると考えられる。

アビスパ戦の91は、アビスパが放り込んできたロングボールを跳ね返したあとのボールの奪い合いが頻発した試合だったことを反映している。

 敵陣でのボール奪取の平均値は27。割合にすると39.6%。数においても割合においてもヴォルティス戦が一番多い。

 逆に一番少ないのは後半押し込まれたグランパス戦。


ボール奪取の14%でシュートまで

 ボール奪取からシュートに持ち込んだ数は平均値で9.5、割合にすると14%。

 一番多いのはサンフレッチェ戦の15(20.3)%、一番少なかったのはグランパス戦の5(6.9%)。2番目に少なかったアントラーズの10(12.5%)を大きく引き離している。

 これはネガティブトランジション時のグランパスのディフェンスの強靱さを表している数字だ。マッシモ・フィッカデンティ監督の下、対戦チームの中では1チームだけ異次元のディフェンスシステムを構築していると言える。

対戦相手のボール奪取データ

 フロンターレと他のチームの比較をするために、対戦相手のデータも見てみる。と言っても対戦相手も記録に取り始めたのが4月14日のアビスパ福岡戦以降なので、それ以後の7試合の数字になる。

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 相手チームの平均ボール奪取数は66.3。一番多いのはアビスパの85、一番少ないのは横浜FCの55。

 敵陣でのボール奪取は平均値が20.6、割合にすると31.0%。これは絶対数で一番多いのがコンサドーレの27、割合で一番多いのが横浜FCの36.4%。ただ横浜FCの場合、絶対数では4位だから、ボール奪取数全体が少ないのが割合を上げているという見方もできる。

 こうしてみると、ボール奪取数の平均はフロンターレ68.2に対して対戦チームは66.3で、フロンターレの方が多いものの一試合あたりに直すと2つ程度多いにとどまる。

 ところが、敵陣での奪取を見ると、フロンターレが一試合あたり27で対戦チームは20.6、割合にすると39.6%対31.0%となり、差が開く、敵陣でのボールの「即時奪回」が実行できていることを表している数字だ。

ポジティブトランジションからの攻撃に大きな差がある

 さらに大きな違いが出ているのがボール奪取からのシュート。フロンターレの一試合平均値が9.5、14.0%なのに対し、対戦チームの平均値は4、5.8%にとどまる。つまり半分以下だ。

 つまり、ボールを奪ったポジティブトランジションのときに、シュートにつなげる攻撃が実行できるか否かにおいて、フロンターレと他のチームとの間に大きな差があることになる。

 先ほど、フロンターレがボール奪取からシュートに結びつけた数字が際立って少ないことから、グランパスのネガティブトランジション時のディフェンスの強度が他のチームとは異次元のレベルにあると述べた。

 そのグランパスの数字は6.9%だった。一方、データを取った7試合でのフロンターレの平均値は5.8%と、フロンターレと対戦したグランパスを上回る数字になる。

 このことは、フロンターレの「即時奪回」が機能していて、シュートに至る前にボールを殺すことができていると言うこともできるが、対戦チームがほとんどポジティブトランジションをチャンスに持ち込めていないことを表してもいる。そもそもボール奪取のデータを取り始めたのが、酒井高徳の発言を検証してみよう、と言う意図だったのだが、どうもその通りだったようだ。

今日はここまで。次回以降、ボール奪取マップに基づく分析をもう少し進めていく。

(続く)