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ファウルって悪いはずだけど… 〜J2リーグ第36節 レノファ山口FC vs 京都サンガF.C. 振り返り〜

2019年Jリーグ第36節 レノファ山口FC vs 京都サンガF.C.の試合は,1-0でレノファ山口FCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

この試合のプレビューはこちらです。


庄司を消すことに繋がったかもしれない山口のプレスのかけ方

プレビューで挙げた京都からどうボールを奪い敵陣でプレーする時間をどう長くできるのかについて振り返りたいと思います。

敵陣でプレーをするという部分についてですがDAZNの中継内のスタッツによれば,ピッチを横に3分割した時のプレーエリアの割合は山口陣側が30%中盤が49%京都陣側が21%でした。この数字は京都の直近3試合のスタッツと比べるとそれほど大差はありません。どちらかと言えば,京都は他の試合より山口陣内残り3分の1でプレーする割合が多かったと思います。

このように敵陣でプレーする時間を山口が増やせたかというとそれほどでもなかったわけですが,内容的には前半京都の守備を0本に抑えるほどに山口の守備は京都を苦しめていたと思います。

ではどのような要因が京都を苦しめていたのでしょうか。

私がまず思うのは1stラインのプレスのかけ方です。京都はビルドアップから前進する時には宮代と三幸のラインを超えることに苦労しているように見えました。

京都は久しぶりに4-1-4-1のシステムを採用しました。そしてビルドアップは2CB+1アンカーの庄司という形で試みていました。これに対して山口は宮代と三幸の2トップ気味で規制をかける形でした。

この時に山口の2トップの2人が庄司をうまく消していたと思います。2トップのうちボールサイドの選手は庄司へのパスコースを消しながら外へ誘導させるようなプレスをかけボールサイドと反対の選手は逆側のCBにプレスをかけられるように牽制しながら庄司をマークしていました。

このような庄司を意識しながらもCBに対して規制をかけるというプレスが嵌っていたのではないかと思います。また,これだけではなく時よりCBにはSHの高井がプレスをかけに出て行くこともありました。この試合の高井は久しぶりのスタメン出場でしたが守備の強度の高さでチームに大きく貢献したと思います。

さらにこのプレスが京都を苦しめていたことを表すかのように前半の16分あたりから庄司がCBの間に下りてビルドアップを試みるようになります。すると京都のIHの福岡が庄司が元いた位置に下りてビルドアップのサポートを行います。この福岡の動きに対しても山口は時よりフリーにさせてしまうことはありましたがある程度対応はできていたのではないかと思います。

京都が取った庄司が下りて福岡がサポートするという方法は,山口としてみたら攻撃の最終局面で京都の前線にかけられる枚数が1枚少なくなる方法であると言えます。つまり山口のディフェンスラインに対する脅威が1枚分減ることになるわけです。こういった意味でも山口の庄司をうまく消すプレスはうまくいっていたのではないかと思います。



山口のファウルから守備の強度の高さと連動を検証する

それから守備の強度の高さと後ろの連動も良かった点だと思います。山口が良いプレスをしたとしても京都はもちろんうまいチームですからそのプレスをかいくぐり前進することもあります。その時に山口は自陣にできるだけ入られないように止める必要があるわけですが,この試合の山口は強度の高さと連動によって京都のさらなる進入を防いでいたと思います。

これを表す数字が山口が犯したファウルの数だったのではないかと思います。この試合の特に前半はファウルでよく試合が止まるなという印象を持ちませんでしたでしょうか。

私はそういう印象を持ったわけなのですが,これが山口にとってみれば良い方に働いているのではないかと試合中に感じました。

ファウルを犯すというのは普通に考えれば悪いことかもしれません。なぜならそもそもファウルとは反則ですから。相手の攻撃が良くてファウルじゃないと止められないといった時にはファウルを犯す側は劣勢であると判断できるでしょう。

ただ,この試合の山口のファウルが私の印象通りであれば逆に京都を苦しめていたのではないかと考えました。なぜなら,京都はボールを保持する時間を多くして相手の守備組織がそれに耐えられなくなって乱れたところを突いてチャンスを作るというチームだと思うからです。京都にとってボールを敵陣で保持し続けることは非常に重要なわけです。

それが,やっとの思いで山口の1stラインのプレスを突破し中盤のラインに進入,そしてここを突破できれば敵陣深くに進入できるぞというところでファウルで止められてしまうとボール保持の流れを切られ相手に組織を整える時間を与えてしまうことになります。

つまり,京都にとって重要なボール保持し続けるというフェーズに突入しにくくなるわけです。

以上の考えに基づきこの試合の山口のファウルは効果的だったのではないかという仮説を検証してみることにします。

まず印象の通り山口の犯したファウルの数は多かったのかということを検証します。DAZN中継内のスタッツによれば,その数は前半13個・後半7個計20個でした。

これは果たして多いのかということですが,DAZNの映像が確認できる直近3試合では金沢戦が11個,福岡戦が12個,岐阜戦が7個となっています。

どうやら直近3試合と比較すると京都戦のファウルの数は多いと言えそうです。でも,今シーズン全体で見たらどうなのかということも気になります。

そこで今シーズン全ての試合の犯したファウルの数を調べてみようと思ったのですが,自分が調べた限りどのサイトでもその数字を見つけることができませんでした(誰か知っていたら教えてください・・お願いします!)。

ですから,ファウルの数と相関が高いであろう別の数字を調べることにしました。それが相手に与えた直接FKの数です。直接FKというは基本的に反則を犯した時に相手に与えられるものですからファウルとの相関は高いと言えるでしょう。

この考えに基づき,Football-LABのサイトの今シーズンの全ての試合結果から山口が相手に与えた直接FKの数を調べました。すると与えた直接FKの平均は12.3個でした。

ちなみに最小が35節の岐阜戦の6個,最大が6節の琉球戦の25個,10個未満の試合が5試合,20個以上の試合は琉球戦1試合琉球戦の25個に次ぐ2番目の数字は9節の鹿児島戦と20節の福岡戦の17個でした。

このデータを踏まえると今回の京都戦のファウルの数は多い方に分類されるはずです
これ以降は山口がこの試合で犯したファウルの数は多かったとして次に進みます。

ではファウルの数が多かったとして次に重要なことはそのファウルの質です。ここでは良いファウルを京都にチャンスを与えないような流れを切るファウルが良いものだと仮定して検証していきます。例えば,京都が直接ゴールを狙えるようなFKを与えてしまうファウルは良いとは言えません。簡単に言うと,自陣深いところになればなるほど悪いファウルとなるということです。それからイエローカードをもらうようなファウルも良いファウルとは言えないでしょう。

そこでこの試合の山口が犯したファウルの位置を手集計しました。

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ここで示したファウルは18個です。20個のうち18個しか記していません。1つは佐藤健太郎のハンドだと思います。もう1つは何だか分かりませんでした。

ファウルの位置を示したの画像から分かることは3つだと思います。

1.前半の方が数が多い
2.山口の左サイド,京都の右サイドでの数が多い
3.中盤からやや山口陣内での数が多い

これに加えて山口が上の18のファウルでもらったイエローカードの数は0枚であり,京都がゴールやペナルティエリアの中を直接狙うようなFKは87分の藤本のFK1つだけでした。

以上を踏まえると山口のファウルは結果として良い方に作用したのかもしれないと考えられます。なぜなら,京都が直接ゴールを狙えるような位置ではファウルを我慢し,それより手前で自分たちの守備組織を整えるためにファウルを使えたと考えられるからです。

ただ,これだけの結果でファウルが山口の勝利に繋がったと考えているわけではありません。

なぜなら,そもそもファウルは反則でありしない方が良いはずだからであり,ファウルをしないでボールを奪えた方がより自分たちのチャンスにつながるからです。また,京都のもらった直接FKの数を今シーズン全試合分集計し,その試合の結果との関係を調べましたが直接的な関係は認められませんでした。

ではこの結果から何が言えると考えているかというと山口の守備の強度の高さと連動が良かったことを表す1つのデータなのではないかということです。山口の1stプレスラインを突破された先でのファウルが多いということは,前線の選手に対して後ろが連動してついてきておりそれだけ強度が高く京都の選手にプレーする時間とスペースを与えていなかったということが想像できます。

連動もなく強度も低いとすると京都の選手に自由にプレーされてファウルすらできないでしょう。つまり,ファウルができるくらい近い距離で京都の選手に対して守れていたのではないかと思っています。そしてそれを示す1つのデータがこのファウルについてのデータなのではないかと思っています。

以上が私の結論になります。


まとめと次節に向けて

いかがだったでしょうか。今回のnoteはかなり切り口を限定して山口の守備についてだけ振り返る形となりました。もちろん山口のこの試合であまりうまくいかなかったボール保持について書きたい気持ちもあるのですが,長くなりすぎることもありますし今回はこんな見方もあって良いのではないかとの提案を目的に書いてみたということにしてここまでとしたいと思います。

1つだけ京都について言及するとすれば,この試合のように劣勢の場合はファウルを受けた際に全部が全部クイックリスタートにするのではなく多少距離があってもペナルティエリアの中に直接ボールを送るFKにしても良いのではないかと感じました。とりあえずボールを送ってこぼれ球を狙うのもありかと思いましたし,ペナルティエリアの中に人を送れば相手は自陣深くに下がるしか無くなるので相手を押し込むことになりますしね。

さあ山口の次節の相手は鹿児島です。鹿児島もボールを大事にしながら主体的に相手を崩すサッカーをやってきます。京都戦のような守備がまた大事になってくるでしょう。負傷交代のように見えた高井や石田(この2人はかなり効いていたと思うので)の状態は心配ではありますが強度の高い,連動を持った守備から良い攻撃が見られることを楽しみにしたいと思います。


*文中敬称略
*データは以下のサイトを参考にしました。
Football-LAB(https://www.football-lab.jp)

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