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三十一音の詩

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三十一音の詩
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2015年5月の記事一覧

1.

・荷造りしては解いている窓の外を時折電車が通過する

・寂しい本を2冊並べてみる
 閉じても開いても黙っている

・星の降る話を聞いた夜動かない空をじっとして見ていた

・わたしのなにかと置き換えるように噛み砕くチョコレートチョコレート

・殴られる瞬間このひとを母は何て呼んだか考えていた

・寂しさを分類する棚の引き出しの中身はどれもひとつきり

・背表紙を撫でる臆病さで受話器からあなたの心音聞

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2.

・さびしさは屋根の下壁の内側
 さびしさは木漏れ日のまんなか

・見た夢を思い出せない噛んでいた奥歯の痛みだけがまだある

・こんなにある背表紙どれをひらいても同じわたしの話を読む

・切手がない部屋でおぼろげなひとへ打ち続けるたくさんのはてな

・見上げるベランダ輪郭のとれない憧憬とたしかに目が合った

・ほんものみたいないえ
 ほんものみたいないぬ
 ほんものみたいなわたし

3.

・わたしのいる部屋よりわたしのいない部屋の方がたくさんあること

・見えない風の音を聞く
 病床の窓辺で信号を待つ角で

・引き出しの中身ひとつずつ確かめるまた埋まらない隙間がある

・ドビュッシーのあの曲で泣く悲しみのはじまりが共有できない

・窓を開ける飛んできたメモ昨日の夢が知らない字で書いてある

・死んでいる振りしてるひとにも見えない金木犀の香り香る

・暗い窓、
 暗い窓、
 暗い窓、

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4.

・昼過ぎの教室そっと告発される机の下で踊る足

・二重線の引かれた日記
 いい天気(だった)
 あのひとが好き(だった)

・くるぶしまで積もるため息に捕まってつんざくやかん遠く聞く

・あさましくて
  さみしいひと
  さむさについて
  ささめくひと
  さもしいひと

・みんな眠って凪いでいる町の湖面を対岸の明かりへ帰る

5.

・木が風に揺れる響きの名前なら寂しいなんてことはなかった

・無いようなものが消えない
 沈む体残してお湯ばかりあふれる

・話さない微笑まない鉢植えに水遣る手で自分の世話を焼く

・優しさの海綿で泣く人を奪い合う彼らは肉を食べない

・すすり泣きを日干ししてすり潰した囁き啄んだ鳥が鳴く

・風の音がする
 検分したはずの身体のどこかが開いている

・口を閉じて過ぎた日の靴底からたたきに落ちる若い

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6.

・波音の寝息のひとの安らかな眉をたどった先にある海

・写真立てくれたそれしかくれなかった顔をもう忘れてしまった

・でたらめのおまじない唱えて飴くれるチョコくれるひとたちといた

・稲光ものばかり転がる室内が鋭く咎められている

・鱗を剥がれる痛みを知ることはない幸運な肌にかさぶた

・月夜に
 マッチを擦る少女
 チョコを齧るわたし
 ブランコを漕ぐひと

・むかいのいえのあかりをけして
 か

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7.

・毎日なにかの日でなんでもないひとたちのなんでもない日がない

・屋上の駐車場で見えないものが見えないのを見ているひとり

・目薬をさしクリームを塗り生き物の顔をして寝たふりの夜

・ごめん
 にバツつけていって真っ赤になったやさしいひとからの手紙

・買ってきたさんま焼く前に切り口の血をそっとぬぐってやるひと

・血はひえびえ巡るメトロノームを眺めている許せる/許せない

・傘を売る人が雨乞いを

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