記憶 忘却 忘却した記憶 忘却された忘却

iPadを買って喜び勇んでいたわたしの

書き溜めたメモ帳が消えてしまった

斜めに降る日差しに悦んでいる電車の中である。


記憶について考える。

忘れたこと、それはかつて覚えいたことを覚えていて、さえ消えてしまったら

忘れたことも忘れてしまえば全ては無かったことになるのだろうか


失われた人間たちは記憶の海流の中を漂って暗闇へと落ちていくのだ


どうしても耐えられなかった記憶があったとしたら

幸せなのは忘れてしまうことだろう

嬉しい記憶にとって

幸せなのはきっとそれが記憶にならないことだろう



ノートを開くとみみずのうねりみたいな線で溢れていて

アニメ映画の中で小説家が書いた原稿のようである

本当は何も描きたくないんじゃないだろうか

足元に迫る影は飛び上がっても一刻のみ他人だ


記憶が雲の中に消えていくのだ

きっと彼らは天国に行くのだろう

安らぎと幸福の中へ(Wolke Sieben)


子供時代が白黒世界の中眩しい

海沿いの街には何があるんだろうと思い

屋上から淡い青求める私の暖かい死体


家に子犬が来た日

全てが心細くて

黒く光る毛先を撫でていた

11月、老犬の毛先は銀色に輝いていて

2階に上がれない彼を抱きしめたくなった


子供のころは大人になれば優しくなれると思ってた


みんないつかは死んでいくのだと

すべては消えていくのだと

思うことで幸福にはなれなかったよ

それを悲しく思うことが

美しいと俺は思う


全て雲に消えて仕舞えば

安らかではあるけれど

少し裏寂しい気もしてる

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