「わたし」の話



多くの人が今までに一度は経験してきたのではないだろうか

私にはずっと引っかかっている記憶がある
小学生の時分、「わたし」についての作文の授業

「わたし」もしくは「夢」だとか

私について考えてみよう
将来何になりたいか
書きたいことを書いてください

先生…無責任なことを言うなあ
そう思った
手は全くといほど動かなかった


私は私が嫌いだった。
きっとすごく小さな時から。


私には、看護師一筋のいつもピリピリしている母がいる
スラリと背が高く、脚が長く綺麗だった
母は美しい人だと思う。
母より少し歳が若いが、顔は割とはっきりとしている、これもまた背の高い大柄ではあるが気の弱い父がいる
外国人のような濃い髭を蓄え、目がギョロリとしていて顔は少しこわかった。
父も放射線技師で、2人の出会いは勤め先の病院だったようだ
物心ついた時から、2人が一緒にいるところを見た覚えはなかった。

さらには年子の姉がいて
この姉は、とても優秀だった。
可愛くて、賢く、スポーツもできた
姉にはこの上ない愛嬌があった
姉は私の自慢の姉だった。
けれど私は姉の声が大きいところが本当に苦手だった

私が生まれた年と同じ年に生まれた犬もいた
その犬は私の家族であり、初めての友達だった。
犬は私を妹だと
私は犬を弟だと
そう思っていたに違いない。
犬は優しい性格の子だった。

これを幸せなんだと感じていたのが5歳だとしたら
この3年後には家族がバラバラになるだなんて、誰が想像できただろうか


私が「わたし」について考えるようになったのは
ひとりになった時からだったと思う

実際の1人という訳ではない
心の独り、になった。


私には友達の作り方がわからなかった
それは大人になった今でも実はわからないままだ

5歳の時の私の友達と呼べるものは、気の良い強い女の子だった
その子はアヤナという名前で
私もアヤナと呼んだ。
その子は本当に、小柄であるにしては男の子よりも逞しく、声も大きく、常に堂々としていて格好良かった
私の憧れだった。

正反対に私は、内気で、声はすこぶる小さく泣き虫だった。
アトピー性皮膚炎のおかげで手足を激しく動かせば関節の裏の湿疹は裂け、常にヒリヒリと痛かったのもあって、運動をするのが大嫌いだった
いや、好きだったけれど、みんなと同じように楽しむのは無理だと子供ながら悲観していた。

アヤナがいなければ私には友達というものは一生できなかったと思う
それほど彼女は私にとって、大切で、貴重で、なくてはならない存在だった
どうしてこんないい子が私の友達でいてくれたのだろう
人生の最大の謎である

アヤナはすこぶる面倒見がよく、四六時中私の世話を焼いた
私はただの弱虫
主張も行動もしない
常にアヤナのそばにいた。

アヤナは教室の中でも目立って楽しい子であった。
私はそんなアヤナが友達で嬉しくて大好きだった


けれど
私はいつもどこかひやひやとしていた

アヤナの言うこと、すること
全く意味がわからなかった


私は本当によく泣いていた。

みんなと考えていることが違うことが多かったせいだ
たったそれだけのことだった。
けれど、たったそれだけのことで、孤独はすぐ近くにいた。


みんなが○といえば、私は×だと思っている心を間違いなんだと考え○を選んだ
変だねと言われれると真に受けて、自分は変なやつなんだと悩み抱え込んだ

家からいなくなった親に自分が変なやつなんだと話すことはできなかった
自慢の姉に自分が変なやつだとは思われたくなかった

唯一の友達に、がっかりされたくなかった

そんな幼稚で怖がりな頭の私がその時できたことは、周りに静かに紛れることだった。


何もしない
何も考えない
とにかく周りを見た
一切の自分の考えを信じなかった

自分の思う、好きな人の好きな人になろうとした。


私というわたしは、もう随分と前から私の中にはいなかった


そして私はそんなわたしが大嫌いだった。


「わたし」とは一体誰なのだろう
この先に一体何が起こるのだろう
想像のできないことは起こらないでほしい
もうこのままでいい
ずっとこのままでいい
私なんていなくていいのに

今思えばどうにも、存在感の薄い小学生だったようだ

もちろん夢などなかった
目の前のことで常に頭はいっぱいだった
自分が何者であるか、何ができるかなんてどうでもよかった
変なやつだなんて思われないために生きるのが必死だった
夢なんて、堂々とした子だけが持ってもいい贅沢な嗜好品だとでも思っていた

もしそんな夢があるとすれば、私は「誰か」になりたかった

自分じゃない誰かに。



幼い私は、わたしというものを本当に考えるのが恐ろしかったのだろう

そんな私の現在は30歳
1人で住んでいるこの家には、私以外に、ひょんな出会いから同居を余儀なくされた保護猫たち4匹がいる

30歳というこの歳を切りの良いスタートとして、noteを始めてみようと思い立ったのも、これもまた稀有な出逢いがきっかけである

書いては捨て、の自由帳にもそろそろお披露目の場を設けてあげてみたい
続けられるかはわからないが、やってみようと思った。

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