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波多野爽波俳句全集を読む⑤-1

第四句集「一筆」以降に発表された句が補遺として収録されています。補遺の選者は岩田奎さん。並び順は、年代が特に記載がありませんでした。

※(2024.08.14加筆) この補遺は、『鋪道の花』から『一筆』以後までの未発表作から選んだものとのコメントをいただきました。

「一筆」以降の句は、「写生」のあまりに、一物仕立てというより、景全体を切り取ることで生じるような、取り合わせの跳躍がぶっ飛んでいる句が多くて、個人的に一番心惹かれたパートでした。沢山頂いてしまいました。

一つにまとめようと思ったのですが、どうしても落としきれないので、このパートは2つに分けて掲載しようと思います。

種痘して暗き廊下を階段を
ラグビーの創顔にあり大試験
ヘッドライト花火果てたる群を照らす
冬薔薇すべての音は天が消す
春の蚊の友の如くに近づき来
星樹点滅あとかたづけの皿の音
晩夏光トランプ椅子の下に散り
蟻わたる芝に楽譜を置けばすぐ
きりきりと巻かれかがやく夜の日傘
ひらきゐる片目を散水車よぎる
月も新秋テレビ喜劇に手を打つ家
苗札やくらき天より雨そそぐ
余花に佇つ巡査が革の匂ひして
青嵐秤に針の微動して
孔雀翅を広げ梅雨砂傷つかず
パンと牛乳ここまで買ひにきて秋風
海豚で酔いベルトのように舗道流る
レースのひとから手の切れるような紙幣さつ受けとる
西瓜の丸さ重さ明日が測られぬ
どこまでも絨緞で疲れるホテル星が流れ
冬の旅忠実な目覚時計れて
袋に金魚雨に発光する街空
雲飛んで石榴が裂けて幾何解ける
鉄板道路除夜の星ぞくぞく殖ゆ
受信体となる曇天の寒鮒釣
ぶらさげたカメラに逆しまの凍鶴
北ひらく北は痛ましきまで疵つき
北ひらくありあり男女愛欲図
獣園に張る等質の薄氷
メーデー見下すウエイトレスの生まの腕
にわかに夏空空港に蒸発する花束
実梅から見えぬところに置く鏡

「波多野爽波俳句全集」暁光堂俳句文庫

「レースの女」は、第一句集「舗道の花」の「春暁のダイヤモンドでも落ちてはおらぬか」に戻ってきたかのような定型を外れた句なのですが、さらにそこから自由に「写生」をしているのが印象的。

「種痘して」「ヘッドライト」「星樹点滅」「晩夏光」「蟻わたる」「メーデー見下ろす」あたりの句は、まるっと景を写生している句だと思うのですが、A視点、B視点のようなものも感じます。大きな景をまるっと写し取っているような感覚。

「どこまでも」の句は、近景の「写生」、内の「写生」、遠景の「写生」となってて、唐突な「疲れる」の措辞に実感があって、フフッとなってしまいます。

「パンと牛乳」の句は、改めて読み返してみて、

西日暮里から稲妻みえている健康(田島健一)

田島健一さんのこの句に感覚が近いのではないかなと感じました。私は、田島さんのこの句のほうを波多野爽波の句よりも先に知ったのですが、振り返って、ああ田島さんのこの句も、もしかしたら「写生」だったのかも、と考え始めました。

後半に続きます。



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