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「陰謀論」をなぜ信じてしまうのか?(論文紹介)

1969年にアポロ11号は月面に着陸なんてしていないですし、ましてや地球は丸くなんてなく平面なのです、それが真実というものなのです。」このような陰謀論や「真実」と言われる物語は私達を強く惹きつけます。一方で、最近の陰謀論は、Pizzagate事件やCOVID-19に関するのなどを思い返せばわかるように、笑い事にすまない事件を引き起こし大きな社会問題となっています。学術的にも「陰謀論」は注目されており、陰謀論に関する心理学における学術論文の半数以上が2019年以降に発表されたと言われています。なぜ、私達は「陰謀論」を信じてしまうのだろうか?この疑問に関して多くの学術的文献は答えになりそうな分析結果を提供しており、Nature Reviews Psychologyに採択された"Individual, intergroup and nation-level influences on belief in conspiracy theories."では、これらの文献を整理し、陰謀論を信じてしまう心理的要因に関するこれまでの知見を提供しています。

彼らは陰謀論を信じてしまう要因を範囲の観点で以下の3つのレベルに分割し文献を整理しました
個人の心理からくる要因
集団での心理からくる要因
国家などの経済的、政治的、文化的、社会歴史的などの大きな文脈による要因

論文のFigure 1から抜粋

陰謀論を信じてしまう要因に関する研究では特に個人レベルに焦点を当てたものが多く、様々な観点で分析されています。例えば、認知の観点では、直感や感情に基づく思考を好む人は、陰謀説を信じる可能性が高いそうです。さらに、分析的思考の課題を行うことで、陰謀論を信じる気持ちが減少するという結果も得られました。また、陰謀論と病気、特にこころの病気、との関係は強く、統合失調症の自己報告尺度が高い人やパラノイア的な症状を持つ人と陰謀論を信じる人には高い相関があることが報告されています。過去の経験も陰謀論を信じる傾向に影響を与えることがあり、孤立や拒絶を過去に経験している人ほど陰謀論を信じやすいそうです。

陰謀論とその人の性格・傾向との関係はどうでしょうか?いわゆる、人々の性格を理解するのに使われるビッグファイブ理論と陰謀論の信じやすさの傾向について分析したところ、諸々の研究によって結果は様々ですが、メタアナリシスによると、どうもこれらの関係には有意な関係が見られなかったそです。一方で、ダークトライアドと呼ばれる3つの負の特性 (ナルシズム、マキャベリズム、サイコパス)と陰謀論の信じやすさには関係があると言われています。この傾向はCOVID-19陰謀論を信じる人達にも見られるようで、彼らはモノを備蓄する傾向が強い一方で、他者を守るといった行動はあまり取らないと言われています。


論文のFigure 2から抜粋

グループと陰謀論の関係はどうでしょうか?これには、自分が属しているグループのことをよく思いたいという社会アイデンティティ理論が深く関わっているそうです。例えば、911事件の例ですと、この事件がアメリカ政府による内部犯行であるという考えを支持するカナダ人は約22%であった一方で、イスラム圏7カ国では78%がこの考えを支持したそうです。"Adaptive conspiracism hypothesis"という、陰謀論が外のグループの脅威を管理するために進化したものであるという仮説もあります。集団心理と陰謀論に関する研究はまだ多くありませんが、この2つの相性の高さ、相互に影響しあう危険性は高そうに思えます。

このように、陰謀論を信じてしまう研究は多くのことが明らかになっています。一方で、国家や集団と陰謀論の関係について探索する余地は多いにありそうです。将来的には、このような心理的な要因だけでなく、実際に陰謀論を減らしていくにはどうすればよいか?について考えていくことも重要です。個人に対するアプローチだけでなく、集団しいては国家に対してどのように陰謀論が広がってしまう対策をとればよいのか?この点については早急に考えていく必要があるかもしれません。


それはそれとして、Netflixで配信されている「陰謀論のオシゴト」に私達の信じる陰謀論の真実に関するコメディ作品でめちゃくちゃ面白く、シーズン3まで続いていきそうなので観るなら今です。

また、アメリカ在住の600万人が信じているという地球平面説、これを信じる人達に迫ったドキュメンタリー作品である「ビハインド・ザ・カーブ -地球平面説-」も1時間ちょっとで彼らの考えや内情について知れる良い作品です。

https://www.netflix.com/title/81015076

Hornsey, Matthew J., et al. "Individual, intergroup and nation-level influences on belief in conspiracy theories." Nature Reviews Psychology 2.2 (2023): 85-97.
https://www.nature.com/articles/s44159-022-00133-0

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