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J2リーグ 第12節 レノファ山口FC vs ジェフユナイテッド千葉 感想

2021年シーズンのレノファ山口の12試合目、ジェフユナイテッド千葉との試合は0-1で敗戦となりました。今回はその試合の感想です。


試合後のスタッツを見ると山口のボール保持率が63%となっており、千葉の守備を山口がどう攻略するかが大きな争点となった試合でした。結果的には千葉の守備が上回り勝利を収めることになりました。今回は、山口のボール保持と千葉の非保持について書き残しておきたいと思います。


千葉の足を止めるためのターゲット

山口は3-5-2、千葉は3-4-2-1のシステムで臨んだ試合でした。山口はメンバーをある程度入れ替えたものの京都戦からの流れを継続、千葉は試合のペースを引き戻した新潟戦の流れをを継続という形になりました。

山口のボール保持は、3バックがそのまま最終ラインに並びその前に佐藤がポジションを取る3+1の形と佐藤がディフェンスラインに下がり、田中がアンカーの位置に立つ4+1の形を使い分けて行われていました。使い分けのはっきりとした基準を読み取ることはできませんでしたが、佐藤の動きに対して周りが連動するイメージであろうことは感じました。

狙っていたのは千葉のCHの周辺のスペースだったと思います。CHをうまく動かしてスペースを作り、そこに入っていきながらゴールを目指すようなイメージです。そのためにも、千葉が新潟相手に見せたハイプレスを受けないようにすることが重要だったかと思いますが、その点については成功していました。

千葉は前線が1トップ+2シャドーの3枚が並ぶ形であり、山口が4+1の形を作るのは最終ラインで+1を作る分かりやすい意味があります。対して3+1のビルドアップは最終ラインの3枚に対して、千葉の前線の3人がそのまま嵌められる可能性が高い形です。しかし、3+1の1がうまく関わることによって、千葉の足を止めることに成功していました。

ターゲットは1トップのサウダーニャでした。彼の背後に佐藤が立つことによって、サウダーニャを引きつけCBの真ん中の渡部にフリーにさせ、千葉のシャドーのプレスのタイミングを与えていませんでした。サウダーニャとしては渡部にアプローチをかけたいんだけれども、背後にいる佐藤を気にしないわけにもいかない状況となり、プレスの足を止められていました。

一見最終ラインは同数で、プレスを受けやすい形でしたが、この駆け引きによって千葉の足を止め、相手のCHの両脇に田中と池上が立ち、前線に2トップが待ち構えられる形を生み出す土台ができていました。

試合の入りはこの形の中で千葉に迷いが生まれているようにも見えましたが、次第に整理されていきます。ここで千葉の守備のスイッチを入れる役目、その基準を与えたのがCHの小林でした。

小林は、山口がボールを持った際、最初は佐藤に対してサウダーニャをマークさせ、スタートポジションに立ったままの位置を取ります。そこから山口がサイドにボールを運んでからやり直す際に、佐藤のところにジャンプしていきます。その動きを合図に前線の3人が山口の3バックに対してプレスをかけるのです。

ここの守り方が整理され、サウダーニャがプレスをかけられるようにもなっていきました。ただ、あくまでもその基準を与えていたのは小林だったように見えました。小林のアクションをスイッチに全体が動き出すような、そんな印象を受けました。

それが非常に分かりやすいシーンの1つが43分の山口のボール保持です。最初は+1のところに立つ田中をサウダーニャが見ているのですが、43分5秒あたりで小林が田中をマークする合図を送り、その合図に従って見木が菊地にプレスをかけて関にボールを蹴らせることに成功しました。

山口が4-4-2に変更するまでは、小林のところが両チームにとって大きな争点となっており、この駆け引きが非常に見応えありました。


千葉の守備の基準となった小林との駆け引き

では、この千葉の非保持の動きに対して山口のボール保持がどうだったのかという話に参りましょう。山口の小林の動きへの対応は評価できると感じました。全体を通してみればうまくできていたのではないでしょうか。

小林が出てこない際は、手前のスペースを活用して引っ張り出すことでその背中を狙い、先にアクションを起こして小林が出てくるのであれば、手前をおとりに背後を狙うことで、小林を外すことができたシーンがいくつかあったからです。

まず手前を使ってから背後を取れたシーンを見ていきましょう。

6分20秒からです。ここは佐藤が最終ラインに下りて4+1の形になっています。ですので千葉はまず構える形を取ります。小林は+1の位置に立つ田中を最初からマークしているわけではありません。6分30秒あたりで佐藤から一度田中にボールをつけます。田中は後ろからの小林の圧力を感じワンタッチで佐藤に戻します。この遊び球で小林を引っ張り出しました。
今度はボールを受けた佐藤に対しCHの小島が出てきます。これで小島を引っ張り出しました。その瞬間に佐藤から出てきたCHの背後で小松がボールを受け、シュートまで持ち込みました。

次は、個人的にこの試合で一番良いボール運びができたと感じた54分20秒あたりからのシーンです。ボールをサイドに展開しながら菊地からのボールを手前で田中→神垣→田中と繋いだことで、CHの小林と小島を引っ張り出すことに成功しました。そして、田中のパスを受けた川井がその背後をとる浮き球のパスを送って、局面をひっくり返し、浮田のクロスという形を作りました。

次は手前をおとりにその背中を取るシーンです。いずれも関のキックでその背中を取りました。

まずは49分30秒あたりのシーンです。ここは3+1のビルドアップになっていますが菊地が49分40秒でボールを受ける際に、小林は既に佐藤をマークしています。そこで前線の選手に合図を出していると思いますが、菊地が下げたボールに対してサウダーニャがプレスをかけました。山口は仕方なく関に下げますが、その瞬間に小林の背後を取っていた田中に関からボールが送られます。
関のボールがずれてしまい、一度は千葉にボールを回収されていますが、佐藤がすぐにプレスをかけボールを奪い返し、浮田の持ち上がりが出来そうな形になりました。

同じようなシーンが56分にもありました。神垣について行った小林の背後を関のロングキックで取り、そこから池上が前進していく形になりました。

以上のように、最終ラインからプレスを受けずにボールを前進させるという点は、ある程度ピッチで表現できていたように感じました。


得点を奪うというフィニッシュテープを切るために

では、得点を奪うために足りないことは何かという話になります。この試合で感じたのは以下の3点でした。

1つ目は、ここまでお話ししてきたようなシーンを作る回数の少なさです。この試合のポイントはCHを動かしてそのスペースを取ることだったと思うのですが、そのためには前方に人を確保しておくことが重要なはずです。この試合では最終ラインが相手の前線の選手と同数であっても、プレスを回避することができていました。ですから、わざわざ4+1にして前線枚数を減らす必要はなかったのではないかという感想を持ちました。

3+1の形で徹底的に攻めれば、もう少し上記のシーンのような場面の回数を増やすことができたかもしれません。


2つ目は、チーム全体のプレービジョンの共有のところです。相手の動き、立ち方に対して、次の手を考えられているのですが、2手先3手先でいて欲しいポジションに人がいないシーンがありました。

例えば、15分あたりのビルドアップから小松が間で受けたシーンです。小松が受けて前を向いた時に小林の左側の背後にスペースがあります。ただそこに人はいませんし、小松の前にも人はいません。池上は近い、高井はその前の作りで左サイドの深い位置に下りてしまっているためです。
他にも33分40秒や54分7秒あたりのシーンなどが挙げられます。

縦パスが入るのですが、その先に人がおらずスピードアップできないで、またやり直しになってしまうケースがあります。もちろん、そこはスピードアップする局面でなくやり直しをすれば問題ないという共通認識であれば良いのですが、やり直した後に敵陣で効果的な崩しを行うのが難しい以上、このような局面でスピードアップができても良いはずです。


3つ目は、個人戦術です。これは、2点目で挙げた数手先を考えたポジションを取っているのですが、そこまでボールが届かなかったり、届くんだけどそこでスムーズなプレーができなかったりで、チャンスにならないシーンのことを指しています。

例えば、前述した6分の小松のシュートシーン、シュートまでいけているので十分だという見方もあるかもしれませんが、もう少しスムーズにターンできるともっと相手に脅威を与えられたと思います(一度後ろに下がった瞬間に小林に戻られていたりするので)。
他には61分の高井のコントロールミスのシーン、前方に河野、横に田中、大外に池上と浮田がいたため、ここでコントロールできていれば、スピードアップが出来たのではないかと思います。


そして、今回最も取り上げたかったシーンが75分37秒あたりのシーンです。渡部から真ん中のスペースに立っていた池上にボールが入ったのですが、左に展開する中でボールを奪われたプレーです。

この局面は左から右に展開する中で、相手のスライドが間に合わないうちに右サイドにボールを持っていければスピードアップができたはずです。ただ、相手がいる左サイドに再度展開してしまったため、ボールを奪われてしまいました。

焦点になったのが、池上が右サイド側にターンできるか否かということでした。右内側のスペースには澤井がフリーとなっていて、大外には川井、その前方には梅木が鈴木大輔と駆け引きできるポジションを取れていました。数手先を考えられているポジションです。

澤井にボールが届けば!というシーンでした。カメラの角度的に読み取りづらいのですが、渡部のパスが左足の方に出ていれば、池上が半身になって左足でトラップし、その瞬間にパスが出せれば、と思ってしまいます。ただよく見てみると、福満が逆を取られながらも戻ってきていて、今挙げたようなプレーは厳しかったのかもしれません。そう考えると逆を取られかけた福満がよく戻りましたというシーンだったとも言えそうです。

75分のシーンは個人戦術が足りないとも言い切れませんが、このような微妙な配置やコントロールのずれによって決定機を作るまでに至っていないのだと感じました。


ここまで3つのポイントを挙げて、得点を奪うにはということを考えてみました。

まとめると、得点を奪うことにおいて、スタートラインに立っていて、スタートを切ることもできているが、フィニッシュテープを切るところでゴールに至っていない、どう走ってどうフィニッシュテープを切るのか、という点が課題であるという印象を受けました。

スタートラインに立つことができていなければ、本当に厳しい状態でありますが、そうではないと感じます。ですから、ここは辛抱して、チームを信じて応援を続けたいです。そんなことを思ったホーム千葉戦でした。



*文中敬称略

*この試合のハイライトはこちら


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