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ギフテッドが辿る積極的分離という道について

ギフテッドについて調べると「積極的分離」という言葉が出てくると思います。
ですがこの言葉、雰囲気すら掴みにくくてどんなものかよく分からないのではないでしょうか。
この概念を自分の経験と感覚をもとに追っていこうと思います。


積極的分離理論とはポーランドの精神科医であり心理学者でもあったカジミェシュ・ドンブロフスキが提唱した人格発達の理論になります。
「積極的分離」という言葉からはイメージを掴みにくいかもしれませんが、英語ではPositive disintegrationと言い、「正の人格崩壊」を指しています。
発達が進む際に人格が変わったような劇的な変化を、人格が壊れてしまうようなの悲しいものではなく、プラスの成長であることを示すためにこのように名付けました。

多くの人は社会や周囲の人間に矛盾や違和感を感じることがあると思います。
ですが時とともに「社会だから」「みんなやってるから」といって気にしなくなって次第にそれらと同化していったのではないでしょうか。
そういったものに対して目を背けられずに徹底的に抗い、真摯に自分や世界を見つめ続け、傷つきボロボロになりながらも大きく人格を成長させていく人たちがいました。
生きていく中で感じた世界の理想と現実のギャップの中で、世界の理を理解し理想に近付けるために自らを変革していったのです。
積極的分離理論はその特異な人格発達の経緯を説明していったものになります。


積極的分離は様々な心理的負荷によって引き起こされ、本人の素質によってより深く進行していきます。
この素質はDP(発達の潜在能力)と呼ばれ、大きく分けて三つあります。

①OE(過度激動)
OEとはニューロンの感度の増加によって刺激を激しく感じる性質のことで、受け取る情報の量が多く様々なことを深く強く感じ取ります。
刺激に対する反応は劇的で、感情は色濃く鮮烈で豊かなものになります。
普通の人には些細な心の上下でも、OEを持つ人にとっては大きなうねりのように感じられます。
この多くの情報を取得する能力と深い感情による強い負荷によってストレスが強くなり、人格は大きく揺さぶられることになります。

②特定の能力と才能
発達のレベルを進めるための力、自らが理想とするものや自分に近づくために必要な力を指します。
色々な視点から物事を見る力、考えに様々なアプローチができる力、自分を表現することができる力などいろいろあります。
これらの力が積極的分離を進める手助けとなり、発達の高レベルでは描いた理想を現実にするために重要なものになります。

③自律と理想に向かう原動力
何にも犯されず自分は自分でいなければいけない、何事もそれが良くなるように理想を目指さなくてはならないという方向に自分を向かわせる強い意識です。
これは個人の自由意志とはまた別に存在しています。
自律への原動力は絶対に自分のことは自分で定めるんだという強い思いを心に抱かせます。
自分の心が何かに流されたり、誰かに決めつけられたり、型に嵌められたり、侵害されたりすることに対して強烈な抵抗感を覚えます。
理想への原動力というのはどんなものに対してもそれを良くしたい、理想の形にしなければならないという方向へ自分をと向かわせる意識です。
たとえどんなに悪いものでも、自分が攻撃されていたとしてもそれにとって良い未来に進んで欲しいと考えます。

これらの要素が組み合わさることで人格を崩壊させ新しく再構成する程の発達を呼びます。
人格を素晴らしい方向へと導きますが、厳しすぎる壁に容赦なく立ち向かわせるものでもあります。
原動力が人格を崩壊させ再構成する程の発達のキーになります。

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積極的分離理論では人格発達の過程が五段階のレベルで示されています。
全ての人が先のレベルへと進んでいくわけではなく年齢もレベルに関係しません。
積極的分離をする度に前の自分とは繋がらないようなくらいの変化があります。
自分の感覚では段階ごとに次元が一つずつ増えていくように視野が広がっていくイメージを持っています。
段階が進むごとに世界や物事をより広く深く様々な視点や立場から考えていくようになり、その人格も思慮深いものになっていきます。

レベル1:Primary Integration 「初期統合」
意識が置かれる場所は一次元、つまり点の段階です。この最初の段階は本能と社会的な力によって生まれる人格で、ほとんどの人はこの階層に存在しています。自らの利益を求めるという生物学的衝動と社会や周囲に対する盲目的な賛同が初期統合のベースとなっています。社会や権威にそのまま従うということは、それによって定められた「正しい」行為をしていることになります。自分は正しいんだと思うことは安心感と自尊心を産み、時には正しさの名の下に自分の利益を求めたり悪とされる行為すら行えるようになります。思春期頃にこのことに違和感を感じて人格が不安定になりレベル1を抜け出す人も出てきますが、大多数の人は人格全体を壊さない程度の崩壊に止まり、またこのレベルに戻って人格が統合されます。ドンブロフスキはこの段階を、人格は安定しているが個性はこの二つの要素に縛られた範囲のものになってしまい、その人が持つ真の個性がない状態だと考えました。

レベル2:Unilevel Disintegration 「水平基準の分離」
意識と行動の選択肢は中心から両端に伸びる水平の線上に置かれる二次元の段階です。
この分離は不安定な思春期や自立を始めた青年期などの個人の意識が生まれ始め、ストレスの多い事柄に答えを出せず自分の中で上手く処理できない時期に起こります。
不安定なこの段階では異なる等価の選択肢に等しく惹かれるアンビバレンスの状態になります。
選択肢は水平の線の両端にそれぞれ置かれ、上下がないため選択は左右に揺れ動きます。
選択肢が等価のため答えが分からず両端の選択肢を行ったり来たりする状態がアンビバレンスという状態を生み出します。
DPが高い場合、深い洞察力で自分の状態と社会を見つめることで、社会や他人が掲げる倫理は行動と矛盾していて偽善的だと感じるようになります。
社会的な価値観では自身の等価の選択肢への疑問や葛藤に対する回答にならないため、その答えを自分の中で必死に探すことになります。
こうして社会に作られた価値観から離れその人自身の価値観へと置き換わるとき、発達の段階はは次のステップへと移行します。
レベル2は発達の過渡期です。
安定している人格を壊すことには恐怖と激痛が伴います。
先に進めずレベル1に戻ってしまったり、苦しみに耐えきれず精神を病んだり、絶望して自ら命を絶ってしまう人がほとんどです。
この段階を超えると個性と特異な精神性が際立ってくるようになります。

レベル3:Spontaneous Multilevel Disintegration 「複数基準の分離」
意識と基準に新しく理想という高さの軸が加わった三次元の段階です。
水平の位置にあった選択肢に対して、自分の理想から見てより「高い」かより「低い」かという概念を無意識のうちに認識するところから始まります。
自分自身の価値観を得たことで、等価だった選択肢に理想に近づくためにどちらを行うべきかという判断ができるようになります。
そして理想から離れたより低い選択肢は行動に移さなくなることで慎重になっていき、低い選択肢それ自体を見直していくようになります。
この垂直方向の選択の対立はより高度な人格の発達に重要な役割を果たします。
より高い行動を選んで行動していくことで、こうあるべきだという理想の人格へと近づいていくのです。
しかし選択と行動は理想を優先とするあまり自分の大事な部分を無視して削ぎ落としている場合も多くあります。
そのため精神は傷だらけでボロボロな危うい状態です。
この段階を抜け出し次の段階へと進むためには、理想の裏に隠れた自分自身の心の声にちゃんと耳を傾けて大切にすることが重要になります。
自分をより深く理解することで世界の見え方に新たな軸が加わるとともに、自分という存在がしっかりと形作られてくるのです。

レベル4:Directed Multilevel Disintegration 「意識的な複数基準の分離」
さらに新たな軸が追加された多次元の段階になります。
今までは無意識的な基準の認識でしたが、この段階になると自ら意識的に制御することができるようになります。
レベル3ではその地点の自分の理想を元に三次元の基準で考えていました。
レベル4では新たな軸を足した多次元の基準で物事を考えられるようになります。
新しい軸、つまり色々な立場や状態、世界などいった様々な観点で見た基準についても考えることができるようになり、求める理想と採る選択はより深く責任あるものになっていきます。
今まで受け入れられなかったものも、視点の位置が上がったことによってそれが妥当だと感じた場合には理解を示すようになります。
多次元的な視点と基準によって、とても多くの人間や物事に対して責任感と思いやりを持ちます。
そしてその人生はそれらの幸福と理想の実現のために注がれることになります。
この頃になると人格は落ち着いて安定してきます。
自分自身というものが定まってきており、あとは自分の完成に必要なものを手に入れるだけです。

レベル5:Secondary Integration 「二次統合」
最終段階、人格発達の到達点です。
多くの苦悩を乗り越えた先に自分の人生の答えと完成に必要な鍵を手に入れることでたどり着く完成形です。
自分というものが完全に定まっていて内面の調和がとれているため、選択と行動に葛藤が無く、人格は落ち着いていてしっかりと根を張った大樹のように安定しています。
彼らが持つ膨大で密度が高いエネルギーは理想を叶えるために社会活動や芸術分野に向けられます。
多くの苦難を乗り越えてきた経験と研ぎ澄まされた想像力、様々な立場の基準を持つことによる多次元の視野と深い共感性は、既存の概念に囚われないユニークで斬新な、そして社会をより良く変革させるような大きな成果を生み出すのです。

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積極的分離には想像を絶する多大な苦痛を伴います。
周囲や社会の偽りだらけで優しくないあり方を認めることができず、それでもこの世界に生きるしかなく。
良い方へ導きたくて頑張っているのに自分の思いは理解されず、同化するという選択肢も選ぶことができず。
変えようと頑張っても立ちはだかる壁は強大で、力が及ばなくて何度もダメージを受け。
諦めて投げ出そうにも自分の一部がそれを咎め続けるため逃げることが許されない。
この途方もない苦痛と孤独に耐えきれずに途中で心を壊したり終わりを選んでしまう人も多くいます。
積極的分離を進めるほどの高い素質を持つ人自体ごく僅かですが、最終段階まで進めるのはその中のさらに僅かなのです。

理想や誰かのために自分を顧みず頑張る姿は綺麗に見えますが、彼らも普通の人が持つ利己的な欲求が浮かばないわけではありません。
時には自分のことを優先したり理想のあるべき姿からは離れた行動をしてしまうことだってあります。
ですが強迫観念とも呼べるくらいの自省心とより良くあらなければならないとする心がそれを見逃してはくれません。
理想の姿から離れてしまうような利己的な欲求は気合いでねじ伏せていきます。
とるべきでなかった行動は深い後悔と反省と共にいつまでも心に刻み込まれます。
彼らは単純に綺麗なのではなく、綺麗でいようと足掻き続けているからこそ綺麗に見えるのです。

説明を聞いても実際に体験している人でないと感覚は分からないと思いますが、ギフテッドの抱えるものを少しでも分かってもらえたらよかったです。
ギフテッドの人はこの只中でもがいて頑張っていることと思います。
感じてきたものと言葉まで一緒かはわかりませんが、同じものがあったと思います。
この理論を知って自分の状態をはっきりと掴むことで、より良い未来の道が見えて幸せになってくれると嬉しいです。

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