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絶対にヒマじゃねぇ

2020年10月に授業が始まって以来、翌年の2021年4月までは全てオンライン授業だった。どこにも人は居なくて、家とスーパーの往復だった。だから、その期間、忘れたく無いような大切な思い出は殆ど無い。
渡英直後は、パブもレストランも開いていたので、何度か同級生達と集まったりしたが、出身国の規制でロンドンに来られない子やコロナが落ち着くまでは外出を控えると言う子が多く、なんだか寂しい集まりだった。それに加えて、その頃住んでいた家はボイラーの調子が悪く、暖房も効かず温水も出ないという事が度々あり、しかもドアの隙間からは雨水が入り込んでくるし、コロナのせいで修理業者もなかなか来てくれないという、なんちゃってホームアローンみたいな状況だった。
 
思い返せば、1年目は殆どロックダウンだった。渡英半年前の2020年3月、1度目のロックダウンが始まる。大学からの合格通知を2月末に受け取った僕は幸運だった。少しでもタイミングがズレた人は、留学を延期したり、諦めたりしていたからだ。その頃はまだ「新学期までには、この状況も落ち着くだろう!」と思っていた。しかし、その後も感染拡大は収まらず、結局3月に始まったロックダウンは7月初旬まで、4ヶ月間に渡って続けられる。
1度目のロックダウンが終わった直後の9月末に渡英。ギリギリ間に合った!と思った矢先、11月初旬から2度目のロックダウンが始まる。パブ、レストランは持ち帰りだけ。スーパー、薬局、美容院、スポーツジム以外は全て閉鎖。それから、ロンドン在住者はロンドンから出てはいけない、という政府の規則。ロックダウンは1ヶ月間続けられた後、一度緩和されるがすぐに再開し、2020年11月から、翌年7月まで8ヶ月間に渡った。
 
初めての国で誰とも会えず、どこにも行けず篭りっきりだったので、気が滅入った。観たいドラマも映画も、読みたい本も見つからない時、俺はいま、絶対にヒマじゃねぇ、と言い聞かせながら暮らしていた。食料品の買い出しの為であれば外出して良かったので、運動がてら遠くのスーパーまで30分くらい歩いて行って気分転換をしていた。塞ぎ込んでいても仕方ないので、せめて街並みを楽しんでやろうと思ったが、その道しか見られないと流石に飽きる。
 
もちろん、良い思い出だってある。2021年4月から始まった最終学期は全て対面の授業だったし、ようやく同級生たちと会えて、公園で集まったりなんかもした。21年5月には、美術館と劇場が再開。観光客が一人も居ないロンドンの街は、すごく綺麗だった。誰も居ない美術館で、いつもなら黒山の人だかりが出来ているような有名な絵画を、好きなだけ独り占めできたのは幸せだった。
 
余談だが、ロンドンの国立美術館は全て無料だ。
散歩がてら美術館に通えるなんて、夢のようである。

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