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薬剤師のおしごと⑤離島でのこと

毎日アップしようと決めていたのに長らくご無沙汰してしまいました。

今回は私が働いていた離島の医療についてご紹介したいと思います。

何年か前、『ドクターコトー診療所』というドラマが流行りましたよね。

あのドラマでは小さな島で恵まれない環境の中、1人のドクターが精一杯島の住人達に寄り添って医療をしていました。

それでは、実際の離島医療ってどんなだと思いますか?

離島と言っても日本には沢山の島があります。

沖縄、北海道、瀬戸内、長崎などなど。

南から北、離島と言ってもそれぞれ状況は違うと思います。

さて、私が勤めていたのは、鹿児島と沖縄の間。南西諸島と言われる所。言わずと知れた台風銀座。

鹿児島から船で18時間、飛行機で1時間ちょっと。でもこれはプロペラ機でのこと。

沖縄にも船で5-6時間はかかります。

飛行機は日に3便、船は日に1便。

天候が悪ければ島に閉じ込められて身動きふのうになります。

そんな島なので若者は当然中学ないし高校を卒業すると島外へ出ていきます。当然高齢者のコミュニティになります。

この島独特なのか、離島というものはすべてなのかわかりませんが、昔、島外に出ることが容易ではなかった時代は島内・身内での婚姻関係が多くあったような社会でした。なので、表向きはフレンドリーですが、よそ者がなじむぬはそれなりに苦労のいる土地でした。

私は主人がその島の出身だったため結婚後に移住したのですが、そこはまだ人口3000人程度、町が2つあったためドクターコトーの島よりはまだいろいろとそろっていました。

医療施設も診療所、クリニック規模はそれなりの数ありましたが、「病院」と言われるものは1つだけ。医師も看護師も薬剤師も、島の中の住人だけではもちろん足りないため、島外から派遣されてきていました。もちろん数か月交替です。

そんなところに、島に嫁いだ私は、病院という経験もないのに就職しました。

出勤初日、それまで応援に来ていた薬剤師に、「ぼくは明日帰るのでよろしくお願いします」と言われ、開いた口がふさがりませんでした。

その後別の応援が来てくれたので、そういった応援薬剤師から病院業務のノウハウを教わって何とかやっていきました。

田舎ではありがちな話だと思うのですが、まず地元のおじいちゃんおばあちゃんの言葉が理解できない。きょとんとしていると標準語で話してはくれるのですが。

そしてなんといってもお薬の購入が大変なこと。

ふつうは近くの卸さんが薬を配達してくれるのですが、その島には卸がありません。別の少し大きな島にある卸さんに注文をかけると、翌日の飛行機か船で郵送されてきます。急配なんでとても無理。

なので今日必要なものがなければ患者にあきらめてもらうしかないのです。

それが命にかかわる事なのであれば、薬がくるのを待つのではなく、患者さんがドクターヘリ又は自衛隊のヘリで近隣の島の大きな病院へ搬送されます。

この辺はドラマの中と同じです。

物のない中でやれることをやる。

これしかありませんでした。

夜中に腸管出血で輸血が必要な患者さんが搬送されてくると、もちろん赤十字の血液センターなんてものはありませんので、自衛隊や消防の方や、若手の職員に召集をかけて「生血」輸血をするしかありません。

医師も看護師も薬剤師も、すべての診療科がこなせないとやっていけないんです。

そしていよいよ台風のお話です。

昨年、大きな台風が関東を襲い大きな被害が出ました。確かにあの台風は関東では脅威です。御多分に漏れず、私が今住んでいる地域も甚大な被害が出ました。

沖縄、奄美地方はあの規模の台風が毎年いくつが通過していきます。しかも自転車の速度で。

そのため、台風が近づくとわかると直撃予想の1週間前から船が欠航になります。台風の速度が遅ければ10日くらいは止まります。

そうなると、日常生活では野菜や牛乳などの食料、ガソリンなどがなくなります。

病院だって同じです。輸液や薬が入ってこなくなってします。

でもそれでは助かる命も助けられなくなります。

そのため台風が来るとなったら船が欠航になる前に大量に薬を買い込んでおかなければいけないんです。

台風の通過が遅くなることを予想してかなりの量注文します。

輸液など山積みで薬局ないが狭くなってしまうくらいです。

この予想というのが経験値からくるもので、ベテランの薬局助手さんが大変たくましくいつも対応してくれていました。

こういう見えないところの仕事も薬剤部の仕事。

まさに「アンサングシンデレラ」だなあ。と思いませんか?

こんな感じの環境で7年ほど仕事をしました。

とても鍛えられたと思っています。

今薬剤師として続けていられるのもあの時の厳しい経験のおかげだと思っています。

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