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現代における「のぞき」の代償|解体屋ゲン

こんにちは、ヒヅメです。

以前『解体屋ゲン』という漫画が面白いよという記事を書きました。

その中でも指折りに好きなエピソードが『施工の神様』というウェブサイトで公開されたのです!

またKindle unlimitedに加入している方は『解体屋ゲン』の54巻に収録されているのでこちらもぜひ。

僕が衝撃を受けた話なので、いかにこの話が面白いのかということを以下に書いていきますが、思い切りネタバレをしていきますので、ぜひ漫画を読んでから以下の記事をお楽しみください。



1. ゴンはゲンの写し鏡?

今回の話の主人公であるゴンは、もともとはグレーな、時にアウトな商売をしつつ孤独に生きていた職人です。ゴンと主人公であるゲンの縁は、ゴンがゲンの名をかたって解体工事の打ち合わせをし、食事をご馳走になっていたことが始まりでした。

完全にアウトな仕事からは身を引きつつ、若干グレーな仕事は続けているようですし、お金にがめつく(あくまで周りからの評価です)、いつもゲンの家でご飯にありついています。

まあ世間からしたらクズと呼ばれることも多いキャラだと思います。

しかし彼は彼なりに流儀があり、世話になった仲間を売ることはしません。それは彼が何より親身に思っていた人に裏切られた時でさえ守り切りました。

ゲンは作中で様々な仲間(ゴン含)と出会い、今では家族も抱える大黒柱になっていきましたが、初めはその日の酒屋への支払いもできない、夜逃げ寸前の一人親方でした。

もともとゲンもゴンも本来の人間性はそんなに大差無いと僕は思っています。

ゲンは作中においてすっかり「正しいと思うことを言う係」そして「それをみんなに納得してもらう係」になっていますが、ゴンは今でも「ダメ(と周りから見られる)係」であり「孤独係」です。そしてそれはもともとゲンが担いできた看板でもあります。

2. 漫画の世界で通じてきた性的いたずら

話は少し変わりますが、漫画の世界では時々出てくる性的ないたずらがありますよね。胸を揉む、スカートをめくる、お風呂を覗くなどなど…今ではほとんど消滅してしまいましたが漫画の世界ではそれが「いらずら」として扱われてきました。

あくまで漫画の世界では、ですよ?

当時学生だった僕でさえ「ビンタ一発で許してもらえるなんてうらやましいな。こんなことしたら普通に人生終わるよな」って思ってましたもん。

その後、社会は変わり、こういった表現はフィクション(漫画)の世界でさえどんどん見かけなくなりました。

3. 解体屋ゲンでのけしからん描写

『解体屋ゲン』は中壮年男性向け雑誌である『漫画TIMES』での連載作品ですから、21世紀の漫画と言えども色っぽい服装をした女性キャラの「けしからん描写」があります。特に初期はけしからんシーンがよく登場しました(端的に言うとヌードです)。

のちにゲンの妻となる慶子は、最初期から出てきた「出来る美人キャラ」だったので、作中では一番お色気を担当させられていました(慶子さん、本当にお疲れさまでした)。

ただそれも慶子がシャワーを浴びている様子などを「神の視点」で描写されているものがほとんどであり、男性キャラクターがなんらかの「いたずら」をするということはありませんでした。そりゃそうですよ、なんだかんだみんな仕事中は真面目なんですから。

4. そして作中で初めての「いたずら」が行われた

52巻収録の515話『男たちの友情』で作中初めての「いたずら」が行われます。

これは五友爆破の社員である有華やコンサルの秀美たちが住んでいるアパートの修繕時、壁に薄いスキマがあることに気づいたヒデが、ゴンやロクを誘って二人の着替えをのぞくというものでした。

(ちなみに壁の厚さ(13cmくらい)や木造壁の構造を考えると実際に覗くには「穴」といえる大きさが必要になってしまうので、一方的にバレずにのぞけるスキマという概念は完全なフィクションですよ!念のため)

さて男たちの悪だくみは、のぞきの順番を争っているうちにあっけなく気づかれ「きっとヒデくんだ!」と見破られてしまいます。ヒデは縁の下から逃げることを提案しますが、結局は禍根を残してしまうであろうことを危惧したゴンは「失うもんはなんもあらしまへん」と自分だけが残り二人を逃がしてしまいます。

その後のことは作中では描かれていませんが、二人に自首したゴンは、五友爆破を出禁になってしまい、それ以降作品にも登場しなくなります。

5. 覗き事件に対する反発

僕はこのゴンの行動を見た時に「ああ、ゴン、終わったな」と思いました。以前の記事にも書きましたが『解体屋ゲン』は作中の結果回収が異常なほど厳しい漫画です。 このいたずら…というより「やらかし」をしてしまったゴンが無事なはずがないのです。

ひと昔前の漫画のように
女性キャラ「ゴン、サイテー!」
ビンタ
屋根を突き破り飛んでいくゴン
ゴン「すんまへーん!」
で終わるわけがないのです!

実際に作者の星野さんも「反発が大きかった」と言っているので、きっとあちこちから声が届いたのでしょう。

まあ、個人的にはこれが中壮年向け漫画ということもあるので、正直「相変わらずゴンは自己肯定感が低過ぎて、彼の友情の考え方ってこっちが悲しくなっちゃうモノなんだよな…」という感想の方が先だったんですけど…まあ実際問題かなりアウトですよね。

6. のぞきの代償

この事件に最も心を痛めているのは首謀者でもあるヒデでしょう。彼は仲間に罪を負わせておいて平気で生きていられるような人間ではありません。

ヒデはゴンの名誉回復のため、ゴンの得意分野で五友爆破と仕事することを持ち掛けます。

細かい部分は省きますが、ゴンお得意の人の懐に入り込んでいく営業手法もあって彼が獲得した契約金額は2,000万円を超えました。慶子が「このままじゃ下半期の目標にはほど遠い」と言っていることから、リフォーム事業または五友爆破にとっても大きな金額であることは間違いありません。

この時点で被害者の一人である秀美は、ゴンの謝意と決意を感じ、ゴンを許してあげます。

さらに業績を重ねていくゴンでしたが、リフォーム依頼を受けた顧客にまとわりついていたヤクザが事業の代表者であるロクを誘拐しようとゴンの元を訪ねてきます。

一瞬で事態を把握したゴンはまたしてもロクの身代わりとなり、ヤクザの事務所に連れていかれ、事業の中止を求め水責め(!)にあってしまいます。

最終的には乗り込んできたゲンとトシに救出され難を逃れたゴンは、ようやく有華からも認められ、五友爆破との付き合いを再開させるのでした。

7. やっぱり『解体屋ゲン』の結果回収は恐ろしい

以上、作者がゴンを作品に復帰させるにあたりゴンに課した代償は

事業契約金2,000万円以上
仲間をかばってヤクザに拉致監禁+水責め

というものです。

これは…何と比較するわけでもありませんが…物凄いですよね。

これまで数々のビジネスプランが作中で提案され、現実世界ベースの結果を厳しく作中で回収してきました。

僕はこの一連の話を読んだ時に「こんなにものぞきの代償に向き合った作品があっただろうか」と戦慄しました。結果回収にどれだけ厳しいのよ。

8. 解体屋ゲンは男のスケベ心にも寄り添う

さんざんゴンに厳しいことを書いておいてなんですが、そもそも『解体屋ゲン』も僕も男のどうしようもないスケベ心まで否定していません。

作中に出てくる面々はスケベな連中も多いです。ゴンだけだく、ゲンだって、ムッチムチのプリンプリンのお姉ちゃんがいるお店があると聞けばすっ飛んで行ってしまうような連中です。

僕も男子校の工業高校を卒業していますので、こういうスケベな話が仲間関係を良好にする潤滑油的な一面があることを身をもって知っています。また、その世界観のまま社会に出てしまうことで直面するコミュニケーションの難しさもまた経験しています(当時のみなさん、本当に申し訳ございません)。

男同士におけるこういうコミュニケーションの良さを否定せず、おちゃらけて描きつつも、男性が女性と働く際のコミュニケーションの在り方も真摯に考え、アウトな行いに対してはしっかりと代償を負わせる…現在の価値観と古い男性社会の良いところを混ぜ合わせた提案を『解体屋ゲン』を通して読むことができます。

『解体屋ゲン』は最新の社会問題における複雑な現状と現場に向き合った提案を楽しく読める漫画です。その中でも今回のお話は従来漫画の中で触れられなかった「代償」について向き合った素晴らしい回なのです。

しかもそれを堅苦しいこと抜きで楽しく漫画で読むうちに何となく分かっちゃうんだから、本当に恐ろしい漫画ですよ。

9. 解体屋ゲンはkindle unlimitedや『施工の神様』などで気軽に読めます

ぜひぜひ読んでみてください!



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