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登山靴あれこれ②(メンテナンスについて)

一昔前は革製の登山靴が主流でしたが、近年は化学繊維(ナイロン、マイクロファイバー)や化学繊維と革のコンビの靴が主流となっています。登山靴のメンテナンスは素材によって異なるため、その方法を紹介したいと思います。

※私は化学繊維と革のコンビ靴を持っていないので、そのメンテナンス方法は除きます。

登山靴の素材

先にも書きましたが、登山靴の素材は革や化学繊維が使われています。近年主流になりつつある化学繊維の靴の利点は、軽量、安価、通気性に優れる、メンテナンスが容易な素材です。耐久性はとても丈夫ではありますが、革と比べると劣ります

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化学繊維の靴。軽量でメンテナンス性も良い。この靴は特に軽量に重きを置いているため、生地が薄く岩に足をぶつけるととても痛い…

布革コンビ靴は、化学繊維の耐久性をカバーしたもので、岩等に擦れたり接触しやすい部分をより耐久性の高い革で補強されています。あくまで靴のメインの素材は化学繊維なので軽量であり通気性も良好です。

革製の登山靴は、利点として耐久性、足馴染みの良さ、衝撃吸収性、保温性、防水性が挙げられますが、化学繊維に比べて高価で重量があり、メンテナンスの手間があります

登山靴に使われる革

私が登山を始めた20年近く前は登山靴にはスムースレザー(表出革)が使われていましたが、現在は起毛革が多く用いられています。起毛革の特徴として表面が起毛しているため撥水性があり、汚れや傷が目立ちにくいということ。起毛革にはヌバックレザーとスエードレザーがあり、ヌバックレザーは高価な革とされます。両者の違いはヌバックレザーは革の銀面(表側)を起毛させていて毛足が非常に短いもの、スエードレザーは革の床面(裏側)を起毛させていて毛足は長いものということ。ヌバックは銀面があるため、スエードに比べ耐久性がありますが、メンテナンスを怠れば劣化が進み、ひびや割れが生じてしまいます。スエードは銀面がないため、ヌバックほどこまめなメンテナンスは必要なく、劣化も目立ちにくい革です

銀面とは革の表面の薄い部分で、銀面の下に床面(肉面)があります。銀面は薄いながら耐久性があり、革本来の風合を持ちます。しかし、適切な栄養補給(油分+水分)を行わないと乾燥してカサカサになり、ヒビや割れを生じてしまいます。床面は層自体は厚く、かつ起毛させて使うことが多いため、劣化や傷が目立ちにくく、理屈の上ではヌバックの方が耐久性がありますが、実用上ではスエードの方が上と言えるかもしれません。

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ヌバックレザーが使われた登山靴。毛足がとても短く、表面はサラサラしている。

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スエードが使われた登山靴。毛足は長く、ザラザラしている

登山靴につく汚れ

登山で使うことにより靴に付着する汚れは、泥、水分(雨、汗、泥水)、皮脂、埃があげられます。どれも革、化学繊維の靴の素材を劣化させるものなので、登山後はできるだけ早く取り除きたいものです。

これ以下はメンテナンスの方法を記載します

メンテナンス用品について

まず、汚れを落としたり毛並みを整えることに使うブラシ類

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まずブラシ類。左から

馬毛ブラシ 定期的なブラッシングに使います

豚毛ブラシ 簡単な汚れ落としに使っています

クレープブラシ ゴム製のブラシで寝た毛を起こしたり毛並を整えることに使います

ヌバックボックス 汚れ落としや寝た毛を起こしたり毛並を整えることに使います

スエードブラシ  ステンレス製のブラシで寝た毛を起こすことに使います。実は私の持っているメンテナンス用品の中で最も単価が高かったりします

お風呂掃除用ブラシ ソールやアッパーについた泥を落とすのに使います

次にスプレー、クリーナー類

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コロニル アクティブクリーナー ミストタイプのクリーナーで革の内部まで汚れを落としてくれます。また保湿効果も持ちます

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コロニル ヌバック+ベロアスプレー スプレータイプの起毛革用栄養防水スプレーで、粒子が小さいので起毛革の細かいところまで栄養(オイル成分)が届きます。色活性効果もあります

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コロニル レザージェル 革の表面に防水効果を与えるジェルです。オイルが含まれるため、革への油分補給効果もあります。起毛革にも使えますが、塗りすぎると毛が寝てしまう可能性があります

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コロニル ヌバック+テキスタイルボトル 防水栄養ローションです。色活性効果もあります。これはカラーレスですが、補色タイプのものもあります。ローション状のため水分が多く含まれています

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コロニル ウォーターストップ 防水専用スプレーです。コロニルの防水スプレーでは最も価格の安いものになります

登山靴の汚れを落とす(革製登山靴)

まず、登山で使用し汚れた靴を洗います

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雪が溶けてドロドロの登山道を歩いたため、泥だらけになっています

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靴紐とインソールを取り出します

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水をかけながらお風呂掃除用ブラシでソールとアッパーの泥を落とします。ソールはガシガシ洗って問題ありませんが、アッパー部分はやさしく洗ってください。泥には革や布を分解する細菌が含まれるので、できる限り早く落としましょう

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泥は落とせました

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水気が取れたらアクティブクリーナーを使います。このクリーナーで革の表面や内部に染み込んだ汚れを落とします。起毛革はそのまま吹きかければOKです。スムースレザーの場合は表面をクリーナーが流れていってしまうので、クロスなどに吹き掛けて拭く方が効果的です

※泥汚れが酷い場合は、水洗い+クリーナーを使います。さほど汚れていなければ固く絞った濡れ雑巾で拭くで十分に綺麗になります。

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ライニング(靴の内側)やインソールにも吹きかけます。なお、アクティブクリーナーは室内で使用可能ですが、界面活性剤の影響で床にクリーナーが付くと滑るようになってしまいます。必ず新聞紙などを靴の下に敷いて吹きかけてください(写真では敷いていませんが、、、)。クリーナーが乾いたら表面に汚れが浮き出てくるので豚毛ブラシ等でブラッシングし汚れを落とします。このアクティブクリーナー、界面活性剤が含まれるため乾燥時に革の油分が抜けます。そのため油分の補給(栄養成分)を行います。

油分は水に濡れて染み込んだ際にも抜けるため、水やクリーナーを使って洗う場合は油分の補給もセットで考えます

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クリーニング後、登山靴の中に新聞紙等をつめて内部の湿気をとります。内部まで浸水しているような状態であれば何度も取り替えて湿気をとってください

寝た毛を起こす

※この行程は省いて問題ありません!

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靴を見ると、靴先が黒くなっていました。これは前回の登山で使用したチェーンスパイクのバンドが当たっていた部分の起毛が寝てしまい黒くなっているようです

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ヌバックボックスやクレープブラシを使って寝た毛を起こします。該当部分を円を書くようにブラッシングします

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どうしても起毛しない部分はスエードブラシを使います。こちらも円を書くようにブラシしたり軽く叩くように行います。金属のブラシは力を入れすぎると革が傷付くので注意です

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寝てしまった毛をかなり起こせました(すいません、写真は反対の足の靴でした)

栄養補給と防水加工を行う

次にスプレー等を使い栄養補給と防水加工を行います

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ヌバック+テキスタイルボトルを塗布します。ボトルに記載の使用方法通り、塗布後表面が乾く前にクレープブラシでブラッシングします。

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次ににヌバック+ベロアスプレーで栄養補給及び防水(撥水)加工をします。スプレーは必ず屋外で行ってください。

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乾燥後、クレープブラシや馬毛ブラシでブラッシングしてください。これでメンテナンスは完了です

より防水力を高めたい場合

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防水(撥水)をより強化したい場合は、レザージェルと防水専用スプレーを使用します。このレザージェルは油分補給とともに防水加工が可能なジェルですが、油分が多いためヌバックやスエードの起毛が寝てしまうリスクがあります。そのため長期山行や雨天の山行が想定される場合に使うことを推奨します。また、防水専用スプレーは、私は主に価格が比較的安いウォーターストップを使っていますが、防水(撥水)性能の高いナノプロや防水持続性の高いカーボンプロを使えばより効果的です

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コロニル ナノプロ 防水専用スプレーで高い防水(撥水)効果を持ちます。ウォーターストップやレザージェル内部に浸透して防水効果を発揮しますが、このナノプロはコーティングのような形で防水膜を作ります。よって併用することで防水効果を高めることができます。

レザージェルや防水スプレーの効果が続くのは2~3週間程度。そのため登山靴を使用する機会がしばらくなければ、栄養補給のみ(例えばヌバックベロアスプレーのみorヌバックテキスタイルボトルのみ)にしておき、山行が近付いた段階で強い防水加工をする、という方法がよいでしょう

ワックス加工について

ヌバックレザーの登山靴のおいて、ワックス加工に触れないわけにはいかないと思います。さて、そのワックス加工はコロニルのアクティブレザーワックス、レザージェル、ヌバックローションを使って実施することが有名です。アクティブレザーワックスの効果は栄養(油分)補給とともに革に防水、防汚効果を与え耐久性を向上させます。防カビ効果もあり、ヌバックレザーの起毛が寝て風合いが変わる以外は特に問題点はなく、登山靴という過酷な条件で使う靴にはとても有効なものだと思います。私は起毛革の風合いが好きなため実施しておりませんが、ワックス加工を行うことで十年以上同じ登山靴を使用し続けている方もいるでその効果は十分にあると思います。

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コロニル アクティブレザーワックス 防水・防汚・栄養効果のあるワックス。良く伸びるためとても塗りやすい。起毛革に塗ると毛が寝てしまうため風合が変わる。なお、レザーワックスは水分の含有量が少ないため、これと別に栄養ローション(ヌバックテキスタイルボトルなど)を使用することが有効

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コロニル ナノクリーム 高い防水効果を持つクリーム。スポンジが付いており塗布しやすい。レザーワックスよりは風合が変わりにくいとは説明にあるが、起毛革に塗ると毛が寝てしまうため風合が変わる

ワックス加工しないと革がダメになる?

登山靴のメンテナンスを検索する目にするこの文言。ヌバックレザーはワックス加工しなければカサカサになり、数年でダメになるというものです。栄養成分入の防水スプレーでは油分が足りないと言われますが、さてどうでしょうか

革がカサカサになるのは油分が不足しているから。スプレーはワックスやクリームに比べれば含まれる油分は少ないのは確かです。革の状態を維持するだけの油分を与えば良いので、足りなければ繰り返しスプレーすればよいのです。

しかし、防水スプレーでは革の傷への耐性をつけることはできないため長くきれいなまま登山靴を使い続けたい場合は、ワックス加工も選択肢のひとつだと思います

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3年程使用しているヌバックレザーの靴。登山靴と使用環境が違うので正確な比較にはなりませんが、栄養成分入り防水スプレーのメンテナンスで革は良い状態を保っています

化学繊維の登山靴のメンテナンス方法

基本的には革製の登山靴と同じです。まず、インソールを抜き、靴紐を外してから靴についた汚れをブラシで落とします。

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この程度の汚れであれば固く絞った濡れ雑巾で拭くだけで綺麗になります。

汚れが酷い場合は水洗いした後にクリーナーを使います(必ず新聞紙を靴の下に敷いて吹きかけてください!)。

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靴内部に浸水しているような状況であれば新聞紙等を入れて数日日陰干しをします。これにより靴内部の湿気をとります。乾燥したらインソール、靴紐を入れ、メンテナンスは終了です。

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靴を使う数日前に防水スプレーをします。化学繊維の靴はメンテナンスが簡単です。

最後に

今回紹介したのは私が行っている登山靴のメンテナンス方法です。メンテナンスに正解はないと思いますので、みなさんそれぞれの方法でメンテナンスしていただければと思います。







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