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もっと点差を意識してプレー選択を!:日本対メキシコ(6月25日)

 東京オリンピック、男子サッカー。6月25日の日本対メキシコ戦をレビューしてみる。本来、観戦した試合しかレビューを書かない主義なのだけれど、オリンピックだし、やれるところまでやってみる。ただ南アフリカ戦が相手がリトリートに徹していたのでやる気が起こらなかった。

 試合結果は2-1。前半立ち上がりに堂安が右サイドをえぐったあとの折り返しを久保が決めて先制。続いてペナルティエリア内でクロスを上げた相馬に対するタックルがVARチェックの結果ファールとなりPKを得て2点目。そのあと守勢になり、1点を返されるものの2-1で逃げ切ったと言う試合だ。

 試合展開としては、前半は日本側が優位だったものの、日本が2点リードしてからはメキシコも前線からの守備が機能するようになり、ボールを今ひとつキープできなくなり、後半は一方的に攻められる形になった。


ボール奪取データ:クラブチームには及ばないが3月に比べると大きく改善されている

 まずはボール奪取マップを見てみる。ここで言う「ボール奪取」とは、ボールを奪ったあと味方につながったものを指す。クリアやタッチに蹴り出したもの、キーパーのキャッチは含まない。青字にしているものはシュートまでつながったもの。

 日本から。

スライド1

 ボール奪取数は合計で46。うち敵陣が18で39%。シュートにつながったのは3で7%。

 データを比較するために手元にある川崎フロンターレのデータも示しておくと、前半戦の平均値でボール奪取68.2、うち敵陣率39.6%、シュートにつながるものが14%。フロンターレの対戦相手のデータも示しておくと、ボール奪取66.3、敵陣率31.0%、シュートにつながった率は5.8%。

 こうしてみると、ボール奪取数はJリーグの標準的な数字よりだいぶ少ない。これは日本のプレスが甘かったと言うより、メキシコのポゼッションサッカーが機能していたということだろう。一方、敵陣率はフロンターレのそれとほぼ同じで、フロンターレを除くJリーグの標準的な数字よりも高い。一方シュートにつながった割合はフロンターレを除くJリーグの標準値とほぼ同じで、フロンターレのそれには大きく劣ると言うことになる。

 なお、3月のアルゼンチン戦は第1戦がボール奪取35、敵陣率20%、第2戦がボール奪取40、敵陣率30%だったから、五輪代表としてみると、いずれも3月のアルゼンチン戦より数字が良くなっている。このあたりはチームとしての熟成やオーバーエイジの加入の効果が表れていると言える。

中山と板倉が作った「カベ」

 前半と後半に分けてみよう。まずは前半。

スライド2

左サイドを中心に、かなり高い位置でボールを奪えていることがわかる。

次に後半。

スライド3

 後半は左サイドでのボール奪取位置が下がっている。押し込まれた展開を反映していると言える。

 個人別に見てみよう。

  遠藤:9
  中山:8
  田中:6
  吉田:5
  板倉:4
  酒井:4
  堂安:3
  久保:3
  相馬:2
  林:1
  前田:1

 最多はさすが「デュエルキング」こと遠藤。続くのが左サイドに蓋をした中山。それに田中、吉田が続く。

 ゲームを組み立てる上ではやはり遠藤と田中のボール奪取能力の高さは大きい。この2人に絞ったマップがこれだ。

スライド5

次に最終ラインの4人。

スライド4

 興味深いのは自陣左サイドに中山と板倉が「壁」のように立ちはだかっていること。メキシコの攻撃の柱であるライネスをしっかりと抑え込んだことがわかる。

ボール奪取で上回ったメキシコ

 次にメキシコ。カッコ内に日本の選手名が記されているものがあるが、これはデュエルで日本側がボールを失ったときに保持していた選手。なお調べたのは20分経過してからで、それまでのボールロストは反映していない。

スライド6

 合計ボール奪取数は日本より多い59。うち敵陣18(30.5%)、シュートにつながったものが7(11.8%)。敵陣でのボール奪取率は日本を下回るが、ボール奪取数およびシュートにつながったものの割合はメキシコの方が勝る。

 見ていて気づくのは、メキシコ左サイド、自陣深くでのボール奪取が多いこと(詳細は後述)。

試合展開を振り返る

 ボール奪取データをざっと見たところで、試合展開を振り返ってみる。前半の立ち上がり20分程までは日本が優勢だった。特にメキシコがボールを保持しているとき、4-2-3-1のフォーメーションの2列目の3人が中盤のパスコースを塞ぎ、1トップの林がボールホルダーにプレッシャーをかける。

 この時の林はポジショニングが非常によく、「追いすぎず、下がりすぎず」という形で、最終的にロングボールを蹴らせることが上手くいっていた。そして蹴らせたボールを中盤で遠藤、田中が回収して攻撃、と言う形が上手く回っていた。その流れの中で2点取っている。

 一方、20分過ぎると日本側のペースが落ちていく。これはスタミナ切れとかではなく、2点取ったので相手にボールを持たせてしっかり守って時間を使っていこう、と言う戦い方だ。

 ただこの時にメキシコ側もビルドアップの形を変えた。日本の2列目の3人に中盤のパスコースを塞がれてしまうので、最終ラインでの横方向へのパスを上手く使って2列目の3人を動かし、素早く逆サイドに展開する。そうすると2列目の3人のスライドが間に合わないから、逆サイドで前進することができた。

 もちろんそうなると日本のサイドディフェンスが対応してくるが、この日のレフェリーの傾向(手を使ったプレーに甘く、足を引っかけるプレーに厳しい)を把握し、それを上手く利用してファールを取ってきた。そうすることでフリーキックからのリスタートを増やして日本側に圧力をかけてきた。

 また、メキシコの前線からの守備も機能してきた。メキシコは基本陣形は4-1-2-3だったようだが、守備時には4-4-2になる。2トップがセンターバックにプレッシャーをかけ、2列目の4人が横に広がって日本の中盤のパスコースを塞ぐ。日本はこれを上手く突破できず、前半20分以後は上手くビルドアップができなくなった。

 とはいえ2点をリードしているから、きっちり守って裏のスペースを狙ってカウンターアタックを仕掛ければ良い。実際その形で何回かチャンスを作ったし、DOGSOによる退場にも追い込んだ。

攻め急ぎによる苦しい展開

 しかしそのタイミングで攻め急いだことが、後半の苦しい試合展開に結びついていく。後半、特に久保がカウンター時に攻め急ぐことが目に付いた。特に右サイドでディフェンダーが待ち構えているブロックにドリブルで仕掛け、再三ボールを失った。

スライド9

 上に示したのは概念図だが、メキシコ側のボール奪取マップを見るとはっきりする。まずは全体の再掲。

スライド6

 前述したとおり、メキシコ側は左サイド深い位置で多くのボールを奪取している。合計で19、全体の32%。カッコ内に日本側のプレイヤーの名前があるものがデュエル(=だいたいドリブル)でのボールロスト。それ以外はパスカットなど。

 つまりこのエリアで久保が4回、堂安が2回ボールを失っている。もちろんチャレンジすることは悪いことではない。問題は時間帯。

 デュエルに絞ったメキシコのボール奪取マップを見てみよう。

スライド9

 これではっきりとわかるように、このエリアでのデュエルによるボールロストのほとんどが後半。これは大きな問題だ。わざわざ構えたメキシコのディフェンスブロックに突っ込んでボールを失っているのだから。

 2点リードしているのだからリスクを負う必要はない。構えたメキシコのディフェンスに突っ込むのではなく、一度戻して逆サイドにボールを振り、ディフェンダーをスライドさせ、アイソレートして逆サイドに待っているアタッカー(この場合は相馬)を使うようにしていかなければ、攻め込んで押し込んだ時間が作れない。

 あるいは、カウンターを仕掛けるときも、縦に急ぐだけでなく、一度止まって味方が上がってくる時間、敵が下がる時間を作ることも重要だ。

スライド11

 もちろん止まってしまうとその間に相手は守備ブロックを作る。しかし2-0でリードしている状況では「守備ブロックを作らせる」ことも重要だ。なぜならそれによって全体のポジショニングを押し下げることができ、カウンターのリスクを減らせるし、味方は安全な地域でボールを保持することができるからだ。

 堂安も久保も終盤登場した三笘も、こうやって時間を作ることができていなかった。このあたりはフロンターレの家長が得意にしているプレーだが、彼らにもできるようになって欲しい。

 なお、デュエルによるボールロストを個人別に集計するとこうなる(20分以降)。

 堂安:7
 久保:5
 林:1
 相馬:1

 いちばん多いのは堂安。次が久保。もちろん同点や負けている状況では1対1でのチャレンジは重要。しかし2-0でリードしているときは安全を優先し、また自軍のボール保持を優先すべき。

 その意味で特に後半の久保には判断ミスが多いと感じたし、デュエルに弱すぎた。早い時間に三好に「ボールキープを優先しろ」と指示して久保に代えて投入しておくべきだったと思う。あと気になるのは、倒れるプレーにけっこう笛を吹いたレフェリーだったにもかかわらず、久保は2度ほど、倒されてもファールをもらえなかったことだ。それだけデュエルに弱いという印象をレフェリーに与えてしまったのだろう。

フランス戦、頑張れ!

 今日はフランス戦。きっちり勝ってA組1位で抜けて欲しい。相手は韓国かホンジュラスかニュージーランドか。いずれにしても大きな違いがないので順位のことは考えずきっちり勝つことが重要。

 ただ、これまでの2試合で気になるのは「ベンチ入りメンバーで出場時間を分け合う」ことができていないこと。特に吉田、板倉、遠藤、田中の出場時間が著しく長い。冨安が戻ってくればいいが、町田と瀬古も入れているのだから、板倉の出場時間をマネージするか、板倉を上げて田中の出場時間を減らすかしておくべきだったと思う。冨安の負傷状況がわからないが、そろそろ使えるとするならば、三笘と冨安がまだフレッシュな状態なのはいいニュースだが。

 今日の試合、本当は行く予定だったんだよなあ・・・・。