文明。

私はコピー機になりたい。


コピー機の使い方
1.コピーしたいものを原稿カバーとガラスの間に入れる。
2.色の濃淡、紙幅、枚数等を設定しスタートを押す

3.コピーされる


私の経験上、コピー機で何百枚か印刷すると、そのどれもが少しづつ違っていることがわかる。


「にじみ」があったり、「線」が入っていたり、何処からか埃が紛れ込んだり、いつのまにか原稿自体が少し斜めになっていたり、色が濃くなったり薄くなったり等。これらの仕業はコピー機の意志かのようだ。


コピー機にとっての原稿は「現実」の全てだ。それに光を当て、自分に反射させ、自分の中で分解し咀嚼し、精確にコピー(アウトプット)しようと努める。


そして!


一度コピーしたものは原稿カバーから一度外せば、その原稿の記憶(記録だろう)は全て消去されるのだ。

これは凄い。このシステムを私も体内に欲しかった。私には、こしあんが食べたいだの、お汁粉は絶対つぶあんだの、しろあんは白いだの、雑念が多すぎる。


その上!!


速い。2枚/秒くらいのスピードで紙が排出され、そのどれもに違った意志
(にじみ、線、埃、ズレ)が表れている。「コピー機の無意識」といったところか。


しかも!!!


威張らない。彼らはコピーが終わったからとといって、一々周りに言いふらしたり、自分へのご褒美を考えたりしない。「だから何だ」的な、凄然とした態度が感じられる。


こんな風な人間だったら、日誌なんて一日千回でも二千回でも更新できるだろうに。

「コピーする?!、コピーする!?」

やっているのかいないのかよく分からない文房具屋に入ると、生きているのかいないのかよく分からない店主が、聞こえるか聞こえないかの声量で、いらっしゃい、と言った。文房具屋はやっていると見受けられるが、やりたくないのかもな、と思った。

私は訳あってドーナツを二次元にコピーしたかった。しかしコンビニでやると怒られそうな気がしたので、この「やっているのかいないのか」の文房具屋にやってきたのだ。店主の目を盗むのは簡単どころか、盗ませないことは不可能であろうという店内の雰囲気であった。店主は音の悪いラジオを聞いているか、殆ど死んでいるか、もしくは本当に死んでいた。

私はまずドーナツを原稿カバーとガラスの間にセットし、「カラー、B5、1枚」でコピーを開始した。

それは精確にコピーされた。ドーナツの内側の陰影、油分や粉糖も極め細かく描写されていた。

次にそのドーナツのコピーをコピーした。それは確かにコピーされていたが、その色の濃さと食欲への訴えが実物の三次元のドーナツより、一枚目のコピーより、少し遠くなった気がしたが、気がしただけかもしれない。

いつのまにか私の背後にいた店主が、ドーナツのコピーとそのコピーを見て聞こえるか聞こえないかの声量で言った。

「よく似てらぁ」


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