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【短編小説】蒼空剣術道場

※こちらは出演する舞台「鬼討伝-Enishi」の二次創作小説です。
ボクが演じる蒼太と彩花というキャラクターがメインです。

これを読めば、「鬼討伝-Enishi」がもっと楽しくなる!…かも















―カッ!カッ!
木刀と木刀がぶつかる乾いた音が響く。雲一つない青空の下、蒼太と彩花は剣術の稽古をしていた。息が上がっている彩花に対し蒼太は呼吸を乱していない。
「ほれ、どうした、もう終わりか」
「ハァ、ハァ。ン、まだまだ!」
真っ向に振り落とされた彩花の木刀は空を切る。そして首元には蒼太の木刀があてられていた。触れた木刀の冷たさが全身を駆け巡り火照った体を冷ましていく。
「よし。今日はここまでじゃな」
「待って!まだやれる!」
「体を休めることも稽古の内じゃ。無理をするといざ鬼と戦う時にあっさりやられるぞ」
「でも!」
彩花はわかっている。自分の体力がもう限界であることを。
「早く力をつけたいお主の気持ちもわからんではないがな。強さとはそう簡単に身に付きはせん。付け焼刃の力ほど脆いものはないからの。結局地道にやっていく方法が一番の近道なんじゃよ」
「…わかったわよ」
渋々だが彩花は木刀を降ろした。
「まぁ焦るな。この調子なら後数日で渡した刀での稽古に入れるぞ」
「そんな悠長なこと言ってられないわ!明日にも鬼が来るかもしれないのに。刀をくれたのなら早く刀での稽古を始めてよ!」
「だから言ったであろう。地道に稽古をしていくのが一番の近道じゃと」
彩花は村を鬼に襲われた。あの時、鬼に全く歯が立たず、同じ村の生き残りである結衣を危険な目に遭わせた自分の弱さが辛くそして赦せなかった。そんな自分たちを救ってくれたのが蒼太たち鬼狩りの東雲衆だった。東雲衆の頭である縁の力は圧倒的だった。ただ彼の強さは何処か異質で、自分には身に着けられないと直観した。一方、副長的な存在である蒼太の剣は強くはあるけれど自分にも身に着けられる。そう思ったので戦い方を彼に教えてもらえるよう志願したのだ。
「私が蒼太さんに戦い方を教えて欲しいと言ったのは刀を上手に使えるようになりたいからじゃない。鬼を倒すため、結衣を守るための力が欲しいからよ!」
「…その為には己の命はどうなっても構わないということか?」
「そうよ!それが覚悟ってもので強さでしょう?私だってもう充分に強く…」
そう言った瞬間、目の前を閃光が走った。気が付けばいつの間にか蒼太は刀を鞘から抜き放ち彩花の喉元へと突きつけていた。
「先ほどと合わせて二回。お主は今日死んだことになるな」
「……」
あまりの早業に理解が追い付かず、頭が言葉を生み出すのを忘れていた。
「彩花」
「な、何…ですか」
「戦場で命を落とすのはどんな者だと思う?」
刀を喉に突きつけたまま蒼太は彩花に質問をした。
「それは弱いやつでしょう?」
「違う」
蒼太の青い瞳が真っすぐに彩花を見据えている。
「戦場で命を落とすのはな、勇敢な者じゃ」
「え?」
「お主の言った弱い者はな、弱い故に勝てない敵とは戦わん。逃げて生き延びる道を探す」
そう言われて自分と結衣を置いて逃げた翔の姿が彩花の頭に浮かんだ。
「どうした。急に眉間に皺を寄せて」
「何でもない。続けて」
「そうか。勇敢な者はな、勝てないと分かっていても敵に立ち向かう。大切な人や居場所を守るためにな。そうして命を落とすんじゃ」
「確かに。理屈はそうかもしれないけど…」
「分かっておる。勇敢な者は生き様も死に様も美しく気高い。でもな残された者からすればどんなに無様でも共に生きていたいと思う」
そう言って刀を収め、空を見つめる蒼太の瞳は悲しい色に染まっている。きっと彼や東雲衆の人たちはこれまでに多くの同志と死別をしてきたのだろう。
「彩花。お主が強さを求めるのは何も間違ってはおらん。戦場で生き残るのは臆病者。そして強い者じゃ。だが今のお主は手に入れた力に溺れ自分が強くなったと思い込んどる。そういう者は間違った勇気で敵に立ち向かい死ぬ。それは勇敢ではなく蛮勇じゃ」
「…蒼太さんは戦うのが怖いですか」
「当たり前じゃ」
「じゃあどうして貴方達は戦うんですか」
「そうじゃの… 強いて言えば…」
しばらく蒼太は思索にふけったようにして、ふと笑顔を向け次の言葉を放った。
「美味い酒が飲みたいからかの」
「…は?」
ここまで理屈っぽく話してきたのに、急に茶化されたような返答だ。彩花の顔には呆れや困惑の表情が貼りついた。
「彩花」
「は、はい」
「お主が死んだら結衣が悲しむじゃろう。遺された者の悲しみお主が誰よりもわかっているはずじゃ。己の命がどうなっても良いなどと思うな」
そう言った蒼太の顔は慈愛に満ちていた。
「そうですね。分かりました。今日はもう休みます」
「うむ。それが良かろう」
「それにしても、蒼太さんって真面目で堅物な方かと思っていたけどやっぱり竜胆さんの仲間なんですね。突拍子も無いことを言うところとかそっくり」
「おい、ちょっと待て。わしをあんな珍獣と一緒にするでない」
互いの笑い声が木霊する。
「さて。ではもう今日は食べて寝るだけじゃ。準備するぞ」
「はい!」
不要な縁を結ぶべきではない。別れが辛くなるだけだ。しかし目の前の少女との出会いは自分の中で何かを変えた。仲間たちとはいつでも戦いの中で別れる覚悟はできている。しかし今はその仲間たちも自分に戦い方を教えて欲しいと言ってきた少女も死なせたくないと強く蒼太は感じていた。
「…しばらくは美味い酒が飲めそうじゃな」
空を仰いだ。そこには明日の美しい夜明けを迎えるような青空が広がっていた。



劇団雪月風花第弐回公演
「鬼討伝-Enishi」

6月10日(金)〜6月12日(日)
池袋シアターグリーン
BARE THEATERにて公演

蒼太役として
出演させて頂きます。

劇場予約はこちらから
https://www.quartet-online.net/ticket/setugetufuuka2022
配信予約はこちらから
http://v2.kan-geki.com/live-streaming/ticket/678
ご予約の際に備考欄に
「博多佐之助」の名前を書いていただけると、この上なく嬉しいです

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