改めて出た課題を認識する 〜J2リーグ第33節 ツエーゲン金沢vsレノファ山口FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第33節 ツエーゲン金沢vsレノファ山口FCの試合は,1-0でツエーゲン金沢の勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

この試合のプレビューはこちらです。


試合の入り方でペースを掴んだ金沢

結果は1-0の敗戦でした。山口も自分たちの攻撃で相手を押し込む時間帯もありましたが金沢が勝利に値した試合をしたことは間違いありません。個人的な感想で言えば「今の順位通りに負けた」という感じがしています。

こういった感想を抱くのも金沢が強かったからではあるのですが,金沢の強さを引き出す展開となったのも前半8分という早い時間に入った先制点が大きな要因だと思いますのでその部分をまず振り返りたいと思います。

金沢の先制点は山口のボールを奪った後のカウンターで生まれたものでした。ゴール自体はアシストをした杉浦のパスの質とゴールを奪った加藤の落ち着きといった個人のスキルが大きかったわけですが,それでは「相手がすごかったね,しょうがないね」となる失点だったのかというと違うだろうと思います。

失点シーンは楠本の川井へのパスを金沢の右SBの小島に前向きにカットされてしまったことが最大の原因です。このシーンは金沢を褒めるべき部分も多いのですが,こういった奪われ方がこの試合初めてだったのかというとそういうわけではありません。初めてであればこの奪われ方自体がたまたまかもしれないし,その1回を得点に結びつけた金沢を褒めましょうとなっても良いとは思います。

しかし,失点シーンのような奪われ方はたまたまではないと思います。なぜなら,失点シーンの前に同じような奪われ方をされているからです。

それは4分10秒辺りのシーンです。失点シーンのように金沢の左SBの沼田に狙いをつけられて前向きにボールをカットされてしまっています。4分のシーンと失点シーンの違いは他の部分ではかなりありますが,SBに前向きにボールをカットされるという部分は共通しています。おそらく前線から規制をかけてボールが外回りになるところをSBが前向きに奪うという形が金沢の狙いだったのでしょう。

8分のうちに2回ボールを奪われる形を作られ,さらに6分のように外回りにさせられて前進できないシーンなど山口はビルドアップでの前進が立ち上がり全くできていませんでした。つまり,金沢ペースの中で生まれたいわば必然の先制点だったと言えるかもしれないということです。

ビルドアップで前進できないことに加え失点も許してしまったことで金沢に完全に主導権を握られる試合の入りになってしまいました。これが敗因の大きな要素の1つだったと思います。


金沢の前節琉球戦とは異なる印象について

では試合の入りで金沢に主導権を握られてしまった部分を考えていきたいと思います。そもそも「金沢のやり方とか強さはわかっているのになんでそんなに簡単に主導権を握られてしまうの?」と思いませんか?「1週間何を準備していたんだい」と思う人がいても不思議ではないと思います。だけれども起こってしまったことは事実です。だからこそ振り返ります。大事なことは次どうするかですから。

まず画面で見ていたよりも金沢の選手たちの寄せる圧力が強かったという理由は考えられます。思ったよりも速く寄せられてしまう,思ったよりも強度が高いことでビルドアップにミスが出て主導権を握られてしまったということは十分にあり得る話です。

ただですね,琉球戦の金沢を踏まえると山口戦の金沢は結構違う部分があったのではないかというのが私の印象です。つまり,上で書いた理由だけではなく金沢のやり方が少し違っていたことが山口としては面を食らってしまった要因なのではないかと思っています。

琉球戦の金沢の印象についてはこの試合のプレビューで書きました。その印象の1つ目は金沢の攻撃の形についてでした。SBが相手のSHとSBの中間にポジションを取りCBやCHからパスを受けてアーリークロスを上げるという形です。これがこの試合ではちょっと違ったと思うんです。

前半4分から5分にかけてのシーンです。4分53秒で右CBの廣井がボールを受ける場面に注目してください。この場面では,廣井から下りてきたSHの金子にパスが出てさらに金子から藤村にボールが渡りまして藤村が前を向いてチャンスになりかけたというプレーが見られました。これ結構山口からすると危ない場面だったと思うのですが,このプレーは琉球戦から考えると想定しにくいプレーだったのではないでしょうか。

琉球戦では廣井がこのようにボールを持つとSHの選手は裏に向かって走り相手のSBを押し下げます。そこで小島が高い位置を取ることで相手のSHとSBの中間のポジションでフリーになってアーリークロスを上げるのが鉄板の形でした。

しかしこの試合ではこのシーンのようにSBが高い位置を取る動きに合わせてSHが下りてきて山口のSHとCHの間を狙うシーンが多い印象でした。琉球戦を踏まえていると山口のSHは廣井からSBの小島へのパスを警戒して外へのパスコースを切りたくなりますから,そこで空いた中のスペースを使おうというプレーだったと思います。

4分のプレーで「あれちょっと違うかも」と思ったのですが,他にもSBの上がる動きとSHの下りる動きのセットのシーンがありました。28分30秒のシーンです。今度は左サイドですが,降りて受けたSHの加藤に合わせて外側のスペースにSBの沼田が飛び出しボールを受けようとしました。山本のパスが合わず山口のスローインになりましたがこのシーンはこの試合の狙いの1つだったのではないかと思います。

ここまでは金沢の攻撃を振り返りましたが,守備のやり方も琉球戦のそれとは異なっていた印象です。金沢は基本マンマークで守ってくるわけですが琉球戦では左SHは相手の右SBをマンマークで捕まえるけれど,右SHは相手の左SBだけではなくボールが逆サイドにある時には相手のCHを見ることもするという左右のSHの守備のタスクの違いが印象に残っていました。

琉球戦での加藤はかなり相手のSBを意識しており,ボールが逆サイドにある時も相手のCHにプレスに行けるポジションは取りながらも常にSBを見ていました。ですから時にSBに完全について行って本来加藤がいるべきスペースを相手に使われることもありました。

逆に琉球戦の右SHの大石は相手のCHに食いつきすぎていたということはあったかもしれませんが,SBを意識しすぎるということはありませんでした。

4-4-2で守るチームがボールサイドと逆のSHが相手のSBとCHの両方をマークできるポジショニングを取ることはよくあることです。金沢というチームの中では琉球戦の大石より加藤の方がよくある守り方かもしれませんが,どちらかといえば大石の守り方の方がスタンダードに近いのではないかというのが私の印象です。

ですが,山口戦の金沢のSHの守り方は左右ともに琉球戦の大石の守り方に近いものがあったように見えました。これが山口が面を食らった要因の1つだと思っています。つまり,ボールが逆サイドにある時には相手のSBを捨て内側に絞るポジショニングを取って相手のCHを自由にさせないといういい意味で普通の4-4-2の守り方だったように思いました。この守り方は自陣に侵入された時ではなく敵陣でのプレッシングが主です。

これによってボールサイドと反対のSHが山口のCHの1枚をマークすることが可能になり,山口のボールサイドのCHと下りてビルドアップをサポートしようとするトップ下の三幸を藤村と大橋に監視させることができるようになりました。山口の中を使うビルドアップが窒息したのはこの守り方にあるのではないかと思っています。

金沢はいい意味で普通に守っていました。山口はこれに面を食らい主導権を握られてしまったのではないかと感じています。自陣での完全マンマークとの併用の守り方をするようになっているので金沢はより脅威なチームになったという印象を持った試合でありました。


追いつくためには痛かった後半の入り方の失敗

こういったことを踏まえると試合の立ち上がりに金沢に主導権を握られてしまったのはしょうがないかなと思うところもあります。さらに前半で言えば先制点を奪われた後,ズルズル行かずに主導権を握り返す時間もありましたし悪くなかったと思います。この辺はこれまでの課題をクリアできつつあることを示していると思います。

一方でこの試合で出た最大の課題がこの前半を踏まえた上での後半の入り方です。後半の入り方は正直失敗だったと思います。なぜなら,前半の立ち上がりに自分たちのビルドアップに対して金沢に嵌められてしまったように,後半の立ち上がりも山口は普通に4-2-3-1で立って普通に嵌められてボールを奪われるシーンが何度もあったからです。

46分25秒〜,47分20秒〜,48分42秒〜の3つ場面で立て続けにビルドアップを阻害されボールを奪われています。前半の立ち上がりは金沢のやり方や強度に面を食らって劣勢になってもしょうがないとは思うのですが,前半を戦いハーフタイムで相手の出方を整理して後半に臨んだにも関わらずこうなってしまったことは次への最大の課題だと思います

特に立ち位置を変えるという工夫もなく外から中盤の選手にボールを渡すところで相手のCHにボールを奪われてしまっています。こうなるのであれば,山口の中盤の選手がCBとSBの間に下りて金沢がどう対応するのかを見ても良かったのではないでしょうか。

こうした工夫もなくボールを奪われ続けることで「よし行くぞ!」という山口の出鼻をくじかれてしまったと思います。これが敗因の1つであり次への課題だと思います。

51分に佐藤に代えて吉濱を投入したこの交代が後半うまく入ることができなかったことを示していると思います。パウロを投入した後は得点の匂いも少しはするようになりましたが,立ち上がりからガツンと行けなかったことが金沢の守備陣を最終的に破れなかった要因だと思っています。

これまでの課題がクリアできている部分もありつつもまだクリアしきれていない課題が出てきた試合となりました。残り9試合でのさらなる成長を楽しみにしたいと思います。


*文中敬称略


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