山口の伸び代を考える 〜J2リーグ第34節 レノファ山口FC vs アビスパ福岡 振り返り〜

2019年Jリーグ第34節 レノファ山口FC vs アビスパ福岡の試合は,2-0でレノファ山口FCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

この試合のプレビューはこちらです。


山口が良かった時間帯とその要因

この試合は山口が2得点を奪いJ2通算ホーム100ゴールを達成した試合となりました。良かった点は福岡の守備組織に対して有効な攻撃を何度か繰り出していたことです。良かった時間帯としては前半の立ち上がりと後半の後半の2つだったと思います。

福岡の守備はブロックを5-4-1をブロックを作りながらも中盤とディフェンスのラインの間のスペースが空きがちになることが多いです。特に岡山戦では右サイドの初瀬とウォンドゥジェ,加藤のところを仲間や中野に使われていました。

この試合でも前半立ち上がり山口は中盤とディフェンスのライン間に縦パスを通しながら攻撃をしていました。そのためにディフェンスラインの裏を使い手前にスペースを生もうという点も多少は見られました。この点が前半の立ち上がりが良かった要因でしょう。

例えば前半5分台のボール保持はライン間にボールが入りながらできていて良いと思いました。5分台のボール保持がその後の7分5秒の高から宮代へのディフェンスラインの裏に落とすボールにつながりました。福岡はライン間にパス通されていたことで中盤のラインも背後が気になり,その手前で受ける高がフリーでパスを送ることができました。

この時間帯は左CBの菊池から逆サイドのライン間に立つ池上へのパスコースが空いていたことからも分かるように真ん中と外をうまく使いながら前進ができていたと思います。

ただ,前半の15分過ぎあたりから福岡の1トップのヤンドンヒョンの守備のスタート位置が下がったことによって真ん中を使いづらくなりサイドでノッキングする場面が出てきました。福岡はヤンにCBとボランチの間からややCBよりに立っていたところをボランチのところに立たせることでCBからボランチへのパスコースを制限していました。

0-0で試合が進んでいったのにはこの修正が1つポイントとなったかもしれません。

後半はお互いに守備が怪しくなるシーンが増えてきて代わりに良い攻撃が見られるシーンが出てきました。その中で後半の後半に山口がやや優勢となった要因の1つにヤンドンヒョンと城後の交代があったと思います。城後よりヤンの方が競り合いの強さがストロングポイントとなっていると思いますが,福岡のゴールキックを城後と山口の菊池が競り合うようになったことで菊池が簡単に跳ね返せるようになったのではないかということです。

この競り合いから72分の山口の大決定機も生まれました。福岡はまず交代策がそれで良かったのかを検証する余地があると思いますし,仮にヤンを城後と交代させるのであればゴールキックはもっと工夫する必要があったと思います。実際,城後は67分の前貴之との競り合いでは勝っていましたので相手を選べば良かったのだと思います。

試合の大まかな流れはこんな感じです。山口としては2-0というスコア,宮代の初ゴールや池上の今季初ゴールが生まれた点で結果が良かった試合になったと思います。ですから良い試合であったことに間違いがないのですが,どうしても気になった部分が2つほどありましたのでその点を書いていきたいと思います。


山口の伸び代〜攻撃編〜

気になった点は攻守に1つずつです。

まず攻撃ではもっとやれたのではないかという思いが強いです。これが気になった点です。正直岡山の方が福岡に対して効果的な攻めを見せていたと思います。当然福岡も初瀬を左サイドでスタメン起用するなど山口戦に向けて改善を図った部分もあったのですが,それでももう少しチャンスが作れたのではないかという気持ちが強いです。

ではもう少しチャンスを作るためにはどうしたら良かったのでしょうか。それは1つに手前から背後に落とすパスを増やすことです。前半7分の高から宮代へのパスのようなシーンをもっと作れたら良かったと思います。なぜなら,福岡は相手の最終ラインから中盤にかけての選手に対してはそれほど強いプレスをかけずブロックを作ることを優先するにも関わらず,裏に抜ける選手へのケアが足りないからです。7分の宮代のシーンもあっさり宮代を捨ててオフサイドをアピールしていますが,そこまで明らかなオフサイドではありませんでした。大外に初瀬が残っていたのでほんの少しのオフサイドだったと思います。

岡山はイヨンジェが常に背後を狙いながら仲間と中野で間のスペースを使いながら,間で受けたらその裏という連動で福岡を困らせていました。山口はまず裏に出るシーンが少なかったように思います。前半は7分のシーンと32分の前貴之から池上のシュートシーンぐらいだったと思います。後半も目立ったのは54分の佐藤から高へのパスシーンぐらいだと感じます。

裏がもっと取れれば間のスペースも使えたと思いますので裏と間の組み合わせと連動ができたら良かったと思います。これが伸び代1つ目です。


山口の最大の伸び代〜守備編〜

最後に守備の面で気になった点に参りましょう。

この試合の後半の守備で気になったシーンが数多くありました。それらのシーンに共通することは逆サイドの選手のスライドの遅さです。

逆サイドの選手のスライドについて,よろしければこちらの動画をご覧ください。この動画の5分45秒あたりから山口の守備についての改善点について述べられています。

この福岡戦でも山口の逆サイドの選手のスライドの遅さが目立ちました。特に攻撃から守備の切り替えでの戻りの遅さが気になりました。この点を振り返りたいと思います。

まずは64分「ペナルティエリアの前で木戸にフリーでシュートを打たれてしまったシーン」です。

山口のボール保持から三幸の右サイドへのパスを初瀬にカットされたところから始まります。そこから福岡のビルドアップとなるわけですが,初瀬→加藤→菊地へとボールが渡ります。まず山口の1つ目のエラーは菊地に対して三幸と宮代の2人が一瞬重なるようにプレスをかけてしまったことです。これによって左の實藤に余裕が生まれ菊地からボールを受けてワンタッチで初瀬に展開できました。この實藤のパスで池上の背後を取られ,危険なシーンにつながりそうな状況となります。それでもここで川井が前に出てきて福岡の攻撃をやや遅らせることに成功します。

ただ,ここで初瀬から鈴木にパスが通ってしまいます。この時の配置に注目してください。

画像1

だいたいこんな感じだったと思います。鈴木がボールを受けた瞬間に木戸と石原がいる福岡の右サイドに広大なスペースがあります。このスペースに注目してこの後のプレーを見てみてください。

鈴木からワンタッチで前川に渡りました。この時福岡2-山口3の数的優位ができそうな場面だったのですが,前川に簡単にカットインを許してしまいます。これも山口のエラーの1つです。その後前川がカットインで中に侵入しますがまだ木戸はフリーです。誰も戻ってくる気配すらありません。そして最終的には前川→木戸で木戸のシュートという場面でした。

このシーンを振り返ると山口にいくつかのエラーがあったり福岡の城後がポジショニングで楠本を惹きつけるという動きのうまさがあったりしましたが,山口の逆サイドの戻りの遅さも同時に気になるシーンだということが感じられます。

他にも67分から68分にかけての場面が挙げられます。67分55秒で前貴之がボールを失って福岡ボールのスローインになります。山口の右サイドでボールを失った場面です。ではこの後逆サイドの戻りはどうなるでしょう。

スローインを鈴木が受けた瞬間,田邉がフリーで待っています。そして田邉はフリーで居続けた結果,前川からパスを受けて石原に展開することに成功しました。このシーンは左SBの楠本が1vs1の対応でクロスを上げることを遅らせて何とかなりましたが,非常に危険なシーンでした。このシーンは山口の逆サイドの戻りと合わせてボランチが縦関係になってしまったことも問題だったと思います。

そして74分のシーンです。ここも74分2秒頃に池上がボールを失ったところがスタートとなります。ただ,失った瞬間のプレスバックでファウルを与え福岡の攻撃を遅らせることには成功しています。つまり,切り替えて守備の立ち位置に戻る時間はある程度存在するわけです。

しかし宮代のアップから鈴木がボールを持った場面にカメラが切り替わった瞬間,福岡の右サイドに広大なスペースが存在しています。この後鈴木から田邉へパスが通りスピードアップします。そのまま田邉はサイドに持ち運ぶ選択します。田邉には高がついて行って対応します。すると今度は高が元いた場所にスペースが生まれます。

しかしここにも誰も戻ってきません。三幸がスライドするわけでもなく山下が戻るわけでもありません。

そんな中で高がいたスペースの存在にいち早く気付いたのは山口の選手ではなく福岡の前川でした。そして前川がこのスペースで田邉からフリーでパスを受け,追い越す田邉にリターンパスでペナルティエリア内に侵入しコーナーキックを獲得しました。この後のコーナーで實藤のヘディングという超決定機が生まれているわけです。先制されてもおかしくない場面でした。

これらのシーンでは共通して攻撃から守備の切り替えの遅さが気になります。こういった部分の隙が上位と対戦した時に結果に繋がらない要因なのではないかと感じました。

ただ,こういったシーンがありながらも0で守れたのには個人戦術の部分に要因があると思います。CB2人の逞しさや高・佐藤のカバーリング能力は山口にとって大きな大きなものです。

そして楠本の左SB起用は今まで振り返ってきたように穴になりやすい左サイドを1人で何とか守ってもらうためという点もあったりするのではないかと思いました。その点では楠本の存在はこの試合でも大きかったです(68分のシーンとか)。

結果はとても良い試合でした。良いプレーもありました。しかし,改善していく必要がある課題も数多くあった試合でした。

そういった気持ちからこのツイートになりました。これに思いは詰まっています。2-0で勝ちながらもまだまだ強くなる伸び代が存在しているのだと思います。山口はもっと強くなります。

残り8試合,この試合で出た課題が改善されているのかどうかに注目することで山口が強くなっていく過程を実感することができると思います。山口はもっと伸びるという期待感を持って残り試合を観ていきたいと感じた試合になりました。


*文中敬称略


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