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キミと私の世界は幸せで。

 食卓に、今作ったばかりの、ピリ辛たたき胡瓜、明太チーズだし巻き、鶏ささみと枝豆のわさマヨ和え、韓国風冷奴、餃子の皮ピザ、ちくわの磯部揚げを並べる。2人分のお箸と取り皿も準備して、キンキンに冷やしておいたジョッキグラス2つを冷凍庫から、缶ビール2缶を冷蔵庫から取り出してジョッキに注ぐ。弾ける黄金色と、きめ細かい純白の泡の美味しい比率は7対3。『完璧~!』と比率通りに注げたことに謎の達成感を感じながら、『乾杯!』とジョッキを交わした。

勿論、迷わず最初にビールを流し込む。『か~っ!美味い!!』と言う私に、『おっさんみたい。』なんて言いながら楽しそうに微笑むキミ。どのおつまみから、いただこうかな~なんて迷いながら思いのままにつまむ。美味しいお酒に美味しいおつまみ。目の前には大好きなアニメが流れるテレビ。そして隣には笑っているキミ。こんな幸せな空間ある?いつまでも続けばいいのになぁ、なんて思いながらもお酒が進む。

おつまみを予想以上に作りすぎてしまったようで、『明日また食べよう。』と残りの量をタッパーに移し替えて空いた食器を一緒に洗う。私が洗って、キミが拭く。その隙間にもお酒を飲む私。『まだ飲むの!』と少し呆れたように言ってくるキミ。『ハイボールは今日これが初だもん。』と言って見せると、食器を拭き終わったキミは、『はいはい、酔いすぎないようにね。』と私の頭を、ぽんと撫でた。

 読みかけの本を年季が入った鞄から取り出し、お酒を飲みながらページを進めていく。ミステリー小説の主人公になった気分で犯人捜しに集中していると『ぐぁ~…』と獣のようなうなり声がして驚いた。反射的に声のほうを見ると、さっきまでスマブラを夢中にプレイしていたキミが床の上で眠っていた。寝顔を見るだけで愛おしさが溢れ出す。『そんなところで寝たら体痛くなるよ。』と声を掛けるも反応無し。仕方がないので寝室からブランケットを持ってきてキミに掛けた。キミが眠りについても作動しているテレビとゲーム機の電源をオフにして、飲みかけのグラスに口をつけながら犯人捜しに戻る。キミの寝息に、暖房の機械音、めくる紙の音に、傾けたグラスの中でからんと響く氷の音。心地良い幸せな空間だ。

 『ん…。』、カーテンの隙間から差し込む光で目覚める。いつの間にやら私も床で眠ってしまっていたらしい。あたりを見回すと、キミの姿は無くてキッチンのほうからいい匂いが漂っている。朝食の準備をしてくれているのだろう。起きたよ、と挨拶しにキッチンへ行こうとして、昨夜寝ている彼に掛けたブランケットと寝室から持って来たであろう電気毛布が私に掛かっていることに気付く。掛けてくれたのか、とほっこりしながらキッチンへ行った。私の気配に気付いたキミが私より早く『おはよう。』と寝ぐせだらけの頭をして笑顔で言う。『おはよ。』と私も言って、朝食の準備をしているキミを手伝った。

こんな、なんの変哲もない平凡な日常が温かくて幸せで。

…なんて全て私の妄想話で、キミも架空の存在なのだけれど。