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行動食を考える①

登山における食料計画。効率的かつ疲れないように行動する上で必要なものです。何となく食べたいものを持っていっていましたが、栄養学や代謝学から考えると理論的に組み立てられたりします。今回はその理屈を少しだけ。


行動中、エネルギーとなるものは3大栄養素である糖質、たんぱく質、脂肪。人間はこれらを燃焼させ、エネルギー源としています。三大栄養素はそれぞれ

糖質(炭水化物) 1グラム 4キロカロリー
たんぱく質 1グラム 4キロカロリー
脂肪 1グラム 9キロカロリー

のエネルギーを持ちます。
この中で最もエネルギー量が大きいのは脂肪。しかし、脂肪は実に燃焼効率の悪いエネルギー源なのです。

体重70キロ、体脂肪率10%の人がいたとして、この方はアスリートのような体脂肪率ですが、それでも体に7キロの脂肪を蓄えていることになります。
脂肪は1グラム9キロカロリーなので、7キロあれば63000キロカロリーのエネルギーとなります

登山時の消費エネルギーは、

体重(kg)×運動強度×時間(h)

一般的に登山の運動強度は7.3~8.3とされており、その式を使えば1時間の消費エネルギーは約511キロカロリーと算出できます。

70(kg)×7.3×1(h)=511

ということは、計算上では無補給で123時間歩き続けることができますが、実際に無補給で動き続ければ半日(6時間)持つかどうか。体にエネルギーの基(脂肪)はあるはずなのに、動けなくなってしまう。
これは脂肪はエネルギーに変換されにくい、効率の悪いものだからです。

代謝の仕組みは複雑なので細かい部分は割愛しますが、脂肪は行動時

糖質:脂肪=50:50

の割合でしかエネルギーになっていきません。よって脂肪単独では燃焼せず、糖質なくして脂肪は燃焼しないことになります。

体内の糖質が枯渇した状態を「シャリバテ」、「ハンガーノック」と言ったりします。これは体内にエネルギー源(脂肪)はあるものの、糖質がないため燃焼せず、エネルギーとして使えなくなった状態です。エネルギーがないため体が猛烈に重くなり、頭もボーっとするため集中力、判断力が低下し、とても危険な状態となります。特に脳は糖質しかエネルギー源にならないため、判断力の低下による道迷いの遠因となりえます。よって糖質の枯渇は登山する上で最も注意したいことのひとつです。

たんぱく質は糖質ではありませんが、生物の体は便利なもので、糖質がなければたんぱく質を分解し糖質に変えることをします。「糖新生」というそうですが、これにより糖質の不足を補います。しかし、たんぱく質を分解するということは体の筋肉を分解、減らすことにもなります。よってこの状態が続けば筋力がどんどん低下していくことになり、登山という長時間にわたる運動をする場合は大きなマイナスとなります。

以上のことから、登山中の行動食としては糖質がメインとするのが相応しいと考えられます。そして糖質と脂肪の燃焼から、1時間に必要なエネルギーの半分を行動食として摂取すれば、残りの半分は体内にある脂肪が燃焼して充てられると考えられます。

おおざっぱに計算すると体重70キロの方は、1時間に200キロカロリーほどのエネルギーを持った糖質を中心とした行動食をとればシャリバテすることなく長時間動き続けることができると考えられます。


次回は私が使用している行動食を書きたいと思います。


参考とした書籍
山と渓谷社 もっと登れる山の食料計画 
日本文芸社 理論と実践 スポーツ栄養学
羊土社 忙しい人のための代謝学


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