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J2リーグ 第15節 ブラウブリッツ秋田 vs レノファ山口FC 感想

2021年シーズンのレノファ山口の15試合目、ブラウブリッツ秋田との試合は1-1で引き分けとなりました。今回はその試合の感想です。


秋田のストロングポイントとの噛み合わせ

10人の相手に対し、後半アディショナルタイムに追いつかれて引き分けという試合は、捉え方によっては勝点2を失ったと言えるかもしれません。しかし、様々な外的要因や試合内容を考えると勝点1を持って帰ってくることができて良かったという試合だったのではないでしょうか。

外的要因には、水曜日開催・アウェイ遠征・ピッチコンディション・雨・試合中のアクシデントによる交代など多くのことが挙げられます。非常にタフなコンディションだったことは間違いありません。

そして試合内容ですが、前半から退場者が出る時間にかけてペースを掴んでいたのは秋田の方だったと思います。前半立ち上がりこそは山口が相手陣内に押し込む時間を作っていましたが、次第に秋田が相手陣でのプレー時間を増やしていました。

そんな中でチャンスを作っていたのが秋田の右サイドからの攻撃です。右SH沖野から何本もクロスが上がっていました。

チャンスをもたらしていたのは、とにかくヘナンの背後スペースへのランニングでした。例えば、次のような形です。

サイドへ流れてくる中村や齋藤に縦パスを当てます。するとヘナンや渡部を背負う形ができます。その間に3人目の選手がポストプレーに対応して前に出てきたCBの背後にできているスペースに走り込みます。そして、落としたボールを走り込んでいる選手に向かって蹴ることで山口の左サイドを攻略するという形でした。

38分や45分、86分のシーンなんかがこれに似たようなイメージです。

また直接的にもヘナンの背後を取るシーンがありました。10分〜11分にかけてのシーンや23分、37分、41分などの場面で右サイド深い位置を取ることができています。

これだけ右サイドからの前進が多いと、直感的に山口に対する狙いだと思うかもしれません。右からクロスを上げれば、ファーサイドでは石川や川井という身長的にはアドバンテージを得やすい相手と競ることできる利点があるからです。

ただ、どちらかと言うと自分たちのスタイル、ストロングポイントがうまく山口の守備と噛み合う形だったという面が強かったのではないかと思います。

Football-LABのデータを見てみましょう。ここまで15試合は、右サイドでプレーする時間が圧倒的に長くなっていることが分かります。また、J3優勝を果たした昨シーズンのプレーエリアも圧倒的に右サイドです。笑ってしまうくらい右サイドの大外のレーンが濃くなっています。

ですから、右からの攻撃は必然であり、それを何度も出すことができていたわけなので、秋田として見れば悪くない試合展開だったと言えそうです。

もちろん山口もポイントポイントで素晴らしいゴール運びから決定的なシーンも作っており、やられっぱなしという展開ではありませんでした。とはいえ秋田ペースで進んでいた試合ではあったと思います。


ようやく掴んだ自分たちのターンで

後半になると、秋田は左サイドからも前進も見せ始めました。試合内容として一進一退の攻防が続く中、57分に秋田に退場者が出てしまいます。ここから山口がボールを保持しながら敵陣に押し込んでいく展開となります。

4-4-1で構える秋田に対して、山口は1トップの脇からの前進を目指すようになります。前節の相模原戦と同じように3CBの両脇の選手や、少し下りてきた神垣のところで時間を作り、そこから前へパスを付けていく展開でした。

68分の川井のクロスシーンは、トランジションから左サイド深くまでボールを運び、そこからやり直して右サイドへボールを展開、1トップの脇で石川が中継役となり、川井と佐藤の関係で右サイドを突破という形でした。

69分高井の決定的なシュートシーンも、1トップの脇でボールを受けた神垣が起点となりました。一度大外の川井にボールをつけた神垣はアクションを止めず、1列上がってサポートできる位置を取ります。このアクションも、川井にボールが出た瞬間、池上が前方のスペースへランニングで秋田CH普光院が動かしていることによって、より効果が生まれています。そして、再びボールを受けた神垣から再び動き直した池上にスルーパスが通りクロス、高井のシュートと、一連の流れがお見事でした。

ちなみに得点シーンのコーナーキックを獲得した場面も、浮田が高い位置を取って相手のSHを押し込み、その手前のスペースからヘナンがボールを運んで行ってという形でした。1トップの脇・SHの手前からの作りは68分や69分のシーンと同じ文脈で捉えることができるはずです。

このように、10人の相手にできるスペースを把握し、チーム全体でボールを運んで行く展開を焦れずに続けたことで待望の先制点を挙げる事ができました。

この辺りの対応が素早くできるようになっている印象を受けます。これは試合に対する素晴らしい準備もあるのでしょうが、ここまで14試合で着実に自分たちのサッカーを積み上げている成果ではないでしょうか。


試合開始からの文脈に沿って生まれた同点ゴール

得点が生まれてからアディショナルタイムを含めて15分ほどの時間、山口は再び秋田の右サイドから攻撃を受けるようになります。この攻撃は右サイドに人数をかけて前進し、クロスを逆サイドから合わせる形なので数的不利はそこまで影響しません。86分、91分と山口の左サイドを突破されかけるようなシーンが続きます。

そして93分、スローインからヘナンが引っ張り出されてその背後スペースを取られ同点にされてしまいました。最後の跳ね返りを見ると事故的な失点のように思うかもしれませんが、この試合再三見せられていた形でとうとう失点を許すことになりました。秋田からすれば、ようやくこじ開けたといった形でしょうか。

これだけ多く走られていると何か手を打っておきたかったところなのかもしれませんが、ここは山口がメリットを享受するために必要なリスクだったと見ることもできるような気がしています。

山口は、秋田のように陣地を取りに来る相手に対して、ラインを高く保ちそれを許さないようにしていました。なるべくラインを下げずオフサイドにできるものはオフサイドにして、深い位置を取られない形です。もちろん秋田だから特別にというわけではなく、秋田であってもいつも通りコンパクトに戦う意識の表れだと思います。

そう考える理由として、金沢戦でもオフサイドに何度もかけるシーンがあり、この試合でも一発で背後を取るような動きに対してはオフサイドにかけることができていたことが挙げられます。ただ、これにはもちろんリスクもあって背後を取られてしまうことも出てくるでしょう。

合わせて書いておくと、自分たちの左サイドからのクロス対応が石川になってしまうことも石川の攻撃性、展開力というリターンを得るために受け入れているリスクであると言えます。

ですから、それに見合うリターンをどれだけ得ることができたかを見ることが重要となります。この試合に関しては、秋田の右サイドの背後を狙ってくる攻撃に対して、リターンよりリスクの方が上回ってしまっていたと思います。こういった側面から試合全体が秋田ペースだったのも頷けるような気がします。


最後に、失点シーンを結果論だけで見れば、この状況と時間帯に上記のようなリスクをそのままにしておくべきだったかは考える必要があるでしょう。自分たちの左サイドからのクロスに対する備え、そしてヘナンの背後へのランニングを止めるような手を打っていたかというと、そこには疑問がつきます。

左からのクロスに対する備えで言うと、一つエクスキューズがあります。それが渡部の負傷です。ここ数試合の逃げ切りパターンは石川に代えて菊地の投入でした。先ほど挙げたような高さのリスクを解消する交代策を普段は講じています。しかし、この試合では渡部の負傷によって、石川を残さざるを得ない展開になってしまいました。これは仕方がありません。

であれば、ヘナンの背後へのランニングですが、これはもう少しラインを下げるとかハーフタイムでの意思統一など、何とかなった可能性もありそうです。気になるのはヘナンの背後へのランニングのパターンだけ試合を通してオフサイドにかけることができなかった点です。

このパターンの時にオフサイドにかけられない要因として考えられるのが、ヘナン・渡部(失点シーンは菊地)と石川のラインで生まれている微妙なずれです。ヘナンはボールにアプローチをするので少し高い位置にずれます。それに合わせて渡部や菊地はラインアップをしています。ただ、石川やその外側の川井は微妙に反応が遅れその場に止まっていることが多く、そのギャップをつかれてオフサイドにできていないのです。失点シーンもオフサイドになっていないのは石川が残っているためです。

誰の動きが正解か、どこでエラーが起きているかは判断しかねますが、上記の事象は前半からずっと起きていたものでした。修正しきれなかったツケが回ってきたと捉えるのが妥当だと個人的には感じます。先ほどハームタイムでの意思統一と書いたのは前半で何度もやられていたからになります。


こういった事象がこれまでの試合でも起きていたのか、この試合特有のものなのか、そしてこの事象はOKなのか、はたまたエラーなのか、については現時点では判断しかねるところであります。なぜなら、これまでの試合で意識して見ることすらできていなかったからです。そういった意味では私自身、また一つ勉強になった試合でした。この試合を経て、次にどんな戦いを見せてくれるのか非常に楽しみになりました。



*文中敬称略

*この試合のハイライトはこちら

*参考サイト
Football-LAB:https://www.football-lab.jp/aki/

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