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小説における冒頭、書き出しの7つのポイントとは?

はじめまして、ライトノベル作家の肥前文俊です。

私は小説家になろうという投稿サイトで、プロアマが混じって冒頭四〇〇〇字以内で優劣をつける書き出し祭りという企画を行っています。

今回で参加者総数560名、アニメ化作家やコミカライズ作家を多数抱えた、非常に大きな企画です。

自作品の検証や、投票傾向といった書き出し祭りを通して、私は非常に有益と思える気付きを得ることができました。

しかも、この方法は、再現性があって、これらの項目を満たしていないと、アイデアが斬新でも評価されないことも分かってきました。

以下、7つのポイントが重要です。

1.最初の3行で引きを作る

2.いきなり盛り場を迎える構成

3.読者の負担を減らす

4.主人公は冒頭から出す

5.作品のテーマを提示する

6.最初は小さく始まり、大きくなっていく

7.次回の引きを作って終わる


1.最初の3行で引きを作る

冒頭の3行に全力を注ぐ、というのは一般的に言われているメソッドの一つですが、これは間違いなく非常に強力な手法です。

世の中には小説が沢山あります。

だから、きつく言ってしまえば、あなたの作品を読まないといけない理由なんて、誰にもないのです。

気に入らなければ次の作品を読もうとされてしまいます。

それを防ぐには、一番最初の最初で、「こいつぁ面白そうだ」と期待させることが何より重要です。

有名な作品では、冒頭が非常に優れている作品が多くみられます。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

川端康成「雪国」

桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。

梶井基次郎「桜の樹(き)の下には」

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

夏目漱石「吾輩は猫である」

私自身がよく使う手法としては、

1.刺激的な単語を選ぶ

2.短くインパクトのある、スパン! と言い切るような一文

3.問いかける

というようなものがあります。

1.刺激的な単語を選ぶ(および2)

 おっさんだ。
 頬に斜めの刃物傷のあるおっさんが、ニコニコと笑ってボクの正面に座っていた。

これは私が書き出し祭り、という企画で実際に掲載した作品。プロローグの時点では、とにかくリズムとインパクトにこだわって書いています。

3.問いかける

人は問いかけられると、意識・無意識に限らず答えを探そうとする習性があります。

例えばあなたが明日死ぬと分かったら、今日何をしますか?

こんな問いをかけられて、私なら……と考えさせられたらこちらの勝ちです。

また、この手法はテーマを提示するのにも向いているので、使い方次第では非常によい冒頭になります。

2.いきなり盛り場を迎える構成

優れた技術を持っていないかぎり、一日の何気ない朝の一コマから丁寧に描写するのは避けた方がいいです。

いきなりアクションシーンから持って来たり、あるいは作品のプロットの中で一番盛り上がる場面を最初に持ってくると、一気に惹きつけることができます。

一例としては、学園ラブコメで、新学期、朝の目覚めから何らイベントが発生せずに朝食や洗顔、登校といった流れを書くよりは、新しいクラスメートたちが自己PRする場面で、突然ヒロインから告白された方が良いよね、ということです。

もはやチープに過ぎる、食パンを加えた女の子と交差点でぶつかり合うのも、同じ効果を期待してのものです。

このケースの紹介は、一部の方に反発を招きがちです。

優れた描写力を持っている作家であれば、朝の何気ない一コマが一幅の絵画のように美しく惹きこめるケースもあるので、この作品は当てはまらない、と問題ないように錯覚する方もいます。

ですが、筆力がなければ面白くなく、挑戦するのは得策とは言えないでしょう。

先ほど自作品で挙げたケースですと、ヤクザのおっさんと出会う場面から書くのではなく、進捗状況を確かめる場面から書いて、最初に戻るというやりかたをしています。


3.読者の負担を減らす

読者はまだあなたの作品について、ほとんど何も知らない状態です。

冒頭から比喩表現や専門用語、あるいは独自設定の説明などが多用されると、理解するのが妨げられて、作中世界に没頭しづらくなってしまいます。

情報は小出しに、しかし作品全体として徹底的に、というのがすぐれた世界観の構築の仕方です。

小説家になろうでは異世界転移・転生が流行したのも、同じ世界観をあるていど共有できること、主人公が日本人で、専門用語を使わずに描写できるという点で、読者は膨大な情報量をイメージとしてすでに得られるという、非常に優れていた面があります。

4.主人公は冒頭から出す

当たり前のように思う方も多いでしょう。

しかし、実際に書き出し祭りをみてみると、誰が主人公なのか、誰がヒロインなのか。あるいはコイツはレギュラーメンバーなのか、チョイ役なのか。

このあたりのハッキリしない作品がけっこう見受けられます。

読者は最初に登場したキャラを主人公と考えるので、そのあたりの区別はハッキリと付けましょう。

5.作品のテーマを提示する

魅了するのと同時に、読者を安心させることも冒頭の重要な役割です。

タイトル、あらすじ、冒頭は、どのような世界で、今後どんな話が繰り広げられるのか、おおよその所を紹介する必要があります。

コメディなのか、サスペンスなのか、ホラーなのか。

コメディが苦手な読者もいれば、ホラーが苦手な読者もいます。

そして、何をテーマに扱った作品なのか。読者は知りたいのです。

家族愛、ギャンブル、生と死、そのテーマは何でも良いのですが、それを早い段階で提示することが必要です。

テーマは大テーマと少テーマがあり、一話ごとにテーマが変わる場合もありますが、変わりながらも統一感があると、深い感動を覚えることが可能になります。

6.最初は小さく始まり、大きくなっていく

分かりやすい一例ではスポーツものでしょうか。
学校内のスタメン争いから、最終的には全国大会、(時に世界大会)へと舞台が大きくなっていきます。
範囲を小さくすることで、情報を小出しにでき、また登場人物との接点を増やして感情移入しやすくなる利点があります。

個人的なおススメでは『ダイの大冒険』があります。小さな島からはじまり、様々な場所を転々として、最後は世界の命運を賭けた戦いに、という流れはとても優れています。

いきなり銀河の戦いといった、非常に大きな舞台にする作品もありますが、細やかな設定と、それを上手に配置し表現する工夫が求められます。
田中芳樹先生などは、「アルスラーン戦記」「銀河英雄伝説」など、この手の表現が得意な方ですので、どうしても大舞台を最初から書きたい方は参考にすると良いと思います。

7.次回の引きを作って終わる

冒頭の仕事は、次の話を読んでもらうことです。

だからこそ、次回はどうなるのだろうか、と気になる引きを作って終わる必要があります。専門用語では”フック”などと呼ぶこともあります。

週刊連載誌はこの技術が非常にすぐれた作品が多いので、参考になります。
逆にWeb小説では、次々と次話を更新されるので、この点の引きが弱い作品が多くみられます。

プロットの時点で十分な引きを考えておくと、web連載でも一つ頭の抜けた作品が書けます。

私がこの点で考えるのは、次のつじつまを考えずに、とりあえず考えつく最悪の窮地に放り込んでしまうことです。

その後、作者は(そして主人公も)大変苦しむことになりますが、確実に面白い作品が書けます。

また、事態を一区切りして終わらせず、途中で終わるというのも手です。

私はデビューしてから聞いたのですが、しっかりと終わった作品に比べて、次巻に引きを作った作品は売上がおよそ20%も違うというデータがあるそうです。


以上、書き出し、冒頭に関係する7つのテクニックをお伝えしました。

一度書いてみてから、これらの項目がクリアできているか確認してみるのもいいですし、一番いいのは修正の必要がないように、プロットの段階でこれらの問題をクリアしておくことですね。

創作の参考になれば幸いです。

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