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お化けのポスト

オカルトの類は苦手だ。ひとたび見聞きしようものなら、目を閉じて洗髪が出来ず、電気を消して眠ることも出来ない。幸いご縁もないと思っていたオカルト的展開は、ある時いともたやすく訪れた。

副業の関係で、急激に仲良くなった女性がいた。彼女の本業は、音楽を用いたセラピストだった。年も近く、お互いパートナーもおらず、居心地がよく妙に気が合ったため、仕事終わりにしょっちゅう飲み屋や喫茶店に入りびたり、毎日のようにLINEをしていた。

ちょうど2年前の今頃、深夜に唐突に彼女からLINEが入った。
「おばあちゃんと仲よかったんだっけ?」
私はおばぁちゃん子で、仲はとてもよかったがとうに亡くなっており、暮れに5周忌を控えている旨を伝えた。
「今おばあちゃんがきてるんだけど」

混乱した。怖くなった。なぜそんなことを言い始めたのか。
彼女曰く、お酒が入るとそちらの世界とアクセスしやすくなり、仲のいい人の守護霊的な存在と話が出来ることがある。いまどうしても私に伝えたいことがある祖母が彼女の元にきている、との事だった。

正直に生きることは、自分にはできなかった。
お前がそのように頑張って生きていることが嬉しい。

家族は、お前の事をすごく大切に思っているけれど、どう扱っていいのかわからず、思ったように愛情を示せていない。でもちゃんと愛されている。深く深く。それを忘れないでほしい。
お前が何をしても、どう生きても、ずっと愛している。
どんなお前でも、言葉にならないほど大切な存在であることを覚えておいて。

お前のお母さんは大丈夫だから、親の安心のために結婚する必要はない。
本当に必要なものは必ず手に入る、それだけの生きる術をもう身に着けているから、自分を信じなさい。

心配でずっと近くにいたけれど、もう違う場所にいかなくてはいけない。

途切れないLINEを抜粋。彼女に話していない事まで、彼女によって語られる不思議。信じがたい思いの中、生前の祖母のニュアンスがところどころ伝わってくる。祖母はいつもそうだった。まるごとの私をいつも大きな愛情で包み、育ててくれていた。立て続けに送られてくる言葉に涙が止まらなくなった。

「愛され方、はんぱないね(笑)。伝えただけなのに、いっぱいありがとうって言われる。いいおばあちゃんだね」と、いう彼女に、私は泣きながら、祖母へ伝えてほしい言葉を返信した。

いつも守ってくれて、たくさん叱ってくれてありがとう。
ばぁちゃんがいて、家族がいて、すごく幸せです。
いつまでも自慢の孫だと言ってもらえるように頑張るから、安心して。
生まれかわったら、また近くにきてほしいな。

祖母は、生まれかわったらエジプトの何かになると言っていた
その話を彼女にしたところ、彼女自身もよくエジプトの夢を見ることがあるとのこと。なにかご縁があるのかもね!と、彼女は笑った。

セラピストの彼女とは、その出来事以降、だんだん遠ざかってしまった。私の仕事先が変わったこともあるが、仲たがいをしたわけではないのに、毎日のLINEもなくなり、会うこともなくなった。会えばきっとまた楽しく話せるけれど、もうその時期は過ぎてしまったような感覚。

今でも、あれはなんだったのだろう、と思う。彼女とのご縁も、出来事も。
吉本ばななさんの「TUGUMI」に出てくるお化けのポストのように、彼女が私をからかっていたのだとしたら、とも思った。そんなはずは決してないけれど、それならそれで別にかまわない。もう二度ともらえないと思っていた祖母の言葉。短い時間、彼女をはさんでつながった時間がすごく嬉しかった。

会いたいけれど、怖いから化けて出ないでね、と薄情な孫は何度も祈っていたから、その通りにしてくれた。

年の瀬が近づくと、祖母のことを思い出す。



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